文法訳読式の指導法は乗り越えられなければならない (3) その6 | writfren-edのブログ

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8] Syllabus Lesson plan の詳細な検討の必要性と ‘eclecticism (折衷主義)’:

上記に、[なぜ eclecticismなのか] の項で述べた、‘自分達の教える学習者に合った、自分達の方法を創り出すために、どの教授法を、どう組み合わせるか・混ぜ合わせるか’ ということ、或いは、このブログのテーマの一つとしての、折衷主義の中に存在する複数の教授法の一つとして G-T を如何に上手く採り込むかを検討することの必要性について指摘しました。そして、その際に、議論の土台となり、材料ともなる教科書の syllabus に加え、その教室に於ける具体化である授業の中身についても、若干検討する必要がある為、そこから始めたいと思います。

 

筆者の私見では、syllabus の具体化である教科書とされるものは、譬え英語国で編集され、どんなに良く出来たものでも、教える対象である学習者を前に置けば、‘帯に短し、襷に長し’ です。従って、本当の教育の中身は ‘教師の頭の中にある自身が組み立てたコースや授業の計画とその実現’ ということになります。そうであれば、その為の材料としての教科書は ‘どう使うか’ という観点で見て、プランの際には何等かの adapt 或いは create の作業をするものということになります。そして、このことが、syllabus のみならず lesson planning にも検討が及ぶことの理由ということになります。

 

Syllabus designing

ある英語コースを学習者に提供する必要が生じた場合、提供者(含む教師)が行う、いわゆる curriculum activities (強調された部分の①②⑤⑥⑧)がどのようなものかを簡単に見てみたいと思います。それは、

 

   ①  先ず学習者の学習言語に関する NEEDS を分析し

   ②  その要求を満たし得る言語能力が何かを明確に示す OBJECTIVES を作る

   ③  通常はこの段階で、並行してどのような ‘teaching method (教授法)  

        approach’ を使って教えるかも検討する;

   ④  上記の三つの作業を通じて、教えるべき内容の列挙である ‘syllabus’ の設計が行われ

      る;

   ⑤  出来上がった syllabus を基に教材を作り TESTING してみる

   ⑥  テストして上手く作動するようなら本格的に MATERIAL development を行う

   ⑦  その開発の際に様々な教えるための ‘techniques’ の検討やテストも同時に行われる;

   ⑧  Material development が終われば教科書が姿を現し、それを基に TEACHING 

              行われる;

   ⑨  実際の教育活動は、採用された教科書のみに頼るなら material development の際に

      採用された ‘exercises’, activities, tasks を使って行われる

 

                        (大文字・太字の用語の流れは curriculum activities; 下線のある小文字の用

                            語の流れは teaching activities

 

という形のもので、実際には ①~⑦ の各段階を、相互に、繰り返し、行き来しながらプランと教材開発を行ないます。そして、検定教科書制作の過程で、現実に起こることは、概ね次のようなことでしょう。

 

小学校・中学・高校のような国家の教育の一部を担う科目のコースの場合、curriculum activity では needs analysis は行われず、国家が国民に求める語学力という意味合いのOBJECTIVES が作られます (ここには組合の見解等も絡んで結構複雑な状況もあり得る >「文法訳読式指導法は乗り越えられなければばらない (1)」 も参照)。しかし English for Specific Purpose (含む English for Academic Purpose) のような具体的なものにはなりません。いわゆる general course であり、直ぐに英語を使うかどうかは学習者によって異なるかも知れませんし、特に専門的な事柄 (例えば、自動車修理技術者やホテルの給仕など) に関わる、特殊な語彙や表現は必要ないからです。

 

従って、語彙も文法も重要部分は概ねいわゆる core level と言われている範囲を中心に決めることが出来ますし、目指す言語運用のレベルは、小学校の入門期からレベルの高い高校でも中級 (概ね CEFR の B1で、一部の skill が B2) 程度です。だから、文部科学省指導要領に、教えるべき文型や語彙のリストアップが出来るということになります。そして、指導要領には、上記 ④ の syllabus の段階で採用するべき syllabus のタイプや教える項目の配列順序などの細かい指定はありません。この部分以下が教科書の編成者や教師に任されているということになります。

 

上記のことから、検定教科書という名の ‘文部科学省 syllabus + 教材’ に於いては、テキストの製作者・編集者は、既に決められている(国家の意を受けた)general English course の objectives と指定された文法項目等に縛られて、その中身を決めることになります。そして、そのプロセスの中で、以下のようなことが起こり得ます:

