ライター海江田の 『 シラフでは書けません。 』 -3ページ目

御茶ノ水サッカー倶楽部(後編)

「スタンド・バイ・グリーン」

ずっとスマホに目を落としていたかっすんが、ぼそっと言った。
あの不朽の名作として名高い『スタンド・バイ・ミー』?
少年たちのひと夏の冒険譚である。
ウェンザナイッ、ハズカムッ。
えー、マジかいな。どうなのよ、それ。

「いや、いいかも」と、がががががりー(以下、がりー)。
うっそ、ほんとにそう思ってる?

「思ってる。だってほら、言葉の意味も」(がりー)
「ですよね。緑のそばにいてくれって」(イクシー)

ん、んん、ん?
意味が転じて、応援するとか、支えるってことにもなるのか。
だんだん悪くないように思えるのだから、僕もいい加減にできている。

類似サイトがないか、ちゃちゃっと調べた。
ない。いけるな。
『スタンド・バイ・グリーン』。SBGね。
決めた。それでいこう。
ご協力、感謝。どうもありがとう!

あとさ、自分の名前ってどの程度打ち出せばいいのかね。
「名前はちゃんと出したほうがいい。誰がそのウェブマガジンをやっているかは一番大事」
そっか、そうだよなあ。
こうして要所はきっちり締めてくるかっすんであった。

ほっとした僕は、すっかり気が抜けてあとの話は上の空。
ウーロン茶をちびちびやりながら、ぼんやり別のことを考えていた。
みんな気づいているのかなあ。
偶然、僕らも4人だよ。
『スタンド・バイ・ミー』みたいに、並んで線路を歩いている気分だ。
恥ずかしくて、とても言い出せない。
誰がリバー・フェニックスなのか、ひどく揉めるかもしれないし。

というわけで、『スタンド・バイ・グリーン ライター海江田哲朗のWEBマガジン』
新世紀のメディア『タグマ!』にて、本日開店します。
こちらはご挨拶。
写真は手元に古いやつしかなかったので、なるべく早く差し替えたい。
今後、ビジュアル面をどう強化していくかね。
Jリーグの試合は写真の使用不可などの制約がある。
こうして場を作ったからには、いずれほかの書き手や面白いことをやりたい人を引っ張り込んで部活のようにしたいが、当面はひとりで回していくしかなさそうだ。

では、どうぞごひいきに。





桃太郎の街

岡山に来ている。
昨年からやらせろやらせろとしつこく言い、ようやく媒体のゴーサインが出て、ファジアーノ岡山の取材にこぎ着けた。
昨日は地元で長くサッカーの普及に携わってきた方に会ってきたんだけど、まあ話が面白かった。

今日は木村正明社長のインタビューがある。
現場で会えば軽く立ち話をするが、じっくり話を伺うのは2回目かな。
下調べに資料を漁っていると、これがキリがなくて。
新聞、雑誌、ネット、いたるところに痕跡がある。
人物としての魅力に加え、説明責任を果たそうとする意欲、誠実さの表れだ。
出たがりとはまた違うんだよ。
木村社長の本質はそれと真逆だと思う。

ファジアーノ岡山 2014年度 経営状況についてのご報告
「Challenge1」2015シーズンを終えてのご報告
僕がこないだ書いた「具体」とは、たとえばこういうことね。
わかりやすい材料があると余計な手間が省け、かつ話の聞き甲斐があって助かる。

唯一の不安は、拠点の政田サッカー場へのアクセスが激烈に厳しいこと。
最寄りのバス停から徒歩45分って……。
行ったことのあるライターの鈴木康浩さんに聞いたら、「僕はレンタカーを借りましたね」。
くっ、自動車免許持ってないんだよ。
よって、レンタサイクルを交通手段に選んだ。
岡山駅から片道約50分。ママチャリってのがきつい。
さて、どうなることやら。


●掲載情報
Jリーグオフィシャルサイト
ニューイヤーカップのプレビュー、東京V「昨季からワンランク上のチームに」を寄稿。
チームは今日から沖縄に入る。
どうやら南方に大寒波がやってきているらしい。
あっち行っても寒いのか。ツイてない。

