正月は冥土の旅の一里塚 | marginalia

めでたくもありめでたくもなし。

というわけで新年です。去年はだんだんSNSに投稿することが少なくなって、このブログと、あとしずかなインターネットというサイトに、おそらく誰も見ていないだろうと思ってちまちま好きなことを書いている感じです。私は先月54になったのですが、この年になってますます自分の頭の鈍さというか、ぐずぐずしたところを自覚するようになって、SNSのリアルタイムな速度についていけないのをまあしかたがないかと諦めてしまいました。

 

 ところで2023年を振り返ってみると、まずはじめのほうは論集『吉田健一に就て』に収録されることになる石川淳と吉田の関係についてのエッセイの準備と執筆がありました。編者の川本直さんから実証的なものを、というような依頼を受けて、石川の全集のみならず伝記的な資料と関係論文をいろいろ攫って読んでいったのが楽しかったですね。私はどちらかと言えばあまり作家自身には関心を抱かない方で、石川が二回結婚していたとかはじめて知ったとか、デビューした雑誌「作品」の位置づけとか面白い話がいろいろあって、確かに作品は単体で読むと同時にその置かれた文脈も意識して読むのもアリだなと再認識したものです。論集の方も無事秋に刊行されて、先年書いた「吉田健一と近代」も、編者の一人である武田将明さんから「文芸評論としても研究としても優れたもの」という望外の高評価をいただいて、さらに東大駒場で行われたシンポジウムに参加するなど思わぬ余得に与ったりしたのも嬉しい限りでした。

春から夏にかけては東京創元社の文庫解説を『人類の知らない言葉』『ロボット・アップライジング』と二本続けて書き、また去年から続けて「創元SF文庫総解説」にずっと参加して、年末に単行本に纏まったのも印象深いです。ハヤカワの時にできなかったシマックやハル・クレメント、バラード、八世界などに書けたのが嬉しかったです。『紙魚の手帖』の書評といい、仕事の大半を東京創元社に依存しているのはありがたいですが物書きとしては問題があるかもしれませんね。今年は少し仕事の幅を広げられたらいいなと思いますが、最近すっかり出不精の人見知りになっていて難しい……。

秋は先に書いた吉田本の刊行とイベントがあり、あと冬はずっと原稿を書いていました。連載のほかは基本今年発表になるものですが、一番長いものがどうしても年内に仕上がらなくて今懸命に書いているところです。なんというかとにかく仕事が遅いのをなんとかしなくてはいけません。

 

ではでは、最後に去年読んで面白かった本10冊です。SFは書評に書いてるので除いて。

  • 『汚れた歳月』アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ(松本完治訳 エディション・イレーヌ)
  • 『メタモルフォーゼの哲学』エマヌエーレ・コッチャ(松葉類、宇佐美達朗訳 勁草書房)
  • 『上海灯蛾』上田早夕里(双葉社)
  • 『フッサール 志向性の哲学』富山豊(青土社)
  • 『クロード・シモン-書くことに捧げた人生-』ミレイユ・カル=グリュベール(関未玲、上田章子訳 水声社)
  • 『アートの力』マルクス・ガブリエル(大池惣太郎 、柿並良佑訳 堀之内出版)
  • 『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない: ~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議』ソマイア・ラミシュ、柴田望ほか (安藤厚ほか訳 MyISBN・デザインエッグ社)
  • 『エピソディカルな構造 〈小説〉的マニエリスムとヒューモアの概念』吉田朋正(彩流社)
  • 『アルチンボルド エキセントリックの肖像』ジャンカルロ・マイオリーノ(高山宏訳 ありな書房)
  • 『戦争』ルイ=フェルディナン・セリーヌ(森澤友一朗訳 幻戯書房)

感想とかも個別に入れようかと思ったのですが、ちょっと時間がかかりすぎるのでとりあえずリストだけで。そんなわけでまあ今年もマイペースで淡々とやっていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。