 

   ⑴  文法項目が指定されていることから、structural syllabus の採用は既に決定したよう

      なものである。

   ⑵ 「外国語の背景にある文化に対する理解を深め」 (指導要領より)のような記述もあ

             り、結果的に topical syllabus の採用に誘導される。

   ⑶  Topical syllabus と structural syllabus の integration syllabus が出来上がれば、

      決まっている教科書の規模の範囲内で、題材を決め、各 lesson/unit に文法項目(恐

             らく言語形式の単純から複雑に向けて或は使用頻度)を割り付け、調整を繰り返しな

             がら適当な language focused の練習問題を加え、メイン・ストリームの教材が出来

             上がる (これだけで与えられたページの 40~50%を占める)。これが、語彙・文法・

             発音・談話の構造を学ぶ  ‘learning language’  の言語活動の為の材料となる。当然、

             中学用教科書の場合、finely-tuned input 主体となり、高校用も書き直した semi-

             authentic の様相の強いものとなる。いわゆる authentic text は皆無に近く、在って

             も掲載されている英語国で作られた ‛英語の歌' 程度である。

   ⑷ もう一つの重要な柱である 4 skills は、‘using language’ の言語活動であるが、多く

             の場合各 lesson の末尾の ‘learning language’ の為の教材と並立して、練習問題のブ

     ロックにまとめられる。そして、内容にメイン教材の文法項目を含めたり、トピック

             を合わせたりしようとする傾向もあり、‘取って付け’ の雰囲気を漂わせ、学習のボリ

             ュームが比較的小さいものも多いという印象を受ける。 

 

上記の様なことをみれば、ザッと考えただけでも、教師は、

 

   (1)′ Structural syllabus を採用して、教師に skill area の指導のイメージが無け

               れば、language focused instructions の方向に流され易くなる;

     (2)′ Topical syllabus の話題は全ての学習者の興味を引くことが出来ないという宿

               命を持ち、その教材内容だけで長期間学習者の motivation を高く維持するこ

     とは困難;

   (3)′ 配当ページ数の 50%に近い部分を learning language の為のメイン教材とし

               て dialogue 又は passage のテキストが占めることから、基本的に reading,

               speaking の為の基礎練習は必然的に多くなるが、4 skills の内の listening 及

               び writing の領域が量的に薄くなることを意味する可能性が強い;

   (4)′ 幾つかの教科書を見た印象としては、skill area は、adapt の対象として検討

               してみる必要があると思えるが、特に writing の領域の扱いが弱いと言える。

               Sentence から passage に至る明確な方針を作る必要があると思える

 

のようなことに腐心せざるを得なくなると思えます。

 

既に述べたように、コース編成を行う場合、本質的には、カッコ内に再度示した curriculum activities (= NEEDS ANALYSIS OBJECTIVES TESTING MATERIALS TEACHING) の全てを教える側の教師個人が背負うことになります。しかしこれ自体が大変な時間とエネルギーを必要とする作業であるが故に、通常の course design の場合、TEACH‐ING’ 以外の部分は参加者のグループで行われます。

 

そして、教師個人としては、curriculum activities の各段階で検討されている事柄に対応する teaching activities (= approach > syllabus > techniques > exercises ) の検討を行い、それを念頭に置いた上で、TEACHING’ に最大のエネルギーを注ぐということになる訳です。言い換えれば、検定教科書完成の段階で TEACHING’ 以前の作業は終わっていることになり、勿論両方の分野に関わっている教師もいますが、個々の教師の仕事は、teaching activities のみというのが建前です。

 

教える現場を任せられる側の教師は、teaching activities を行い、設計されたコースの更なる具体化を行なうことになります。

 

このようなことから、英語科或いは教師個人は、指導要領・検定教科書・教師用指導資料等を材料に、上記の ③>④>⑦>⑨ の段取りで teaching activities を行い、設計されたコースの更なる具体化という意味での、自身の授業の lesson plan を書くことが、新学期が始まる前の仕事ということになります。

 