一部の選手が風邪っぴきで不在のこともあったが、練習は活気があり雰囲気はよい。
この時期だから当たり前ですけど。
誤算があるとすれば、ユースの渡辺
皓太を連れて行けなかった(故障の回復を最優先に)ことじゃないかな。
冨樫監督の口ぶりを聞いていると、あれは本気だね。





御茶ノ水サッカー倶楽部(前編)

昨日は東京ヴェルディの練習取材のあと、御茶ノ水へ。
めったに集まらない「御茶ノ水サッカー倶楽部」の会合があった。
構成メンバーは、がががががりー(以下、がりー)、かっすん、イクシー、僕の4名。
サッカーメディアの仕事を通じて知り合い、なんとなく気が合った人たちだ。
会合といっても、ひたすら居酒屋でくっちゃべっているだけである。

ツイてる、と思った。
というのも、新しく立ち上げる有料メルマガ、もといウェブマガジンのタイトル付けが難航していたからだ。
彼らはそれぞれ編集者の経験があり、その道のプロである。
忌憚のない意見が聞けるに違いない。

昨年末、忘年会をやろうと連絡を取り合っていたところ、都合が合わず年明けに持ち越されていた。
このタイミングで集まったのは、天の配剤、何かの導きかもしれない。
助けてくれ、と頼んだ。

以下、僕がアイデアを書き出したノートから。

『東京みどり丸』
『みどりのマーチ』
『東京緑タイムズ』
『東京みどりの窓口』
『東京みどりレポ』
『噂の緑マガジン』
『Vレポ』
『Vの報告書』
『Vの事件簿』
『マガジンV』
『マガジンガーV』

自分でもわかっている。
かなり、ひどい。センスの欠片も感じられない。
キーワードの『東京』『緑』『V』を絡め、思いつくままにタイトルを列挙したが、どれもこれもピンとこなかった。
それに『V』の使用可否はグレー。
この使い方ではヴェルディのこと以外ないでしょ? と指摘を受ける可能性があり、できれば避けたかった。

「一番上の『みどり丸』っつうのは?」(がりー)

あ、それね、五郎丸人気にあやかって。
船名っぽくもあるでしょ。いざ航海へ。そんなイメージ。

「『みどりのマーチ』ねえ」(イクシー)

マーチって行進曲だからさ。ダメかしら。『コアラのマーチ』もあるよ。

「強いて言えば、『東京みどりの窓口』に一票。ちょっと覗いてみたくなる」(かっすん)

でもさ、JRが見逃してくれるかなあ。見逃さねえな、きっと。

3番目の『東京緑タイムズ』ってどうかな? もしくは『緑タイムズ』。
『東京タイムズ』って一般紙が昔あったんだ。

「ダサいね」(がりー)

ショボン(´・ω・`)

「ヴェルディが好きな人って、やはりちょっと変わってると思いますよ。その自覚もあると思う。『東京アマノジャク』。これだよ」(がりー)

勘弁して。地下アイドルのグループみたいじゃん。

長く付き合う可能性のあるタイトルは、軽はずみに付けるとえらい目に遭う。
そもそも当ブログのタイトルも、下戸なのになぜこうしたのかいまとなっては謎だ。
「酒ではない別の何かに浮かされてます」だったような気がするが、それも後付けかもしれない。

「『V研』でどう?」(がりー)

あんた、知ってて言ってるよね。
『浦研』っつう先駆者がいるの。みっともないうえに、怒られるよ。
研究ってのも、やろうとしているウェブマガジンの色に合わない。

「『東京不沈艦』でいこう。好きだったんだ、ヴェルディの柳沢」(がりー)

元ネタは柳沢将之氏の現役時代のキャッチフレーズ『ハマの不沈艦』です。
それから出るわ出るわ、
『美白通信』、『エキゾチック・グリーン』、『ストロングソウル2016』、『全緑秘宝』。
んなもん、使えるかい。
『美白通信』にいたっては、美容関係以外に考えられない。

