FF12 製作者インタビュー

ヴァンネロ FF12

 

 

 

 

一部抜粋しています

出典元 ファイナルファンタジーXII アルティマニアΩ

ファイナルファンタジーXII アルティマニアΩ(SE-MOOK)

 

 フランとバルフレアは近すぎず遠すぎずの距離感

 

──本作の、奥深くリアルな物語は、どういった過程で生まれたのでしょう?

渡辺大祐:僕が開発に途中参加したときには、すでに松野さんが作ったプロットに沿って、物語中に行く場所や戦う相手、イベントの内容がだいたい決まっていたんです。ただ、人間関係や世界設定が入り組んでいたので、それらを全部シナリオ内で説明しきれるか不安がありました。だから、シナリオを書く前に一瞬、『主人公が悪を倒して世界を救う』というベタな方向で強引にまとめてしまおうかな、とも思ったんです。でも、そうすると話が単純になるし、多くの設定を切り捨てることになるから、それはしてはいかんだろうと。さらに言えば、今回の絵づらがとても重厚でシブいので、大人の登場人物には大人としての思考回路を持ってもらわないと、おかしく見えてしまうんです。


渡辺:実際にキャラクターを作っていくときには、義務や目標、課題を考えるとやりやすいんです。たとえばギースだったら、『ヴェインに気に入られつつ、いかに出世するか』が一番大事な課題だと決めれば、セリフを書きやすくなる。そのキャラクターにとって一番大事なものを決める、というところから作っていった感じですね。直接セリフで言ってはいませんが、そうした部分を追っていくと、どのキャラクターも首尾一貫してるはずです。

──そう考えると、フランにとっての一番大事なものが、少しわかりにくい気もしますが……。

渡辺:やっぱりバルフレアとの距離感じゃないかな。彼女はヴィエラ族なので、ほかのパーティメンバーと時間の流れがちがうじゃないですか。フランがまだ元気なうちにバルフレアは歳をとって死んでしまいそうですし、それを見越して近すぎず遠すぎずの距離感を保つことを大事にしているんじゃないかな。

秋山淳:ただ、製作者側としては、フランはあえて内面をあまり見せない方向にしていたので、彼女の一番大事なものが謎のままでもいいのかな、とも思いますね。

──キャラクターのなかで、作っていくのに苦労した人物はいましたか?

渡辺:バッシュのセリフを書くときは、似た路線のキャラクターである『FFX』のアーロンとはちがう魅力を出したかったので、どうしようか非常に悩んだ覚えがありますね。最初の設定だと、バッシュは結構カタブツになりそうだったんですけど、男らしい不器用なユーモアもある人物にしたかったんですよ。その部分が、オンドール侯爵の屋敷で剣を抜いてつかまるときの『悪いな、巻きこむぞ』とか、アーシェが自分を盗んでほしいとバルフレアに頼んだときの『きみにかかる賞金も跳ね上がる』といったセリフに表れています。マジメな騎士といっても、『FFIX』のスタイナーみたいにはならずに、適度に余裕がある感じですね。僕のなかでは、パーティメンバーの6人のなかで、バッシュが一番優しい人というイメージなんです。

 

 恋愛とか嫉妬みたいなものは、当初から積極的に描こうとは考えていませんでした


──ヴァンとパンネロは、恋人ではなく、あくまでも幼なじみという想定なのでしょうか?

渡辺:そうですね。まあ、ヴァンはちっともパンネロの気持ちに気づいてないよ、みたいな感じはあるかもしれないですけど(笑)。

秋山:うん。ヴァンとパンネロ以外に、バルフレアとフランもそうですけど、恋愛とか嫉妬みたいなものは、当初から積極的に描こうとは考えていませんでした。それこそ、そう感じ取ってもらってもいいですよ、くらいの気持ちです。わざと恋愛要素を排除していったわけではないんですが、それ以外にやりたいことが多くて、今回は僕や渡辺の思考がそっちにあまり向かなかったんですね。

渡辺:自分としては、フランがバルフレアに『意外と顔に出る』と言う場面も、ちょっと恥ずかしくなるくらい濃い関係をにおわせちゃったなと思っていたんです。でもそこを、あっさりしていて食い足りないと感じる見かたもアリなんですよ。どんな風に受け取るかは、その人の恋愛観に依存するんじゃないか、という気はしますね。


──今回の物語では、兄弟の絆や過去の因縁といったものが目につきましたが、これは当初からコンセプトとして意図されていたものなのでしょうか?

秋山:大元となる松野さんのプロットに、そういうコンセプトがあったわけではないですね。どちらかというと、渡辺の嗜好によって、そうなっていきました。

渡辺:振り返ってみると、僕がはじめてシナリオを担当した『デュープリズム』も兄弟ものなんですよね。で、今回のアーシェみたいに″王女が高飛車″というのも『デュープリズム』と同じかも(笑)。

──その″高飛車な王女″のアーシェですが(笑)、どのような人物として作られていったのでしょうか?

渡辺:僕はアーシェのセリフを『この人はパニックになっちゃってる』と思いながら書いてましたね。しがらみが大きすぎて、目の前のことしか見えなくなっちゃってる、という感じです。それから、『FFX』のユウナと似ないように気をつけました。ユウナは召喚士としての使命をしっかりと受け止めていましたが、アーシェは彼女なりにがんばっているけれどユウナのように世界を動かす特別な力はない。『ふつうの人が、大きすぎるものを背負ってしまった』というのが、アーシェのコンセプトでしたね。

 

 『FFXII』の物語をネタにして友だち同士で語り合ってもらいたい


──ここまでのお話をうかがってきて、『FFXII』の物語を、いろんな解釈で楽しんでほしいというおふたりの気持ちが、とても強く伝わってきました。

渡辺:まさにそんな思いです。ゲームって、コントローラーをにぎって遊ぶだけでなく、その作品について友だちとしゃべるのも楽しいですよね。もちろんホメてもらったほうがうれしいけど、極論してしまえば悪口で盛り上がった時間が楽しく感じられたなら、それもまた楽しみかたのひとつかな、とちょこっと思っていたり(笑)。これはすべての物語で言えることですけど、『あそこがよかった』『あそこはちょっと惜しいな』といったように、作品をネタにして語り合うのって、すごくおもしろいんですよ。物語について深く考えたり、ほかの人と語り合ったりするのは、とても楽しいということを、世間の皆さんに訴えたい(笑)。

秋山:そうなんですよね。とくに今回は、能動的に考えてもらったほうが楽しめるものになってますから。

渡辺:語り合うことで人同士がつながる場合もありますし。たとえば、僕と同世代の男性だったら、はじめて会ったときに話が通じなくても、『ところで、一番好きなモビルスーツは何ですか?」と聞けば語り合えたりする(笑)。これは僕がまだこの会社に入る前の体験談なんですけど、『FFVII』のエンディングで、セフィロスを倒したあとにライフストリームのなかから手が伸びてくるじゃないですか。僕はそれがエアリスの手だと思っていたんですが、友だちが『いや、あれはセフィロスの手なんだよ』と熱く語ってくれたのを聞いて『なるほど!』と感心したことがあるんです。そのときに、自分とちがう解釈をしている人としゃべるのは楽しいと実感しました。『FFXII』でも、そうした楽しみかたをしてもらえたらうれしいですね。

 

 

 

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