そして、筆者の私見では、最も古い教授法である G-T がそこに依存している structural syl-labus を採用すれば、それだけで、いわゆる learning language の為のコースを構成することが出来ます。従って、最も古典的な G-T である ‘語彙+文法ルールの説明+翻訳’ という構成の教材に依拠し、教える文法項目を含む  ‘文 (sentence)’  を寄せ集めれば、その教材でも授業が出来ます。これに加えて、よく言われる教師の ‘目標言語の運用能力が弱くても’ 教えることが出来るという状況があれは、やり易い方向へのスライドも起こり得ます。すなわち、この手法のような立場で教材を分析し、授業内容を再構成し、コースの主要な教授法として G-T を採用することへ道が開かれ易いということもあり得るでしょう。筆者は、実際にそんな方向で編成した自主教材という名の補助教材ハンドブックを見せられたことがあります。その学校では低いレベルのクラスに於いては検定教科書を放り出して、その教材を中心に置いた授業が行われていたようです。まず基本的な文法が出来るようにならないと、’読み・書き・話す’ など無理であるという考え方がその背景にあるようです。

 

更に、topical syllabus をということになると、採用されるメインのテキストは、何らかの方針に基づいてイベントに関するものを並べて行くことになります。一方で、この topical syllabus は situational syllabus の中に含めてしまい、これを区別しない学者や syllabus designers もいます。即ち、言葉が使われる ‘場面’ に焦点を当てて指導文法項目を選ぶ situational syllabus と同質のものと見なされているということです。これは、言葉の教育という観点だけから見れば、この区別はそれ程重要ではないと思われていることを意味します。現実に、検定教科書でもトピックで構成されている一連の lesson の中に明らかに situation を示すタイトルの付いているものも見られます。どちらにしても、topical syllabus で教科書を編成することのメリットは、一冊の教科書としての、取り上げている内容の流れの一貫性を維持し易いという点にあり、恐らく文部科学省の教科書検定でも歓迎される要素であると云えると思います。加えて、戦後の教科書は皆この topical syllabus を採用しているので、実績もあり、無難でもあります。そして、教師にとっては、安心して受け入れやすい要素ということになります。

 

更には、例えば 10 ページ中の 4 ページにメイン・テキストが割かれ、残り 6 ページに learn-ing language, using language 双方の練習(問題)を押し込むとなると、絵や写真も多い現在の教科書では、編集者にとっては大変な難題になります。Using language 領域に入る練習は、当然?のごとく、adaptし、その課題を含む別ハンド・アウトを用意するなどして、学習者に分かりやすい工夫をする方が良いようなものが多くなることは想像に難くありません。提示方法・練習量等、そうしないと使い難いという場面が出てくるからです。そして、それでも、編集者が苦労して、頑張って押し込んだ communicative の要素を含む skill area の為の練習の幾つかは、既述の白表紙のサンプルを持参した、アンケート調査とも、営業活動とも、どちらとも云えないような活動を通じて、伝統的文型操作のような練習に代えられる運命にあるというのが実情と言えるのでしょう。これは、G-T を採用する教師にとって、扱い難い activity が軽減され、気が楽になる要素とも云えます。

 

このような形で出来上がった教科書ですから、使う時は、どうしても使い易い learning lan‐guage の為の練習を使った学習活動に重点の向かう傾向もあります。従って、条件が整えば、既に述べたように G-T 手法で教えるという選択が非常に簡単になります。その場合、教科書準拠の練習問題などを追加して授業を構成し、自然に using language に属する練習問題が排除されてしまう可能性があるのですが、その決定は教える教師の双肩に掛ってしまうことになります。

 

検定教科書の作成過程と授業準備の間に起こり易い上記の様な現実や問題点を直視し、本来その教科書が目指すべき目標の自校に於ける実現を念頭に意思統一をするのが基本です。ところが、英語科内の共通理解を創り出すことに消極的であれば、最悪の場合、各教師は現場の状況 (生徒の実態) に合わせ内容をドンドン変更し、無意識の内にテキストの屋台骨の部分まで抜いてしまうこともあり得ます。テストの内容をそちらに合わせてしまえば、出てきた score という数字を見ただけでは内実は不明です。当然、英語科内で当面の簡単なルールや約束事を作る形で意思統一して運営し、これを阻止しようとすることは、現実に頻繁に起こり得ます。しかし、このやり方では、本質的には各教師の勝手な授業と評価を許すことにもなり得ますので、長い間に必ず大きな齟齬に発展する可能性を含んでいると云えます。これを回避するには、英語科の構成員全員で上記の curriculum activities や teaching activities の中身を念頭に、教科書の取り扱い方や年間のコースと授業の流れに関する英語科内の議論を深めることが望まれるでしょう。言い換えれば、curriculum/syllabus designing がより良い方向で教師間のコンセンサスを創り出し、自校独自の syllabus を持つということの理解が必要になります。しかし、その現実の前には、上記「文法訳読式の指導法は乗り越えられなければならない (3) その5」に載せた ⓑ のブログ記事の著者や文法薬毒式のブログの著者が指摘しているような障壁の存在は枚挙に暇が無いということなのかも知れません。