「地域名をより限定してみては? 稲城だから……ハイきた『海江田哲朗の稲城緑』。ちょっと人の名前っぽいけど」(がりー)

ぽい、じゃない。名前にしか見えないよ。
なんのウェブマガジン?
ぶっちぎりにヘンじゃん。

「もうちょっと範囲を広げてみましょうか」(イクシー)

稲城の次は多摩かな。
あ、多摩出身のTMネットワークだ。
『ゲットワイルド・グリーン』。
う~ん、目まいがするほどダサい。

このあたりから流れが変わり、考え抜いて付けられたであろう映画のタイトルをモジってみようのコーナーに入った。
なぜ、こうなったんだっけ。
序盤に「イーストウッド映画で何が一番好き?」という話になり、僕は『グラン・トリノ』を挙げ、ついでに『ミリオンダラー・ベイビー』のヒロインの身内は、映画史上、最低の家族だと何をいまさら怒りをぶちまけたのだった。
皆、映画好きゆえ、大変盛り上がった。

その余波か。
『緑の黙示録』。これは重いぞ。重すぎる。
『フライド・グリーン・トマト』。そのまんま。ただの料理だね。
おっさんたちがあれこれ言い合い、仲よくじゃれている。
真面目な態度からはほど遠い。
とはいえ、それぞれスマホをいじくりながら、考えてくれてはいるのだ。
一緒に何かを探している。
その眺めに僕は感動すら覚えていた。

「練習場は以前と同じ? どこでしたっけ」(イクシー)

ランド。よみうりランド。

「決まった。『ランド 怒りのアフガン』」(がりー)

みんなでげらげら笑って、腹が痛い。
なんでいきなりパート3のタイトルなんだよ。
すっごい面白いけど、アフガン、桁外れに無関係だ。
ついさっき感動した僕がバカだった。

『グリーンマイル』、いいじゃないですか」(かっすん)

言葉の響きは一番好き。
版元はさておき、スティーヴン・キング、勝手に使って文句言ってこないかな。

「いけるよ。キングが読むわけないもん」(がりー)
「なんでマイルなんだ? って絶対聞かれる」(イクシー)
「なんとなく以外に答えはないね」(かっすん)
「まだまだある。『グリーンの空に』、『シャイニング・グリーン』」(がりー)

あのさ、ほんとに困ってんだよ。
今日決めてロゴ作成に入らないと、予定したスケジュールに間に合わないんだ。

「あ、いつの間にかキング縛り入った。これってそうなの?」(がりー)
「ヴェルディといえば、キング・カズ。縛っていいでしょ」(イクシー)
「すごいですね。まさかキングでつながるとは」(かっすん)
「あとほかは……」(がりー)

『ミザリー』。だったら『ミドリー』だ!
爆笑したはずみに、ウーロン茶こぼした。
これはもう決まらないかもしれないな、でも楽しかったからいいやと覚悟したとき、かっすんが決定的なフレーズを放った。
結果、全会一致で決定である。
ヒントはキング縛り。僕らに幸運が舞い降りた。

いやー、つくづく無駄話って大事だね。
ウェブマガジンの制作業者が「沖縄キャンプに行くならそこに間に合わせたほうがいい。1月中は無料期間にして、2月から本格スタートしましょう」と、大急ぎで準備してくれることになった。
1月25日(月)にオープン予定。場合によっては1日早まるかも。
どうにかキャンプレポがやれそうでよかった。





新体制、始動!