 

こうした状況の中で、検定教科書を使い、G-T に限らず様々な教授法の長所を組み合わせたコースや授業の編成を行うことが求められるのですが、‘言うは易し、行なうは難し’ ということになります。どのようにすれば上手く行くのかについての良い方法は俄には分りませんが、

 

   - 中学の場合は、using language の練習を多く採用しようとする傾向も見られ

               ることから、上記の curriculum activities や teaching activities の流れに

               従って、与えられた検定教科書に関して議論してみる;

   - 高校の場合、複数の中学から生徒が集まることを踏まえ、簡単な needs

               analysis を行い、上記の curriculum activities や teaching activities の流れ

               に従って、採用した検定教科書の重点設定の為の議論をしてみること;

   - 教科書の中で特に重点と思える文法項目の選択とその扱い方 (例えば、その項

               目だけ cyclic syllabus にして繰り返すか、liner syllabus のまま一回順を追っ

               て消化して終わりにするかのようなこと等) について議論する

 

などのようなことから取り組みを始めるのが良いように思えます。このような作業を通じて少なくとも自分達の分っていること及び分っていないことについての理解が出来、そこを再度の議論の出発点にすることが出来るからです。そして、一年間のコースの何処に G-T 手法或はその他の教授法の方法論を入れ込みたいかという観点での議論も有効かも知れません。なぜ其処にこだわるのかが明快になり、解決に向けてどのような新しい知識が必要なのかも分って来るからです。

 

Lesson planning

上記のような curriculum/syllabus designing と、いわゆる ‘TEACHING;teaching ac-tivities’ の領域だけで議論しても、なかなか問題が明らかにならないという意見があります。議論をより具体的にするためには、ある程度詳細な lesson plans を出し合って、それらを基に議論をしないと分からない部分もありますし、更に 担当者相互に class observation 等も行ってより具体的なイメージを得ないと分からないからです。ベテランの教師同士でもそうですから、新人教師にはなおさらの事です。そこで、ここではその lesson planning について若干の検討を行い、次に考えをつなげる手掛かりとしたいと思います。

 

授業は、当然提供される英語コースの実現であり、幾つかのパターンに沿って構成され、総時間数及び 1回の授業時間の長さなどの時間的制約のもとにプランされることになります。そして、このブログのテーマは G-T を折衷主義の中にとう生かすかということにありますので、まず検討するべき教授法の G-T が何であるかを再度確認し、その上で授業構成の為のパターン等との関りを検討してみたいと思います。

 

何を文法訳読式とするか:

既に行った議論で分かる通り、G-T 手法と言っても色々な方法論が存在し得ます。他の組織化された教授法と比較すれば結構ザックリとした記述しかない G-T ですが、「文法・翻訳式教授法 (G-TM)」と「文法・訳読式教授法」の二方式は「文法訳読式の指導法は乗り越えられなければならない (1)」で示したようなこの方法論の定義に従って計画・運営されている教授法と言ってよいでしょう。そして、この方法の根幹をなす一単元の構成の仕方は、「文法訳読式の指導法は乗り越えられなければならない (3) その1」で触れた、 J. Seidenstücker and J. Ahn が確立した ‘文法ルール、語彙、テキスト及び訳すべき(練習用)単文’ 、即ち G-T の典型ということになります。また、この方法論の学習活動の中核は、習った項目の ‘暗記’  と、いみじくも「文法・訳読式教授法」がその内容を明らかにしてくれた、‘文法ルールの学習とconstruing/ parsing を応用した翻訳活動’ ということになります。言い換えれば、こうしたことが意識されていない G-T 手法?は、G-T なのか、単なる日本語 (母語) の有効活用と分類した方が良いのかは不明という考え方も可能ということになります。尤も、こうした二つのカテゴリーに属する方法の実践の交流を通して G-T 手法が発展しているという主張も可能でしょう。従って、現在  G-T と呼ばれている手法が一般にどのように受け止められているのかを知る意味で、以下に短所と長所を挙げた上で少し考えてみたいと思います:

 

  短所:

   ①  対訳を課す為、予習・授業ともに必要以上に 時間や労力がかかる;忍耐も必要にな

      るので、学習者のモチベーションの維持も難しい;

   ②  目標言語と母語の間に一対一の関係が存在すると思い込ませてしまうことに加え、四

              技能や音声を処理する能力開発の方針がないので、伝達の必要性に迫られたときに対

              応できないことなど;

   ③  100%人工的な環境の中で生きる「金魚鉢モデ ル」(吉田研作: ‘金魚鉢から大海へ

              ― 小学校英語教育への示唆’  Communication And Language Associates 

              NEWSLETTER 2002 SPRING ISSUE pp.2-4)である為、「言語は説明からではな

              く,インプットから学ばれる」とする大海モデル (S. Krashen: Input Hypothesis

              1985)を 推す根拠となっている。

 

       所:

   ①  母語と目標言語の比較をして言語の共通点や相違点に気づける;

   ②  大きなクラスサイズでの指導が容易;

   ③  高い知的レベルの指導をおこなうことも可能

   ④  細かいところまで文法規則を学び、翻訳を通して文法・語彙を細かくチェック

        するので、文法規則の理解は深まる。その際、ⓐ 学習者が理解し易いように

              PPP (Presentation, Practice, Production) の手順を採り、ⓑ 教師の説明 >

              間違いを振り返り > 正しい英文の内在化や自律学習の促進が期待できる。

         ⑤ 教師側に目標言語の口頭能力がなくても教えられる 。

 

                   (‘文法訳読法の特徴、メリット、問題点について’ ,  旅する応用言語学,

                           2021年12月23日; 井上聡: ‘文法訳読法の新たな教育的応用: 学習

                               方略の観点から’, 2016  の記述を基にまとめる)

 

短所 ① を除く井上 (2016) の論文の情報は 2007~2013 年の間に出されたこの分野の研究論文を基にした整理ですから、英語教育の分野で主流の考え方とされているものとみて良いでしょう。そして、長所の ④ 以外の中身は、筆者にとって既に何処かで目にしたものということになります。この ④ は、PPP という手法と自立学習の促進という、本来 G-T の発想の中には無い筈の G-T 確立以後に現れた概念です。恐らく、‘現代語を教えなければならない現実’ の中で、発音等々も取り上げるのと一緒に採り入れた方法論なのかも知れません。そこで、先ず G-T と PPP の関係の問題について少し考えてみたいと思います。

 

本来 PPP とはどういうものか:

既に「文法訳読式の指導法を乗り越えるための一つの考え方 (2)」で取り上げている PPP は以下のようなものです:

 

                  Present (= Focus + Analysis) > Practice > 

Produce/Production (= free, communicative practice)

 

PPP は理論に裏付けられたものというより、方便としての method と見做されているものです。Audio-Lingual Method が脈絡から切り離された 文 (sentence) のレベルの練習に終始することが問題視されたことから開発されてきたものです。従って、当初の取組みの典型的なものは、学習者を明確な場面情報 (situational context)の中に置いて、コーラスによる繰り返し、個人による繰り返し、teacher-student の cue-response による語句の入れ替え練習を通じて、言葉を教えようとするものです。従って、本来 situational language teaching と結び付いた方法ということになります。

 

そして、具体的には、次のような方法となります:

 

    名前が分かるように加工した 6人が、何らかの行動をしている写真を見せ

                       +

    What’s John doing … anybody? のように質問し、He’s listening to music.

            を学習者から引き出そうとする (少し出来るようになると、学習者から言葉を

            elicitすることが一般的だが、最初の例として、He’s listening to music. を提

            示する場合も多くある。特に beginners level)<Present = P1>

                             

                                                        ∨

            Teacher:  Can you tell me?  Mary? …. Yes, Takako.

            Learner:  She’s [Mary's] reading a book.

          Teacher:  Good.

    

            のような Teacher-Learner の対話を 6 回繰り返す <Practice = P2>

 

                                    ∨

            学習者の家族が現在何をしているかを想像して、報告させる:

 

            Learner 1:  My father’s smoking a pipe.

            Learner 2:  My brother’s watching TV.

            Learner 3:  My sister’s making telephone call.