本日、東京ヴェルディは新体制発表会見を行った。
詳細をリポートしたいところだが、諸事情によりできない。

クラブの方針により、今後は個人のブログやSNSにおいて、監督や選手、チーム関係者の談話は使用しないようにお達しがあった。
広報部のスタッフによると、一般の商業媒体との線引きをきちっとしたい考えだそうだ。
僕だけではなく、出入りするメディア関係者全員ね。
新加入選手はこんな人がいて、こんなことがあったよ、といった事実を並べるのはやってやれないことはないけども、骨子であるコメントを抜きにして面白く書ける自信がない。

新聞社の記者がツイッターの個人アカウントを駆使し、「個人がメディアになる」といわれる時代、ましてヴェルディのように露出の少ないクラブにおいて制限をかけるのはなぜだろうと思うが、人にはそれぞれ考え片や力点を置くポイントがある。
当ブログは、気が向いたとき、いま書かねばいつ書くのだと思い立ったとき、企画を売り込んだけどダメだったとき、こんな書き方も面白いんじゃないかしらと実験したくなったとき、便利に活用してきたがそうもいかなくなった。

さて、困った。
僕だってヴェルディの記事を商業媒体にじゃんじゃん書いて稼ぎたいのは山々だが、一般的にはそのバリュー、需要がない。
近年、サッカーメディアが後退戦を余儀なくされている影響もある。
沖縄キャンプの準備は万端整えた。
しかし、原稿を出す確約が取れているのはWeb媒体に1本だけだ。
一方、キャンプ中に面白い話、楽しいエピソードはわんさか出てくるよ、きっと。
発信しなければ、腐るだけである。
自分にとっては憧れの沖縄、初上陸でテンションは異常に高まっている。
かりゆしウェアに身を包んじゃうかもしんない。


ああ、新たな商業媒体を立ち上げるしかないのか。
で早速、その気があったらいつでもどうぞと言ってくれていた有料メルマガの業者と明日打ち合わせである。
無料メルマガも考えたけど、それって結局はブログと何も変わらないからね。
クラブ側の説明では、だったらオッケーとはならない。

ただ、有料メルマガには、ひとつ釈然としないことがあるんだよ。
たとえば、選手が僕に対してサッカーの話をしてくれたとする。
その行為は僕を儲けさせようとしてくれているのではなく、後ろにクラブを応援してくれるファンがいるからなんだよね。

サービス精神の塊のような冨樫監督は、おしゃべりそのものを楽しんでいるように見え、実際、楽しむことに旺盛なんだけど、対面する記者を媒介し、広く伝播することを念頭に置いている。
そこで確保されるべきものは何か。公共性である。
誰も意識していないだろうが、それが担保されることで報道の基本は成り立っている。
公共性を満たす条件のひとつは、その情報に誰もが平易にアクセスできることだ。

ブログはその点よかった。広く開かれ、
読者を選ばない。
吹けば飛ぶよな個人メディアだけど公共性を欠くことだけはしたくなかったから、めんどくさいことになりそうなエントリーも、アメンバー機能(特別な読者登録が必要)を一切使用してこなかった。
カネにはならないが、楽しく読んでもらい、多くの人の目に触れることに価値を見出していた。
ファンだけではなく、ヴェルディってこんなんだよ、面白いでしょと、外部に向けて書いているつもりもあった。


有料メルマガは公共性の基準を満たしているか。
いまのところ僕の答えは否なんですね。
が、こうなった以上はどこかで折り合いをつけるしかないのだろう。

特定の読者に届けるぶん、まどろっこしい説明が省けてラクだが、ヴェルディを知らない人にステキと言わせたい野心は行き場をなくす。
そっち方面の張り合いは減るんだろうなあ。

メルマガをやっている知り合いのライター数人に、どんな感じなの? やっぱ大変だよね? と電話した。
「いいじゃん、ヴェルディワッショイやんなよ」とのたまったのは、青赤野郎の後藤勝である。
やだよ、バカかよ、死ぬまでワッショイやってろよ。
Jリーグ界隈で有料メルマガは広まっているが、名称を使用する場合は当然クラブの認可がいり(半オフィシャルの扱い)、対価も発生する。
読者に満足してもらうには、ボリュームも相当いるんだろう。
考えるだけで気が重いが、行き詰まり感は間違いなくあったし、きっかけが向こうからやってきてくれたと無理やり考える。