 

           のような ‘Learner reports, class listen’ の作業を繰り返す。 作業内容を分

           からせる方法は word or phrase + gesture 又は短い日本語による指示。 

<Produce/Production = P3>

 

このタイプの PPP は、学習者が意味を理解して行くプロセスや発話に導かれるプロセスが分かりやすいことから、現在もこれを使う教師は多いと言えます。P3 が real communication に近い要素を持っているからでもあります。しかし、Teacher-Learner interaction に大きく時間が割かれ、テンポが遅く、数名の小クラスでしか注意力を維持できないことが欠点であり、批判されている経緯があります。

 

蛇足になりますが、上記 syllabus の項で触れた topical syllabus と situational syllabus の区別の曖昧さに関わって、検定教科書に明らかに situation を表題とした lesson もあるということを述べました。しかし、その場合も、finely-tuned の対話教材や reading 教材が中心になり、通常上記のように学習者が教師との関りで自身の発話を作り出すことを求められる場面に置かれるような授業にはなりません。相当な授業計画の変更や adaptation を必要とするからです。このことは、topical syllabus は ’言葉による伝達’ (communicative への入口となる概念)という観点では、学習者を当事者ではなく、傍観者の位置に置き易い傾向があるとも云えます。プランの際に、この点には注意を払う必要があります。

 

上記の PPP の問題点を解決し、もう少し大きなクラスでも扱えるようなものとして、P2, P3 段階に、以後に現れる communicative の方法論も採り込みながら、様々な工夫がされた結果でしょう、テンポが早く 20名程度のクラスでも十分 work する以下のような方法が現在では主流のものとなっています:

 

   1] Present (= Focus + Analysis)     語彙チェックを終え例文/対話文の提示  (P1)

                     ∨

              Practice P2a        Drill 繰返し練習);意味に注意は向かない

                                                           ∨

              Practice P2b      Controlled, meaningful closed infor-gap

                                                           ∨

             Practice P2c      Less-controlled, meaningful 

                                                               open infor-gap

                                                           ∨

             Writing Practice       (ここで初めてspellingを見せる場合も多い)

                       ∨

             Produce/Production (P3)   Freer, meaningful 

Improvisation (Role-play

                     

(International Houseの資料)

 

 

   2] Present (= Focus + Analysis)     語彙チェックを終えた後の例文/対話文の提示

                    ∨

    Control    Performing memorized dialogue    P2a

                                                          ∨                                                         

                       Contextualised drills                  -P2b

                                                          ∨

         Cued dialogues                              -P2a P2b

                                                          ∨

                       Role-playing                                   P2b P2c

                                                          ∨

      Creativity   Improvisation                      Freer, meaningful

                                                                                      Uncontrolled Role-play; P3

 

(Littlewood: Communicative language teaching, 1980)

 

                             ※  1], 2] の PPP では、P2 の部分が1つの練習で終わることは無

                                  く、‘varieties of practice’ と呼ばれています。Individual work, 

                                  pair work, group work 等の様々な練習形態で、information-gap,

                                  problem-solving 等多種類の練習が行われます。こうして、言葉を

            沢山使わせないと、最後の自由な発話である P3 段階が沈黙の時間に

                                 なり兼ねないからです。

 

このように、本来 PPP は対話練習を効率的に行うために開発されて来たものなのですが、日本で発売されている授業作りに関する本を見ていると、特に speaking area でどの方法を基礎にして授業構成が行われているのかはっきりしないことが多いような気がします。そのせいでしょうか、授業見学の時、教師が結構長く喋って、何をしたいのか良く分からない授業も結構あるという印象を受けます。

 

G-T  PPP の関係はどうなるのか:

本来の PPP が上記の様なものであるとすれば、井上 (2016) で触れている PPP はどう考えれば良いのでしょうか。

 

G-T の授業に関わる情報としては、既述の

 

   ― 文法ルール、語彙、テキスト及び訳すべき(練習用)単文

   ― 暗記と文法ルールの学習と construing/parsing  を応用した翻訳活動

 

があるだけですので、ストレートに考え、上の1] 又は 2] の授業の枠組みに嵌め込めば、授業の流れとして当面思いつくことは、以下のような組み合わせになります:

 

   1⃣  日英対照語彙学習 > 文法規則説明 (P1) > 単文による練習 <複数>(P2)

            テキストの文章の翻訳 and/or(作文の為の文章の)和文英訳 (P3)

 

   2⃣  日英対照語彙学習 > 文法規則説明 (P1) > テキストの文章の翻訳 (P2))

              > 単文による練習<複数>(P2)    

            > テキストに無い新しい文章の翻訳and/or 文書の和文英訳  (P3)

 

G-T で扱える領域は learning language の範囲内のことですので、本来文法学習の為の練習をP2 に入れ込んで終わりになる筈です。したがって、発音や聞き取り等 4 skills (using lan-guage) に属する部分の基礎的練習は、P2 段階の音読や書き取りの作業という形で入れ込むことになるのでしょう。また、P3 も作業のボリュームが大きい controlled practice  (これは本来の ppp の考え方からすれば ’掟破り’ なのですが ...) となり 、freer practice にはなりません。しかし、もし 2⃣ の枠組みで、タイトルだけを与えた ‘自由作文’ であれば話は別で、これは using language の範疇になる要素が大きくなるでしょう。

 

上記の考え方は、G-T と PPP の組み合わせが行われていることを踏まえたものです。筆者の考えでは、多くの高校の検定教科書の各 lesson に載せてある passage のテキスト(dialogue ではないもの)に、このような形の G-T の授業で取組むことは、効果的な場合もあるように思えます。 Reading の授業で行われている伝統的な方法、‘Pre-, in-, post- for receptive skills’  に替わる方法論として並立させるということになるでしょう。其の際 50分 (今後 45分になる可能性がある) で終わらせるのは難しいであろうことから、二回に分けて授業することも必要と思われます。こうした場合にどのような工夫が可能でしょうか。教科会議や同僚との意見交換等で議論をしてみる価値はあるように思えます。

 

汎用性のある PPP Format

ここまで PPP の授業構成の仕方について考えてきました。ここで、少し脱線になりますが、この授業方法について常に念頭に置いておいた方が良い事柄について簡単にまとめて置きたいと思います。今後、この方法で授業をする際に役立つかも知れないと思うからです。

 

もう一度確認すると、PPP という方法の仕組みは、“speaking から入って、多様な練習を繰り返しながら、自由な発話に繋げる” ことを主眼とした方法であり、

 

             Present (P1) > Practice (P2) > Produce/Production (P3)

 

の三つの構成要素を持ち、P1 > P2 > P3 の 3段階で順を追って授業を行うものです。P1 の段階はいわゆる Focus + Analysis の段階で、その時間に習うべき言葉を学習者に提示します。その中身は、

 

   - 独立したtarget の1文、又は複数の文による提示 + meaning check (絵等)

 

   - Target の文を含む対話文による提示 + meaning check  (絵・質問等)

 

   - Target の文を含む短い文章による提示 + co-text 情報による meaning check

 

         - Target の文を含む聞き取り対話教材による提示 + co-text 情報によるmeaning 

             check

 

のような場合が多く、Palmer の Oral Method の特徴である Oral Introduction 等も上記の方法の異形と言えるでしょう。Oral Method の場合、その後に Q-A による meaning check と reading の作業が続くことが多いようですが・・・。

 

上記の四つの方法以外にも色々なバリエーションは可能ですが、筆者の体験から来る個人的な見解では、いわゆる Innovative Approaches と呼ばれている、Silent Way, Suggestpedia, Total Physical Response は主にこの presentation の方法の一種のように思えます。勿論、この段階で口慣らしの発話もしていますが、これは他のどの方法でも同じです (Suggestpedia は、音楽に乗って教師が朗読するテキストの音声を聞くだけで、例外です)。

 

次に P2 ですが、一番バラエティ―に富んだ部分で、通常以下のようになっていて、ここが教師の練習のレパートリーの広さの見せ所になります:

 

          1] 繰返し練習 (drill) > audio-lingualism の pattern practice (複数種類可能)

 

        2]   繰返し練習 (drill) > meaningful practice (contextualised drills, role- 

                       playing 等)

 

      3]   繰返し練習 (drill)

                        > 教師が言葉と情報を決める controlled practice ((information-gap

 practice, controlled role-play等)

                        > 習った言葉と学習者が情報を決める less-controlled practice

(information-gap practice, uncontrolled role-play等)

                              <PPPの元祖である situational language teaching はプランによっ

                    ては、ここで終わり、P3 は無い場合もあり得る>

 

ここでのポイントは、教師による言葉と情報のコントロールの度合いです。自転車の練習で少しずつ手を離すように、ハンド・アウトなどで学習者に与える情報を少しずつ減らして行き、最終的に P3 段階に持ち込みます。P1~P2 段階に掛けては、もう一つ重要なポイント teacher talking time があります。教師は可能な限り発話を短く、少なくし、単語や句+ジェスチャー・絵等を組み合わせてデモンストレーションし、学習者に作業をさせるよう求められます。長く話しても理解しないし、集中力が落ちるだけと思われているようです。

 