鈴鹿ランポーレに移籍した渋谷亮の話は書き残したかったが、それもできない。
一般的には価値がないが、このブログの読者にはぜひとも伝えたい内容だった。
僕がだらだらしていたせいだ。
すまん。
なお、沖縄キャンプにメルマガの始動はまず間に合わない。
そっちもすまん。






 

今年初ランド

軽はずみに、とんでもないもの見ちゃったよ。
劇場版アニメ『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』。
ひょんなことからあれはヤバい、出来どうこうの次元では語れない駄作との評判を耳にし、こういうとき素通りする人と誘惑にかられる人がいて、後者の側である僕はどれどんだけ酷いのか見てやろうという気になる。
小学生の頃、友だちが次々とガンダムに宗旨替えするなか、最後までヤマトにこだわって寂しい思いをしたなあ。
プラモ、でかいのから小さいのまでいくつも作ったなあなどと思い出しつつ。

聞きしに勝るとはこのことで、そんなノスタルジックな気分は一発で吹き飛んだね。
古代進の顔がヘンだとか、動きがギクシャクしているとか、キャラクターの実在感ゼロだとか、ツッコミどころを数え上げればキリがない。
最大の衝撃は、回想で旧作ヤマトのワンシーンがまんま使われてたこと。
絵のタッチからして全然違うのに、こんなのアリかよと大笑いした。

作り手が、近頃のアニメを見てないし、研究をしていない。
だから、時間が止まったままで、まったくバージョンアップされていない。
そっか、ライターや編集者も読まない人はダメになっていくんだなあ。
見なきゃよかったけど、見てよかった。
ふだんは高品質な作品を見せてもらっているんだと感謝の気持ちがわく。
趣味に倦怠気味の人にはぜひ。くれぐれも体調のいいときね。劇薬。

よりによって、朝一番になぜこんなのを見てしまったのかぐったりして、いっそ二度寝してやろうかと思ったが、年始早々だらけるわけにもいかない。
東京ヴェルディは若手の練習がスタートしたことだし、ぶらっとランドに出向いた。

毎年ある選手名鑑の仕事に着手するのは早いに越したことがない。
あの選手が誰それでと倉林広報に教えてもらい、出入りが少ないと顔を覚えるのがラクで助かるとのんきなことを言ってたら、「入ってきた選手がいれば抜けたのもいて」とポツリつぶやいたのが、近くでストレッチをしていた高木大輔である。
仲のよかった弟分、三竿健斗の鹿島アントラーズへの移籍が発表されたのは昨日のことだった。

「相談は受けてましたけど、残るか移籍するかの選択については何も言えないっすよ。あいつはより厳しいところを選びました。おれが決めていいってのなら話は簡単。ヴェルディでやろうぜ。それだけ。一緒に戦いたいし、戦力としても重要な選手。移籍すると自分で決めた以上は、向こうで頑張れよ。J1でお金をもらって、あのほら、ピッチ外のいろんな誘惑もあるらしいけど、ふらふらすんな、大丈夫だろうな? まあ、おまえはそのへん大丈夫か、はい大丈夫ですみたいな話をしたり。鹿島でしっかりやるんだったら応援するし、試合も観に行く。時間があったらヴェルディの試合も来いよって」

大輔の口からとめどなく言葉があふれ出す。
うんうん、わかった。みなまで言わんでもいい。

「だから、おれたちは今年上がる。上がらなければいけない。あいつに、ヴェルディのみんなとJ1でやりたかったと思わせてやんなきゃ」

笑顔で言い残し、再びピッチに駆け出して行った。

「三竿へのオファーを知らされたのはバルセロナにいたとき。1月3日かな。とうとう鹿島から正式なレターが届きましたよと」

そう語るのは冨樫監督。内々には話が進み考える時間があったのだろう、のちに本人から鹿島に行くことを決めましたと連絡が入ったそうだ。「すぐに切り替えました。さて、いる選手でどうチームをつくるか。幸い、ギラギラしている選手だらけなんでね」と、いつもの調子である。