最後の P3 は、既に述べてある様に、その時間に習った言葉を使うのに適した場面だけ (小道具も含み得る)を用意し、主に対話練習の形で自由に話させる形の練習となります。Littlewoodが improvisation と呼び、多く教師が freer practice と呼んでいる部分です。学習者は、使う表現と語彙の選択に制限の無い状態に置かれますので、その時間に習った言葉以外も使用が可能です。従って、多くの教師から「学習者は教えた言葉を使わない」との指摘があり、学習の停止を意味する fossilisation や 自信の無い表現を避ける avoidance strategy の発見の場でもあります。

 

P2 は 1] ~ 3] のどの方法でも、ここで止めてしまい、P3 を行わないことも可能です。その意味で、単に speaking の為の方法論としてだけでなく、色々なプランに応用し、freer practice とは質の異なる作業のボリュームの大きな P3 を追加することも出来る訳で、ある意味で汎用性のある授業構成法ということが云えると思います。

 

この PPP がいわゆる Communicative Language Teaching weak version と組み合わせられ、筆者は 1980 年代に英国で中級前期までの結構多くの授業を見ました。その後日本で見た色々な授業 (PPP の授業を行う教師も確実にいました ) とも比較し、日本人教師の授業に関して持った感想としては、

 

         - P2で終わってしまう授業も多いし、何よりも 45~50分 程度の授業では、余程語彙

            と項目を絞らない限り P3 に入れる程練習をさせ切れないというのが実情。この場合 

            P3 のプランが非常に難しくなる …。

     - Less-controlled practice のプランが難しいようで、余り良いものとは言えない場合

            がある上、その前の controlled practice の練習量が足りない場合も多い。

   - Teacher Talk が長い。正しい英語で話そうとして、時間が掛かる。教師が質問し、

            一人の生徒が答える open pair、次に 答えた生徒が質問し、誰かが答える

    open pair。分かったら、直ぐに二人ずつで始める closed pair の information

    gap practice に入る方が、ずっとスムーズに思える。

   -   ‘Communicative practice’ という用語に誤解があり、単なる oral work で終わ

      ってしまっている場合もある。Communicative Approach のポイントは、 最低

            でも information-gap (他にも reasoning gap 等複雑なものもある)、problem-

            solvingdrama technique (uncontrolled role-play もこれに入る) のどれかの要

            素が無いと communicative ではないことを意識して置く必要がある。

 

のようなことがあります。Communicative ではない PPP スタイルの授業をプランする際にも参考になるかと思います。

 

G-T と PPP の授業構成を組み合わせない G-T 手法の応用はないのか:

もう一つには、上記の G-T 手法を中心に置いて PPP の枠組みの中で使う 方法とは異なる、この方法論の肝の部分である ‘訳読 (= construing/parsing + 和訳)’ という学習活動部分だけを切り離して、他の教授法、この場合主に Communicative Language Teaching weak version の授業の流れである本来の PPP の一部として組み込む方法があります。即ち、

 

         Present (= Focus + Analysis) > Practice (P2a) > Practice (P2b) >

                    Practice (P2c)> Writing Practice > Produce/Production (P3)

 

の授業構成の Writing Practice の部分で、‘それまで黒板の絵や口頭練習のみで行ってきた作業で出来上がった発話を文字で確認する’ という意味合いを変え、‘キーになる複数の文を和訳する形で文法ルールと共に確認する’ という意味で使う ‘訳読’ 手法の部分的適用ということです。こうした方法が、次の段階である自由な role-playing の後押しになるようなケースもあるように思えるからです。

 

もうひとつの方法として思い浮かぶことは、中学45分 (今後 40分になる) 、高校 50分 (45分になる) という授業時間の短さに関わるものです。既述のように、 筆者が英国で見た印象では Communicative Language Teaching weak version の場合、テンポを上げた授業で 90分程掛けて produce/production 段階に辿り着くという感じでした。そうしないと produce/produc-tion 部分が上手く回らないからでしょう。従って、譬え G-T version の PPP の場合でも、P2 部分を複数の練習で構成すれば、produce/production 部分の作業に繋げるには、高校における実質 45分の 50分授業では、時間内に終わらない可能性が大きいでしょう。このことは、2回目の授業は復習から始めざるを得ないということを意味しますので、ここで次の activity なり task なりにつながるような短時間で終わる ‘訳読’ 作業をプランすることが可能であるように思えます。これも一度議論してみると良いように思えます。

 

 

次回は、「9] G-T とStrategy 研究」です。