一方、竹本GMは「相手が鹿島というのが重要なポイントでした」と渋い顔だった。
日本の他クラブならどこであれ動く気はなかったとエージェントを通して聞いたそうだ。
どうしてまたピンポイントで角刺してくるかね(筋違い)。

実際、今回の鹿島の動きはさすがと思わされたよ。
鹿島の強化部の人に聞いたら、「補強リストにずっと名前が載っていました。一番の魅力はボール奪取力。地味ながら技術がしっかりしており、さらにサイズもある」。

J2でバリバリ試合に出て、もうひと回り大きくなってから獲得に動く手があったのは承知の上だ。

「1年待ったらよそと争奪戦になり、値も上がるでしょう。こちらのチーム事情に加え、現時点で競争に加われる能力があると判断したからオファーしたんです」

んもう、まいった。そこまで言われちゃお手上げ!

三竿の何がすごいって、相手が遠いところにボールを置き、このアングルならキープできると構えている、つまり想定された安全圏にぐいっと足が出るプレーだ。
そこに持ち前の身体の強さ、鋭い予測が加わる。
えっ、ここに足届くの? と相手が慌てる様は痛快だった。
ああいったディフェンスができるのは、日本人でほんの一握りだよ。

そりゃあもっとプレーを見て、書きたいことはたくさんあったけどさ。
チームと選手がこうなっていったらいいなあと願うのは、あくまで自分の物語だからね。
他者に押しつけることはできないわけで。
逆に、どうしても残ってほしかったというあなたの物語があってもいい。
相手の気持ちがどうだろうと自分の物語を押しつけ、現実を意のままにねじ曲げ、都合よく動かそうとするのが権力者というやつです。

こうなった以上、選手が置いていってくれたお金をどう使うかが大事になる。
三竿の育成費+違約金が約5000万円。
松本山雅を経て、横浜F・マリノスに移籍した前田直輝が同6000万円。
額面は関係者と「そんなに払ってない」「うん、いい線だね」などとやり取りをしながら探った推定だ。

せっかくの資金が、これまでのようにクラブを運営するためのガソリンに化けましたってのではあまりに切ない。
使い道を決めるのはプロの仕事だから任せるとして、「これを元手に夏の補強で勝負に出ます」、「選手の勝利給を上げます」、「専任のスカウトを雇います」、「育成の環境整備に投資しました」、「夏休みにアカデミーの選手全員をブラジルに連れて行きます」、「腕利きの営業スタッフを補強しました」、「川崎フロンターレからプロモーションの鬼・天野春果さんを引っこ抜きました」、なんでもよござんすよ。
使途を明確にすることによってのみ、説明責任は果たされる。
どうか生きたお金として活用してほしい。

お金の話は触らないでという人が少なくないが、こちとら過去にクラブ消滅危機を経験し、シビアな目線を持たなかった先に何が待っていたのかを知っている。
あんな思い、怠惰な仕事はもう二度としたくない。
もっともサッカークラブを公器と認識し、自分のやり方に自信を持っている人は、いたってオープンなものだよ。

そうして踏ん切りをつけたつもりでも、いよいよ始まるリオ五輪のアジア予選、テンション低下が否めないなあとクラブハウスの記者だまりでうつむいていたら、おれを忘れてもらっちゃ困りますてな顔(きわめて主観的)をして通りかかったのが大分帰りの楠美圭史である。

「三竿はほんとにいい選手だったからサポーターの人たちはショックを受けていると思いますけど、自分も外に出て経験してきたことがある。今年は勝負の年です。あいつがいてよかったなと思ってもらえるようにチームに貢献したい」

その意気やよし。
三竿にはない、クサビの縦パスをビシビシ通しちゃってください。
杉本竜士、澤井直人あたりは元気が余ってて、明日にでも開幕してほしいだって。
気が早すぎるよ!

晩、U‐23日本代表は北朝鮮を1‐0で破り、どうにか初戦をものにした。
あのサッカーで両ワイドを南野拓実、中島翔哉にしている意味がわからなかったが、監督には大会を見通した考えがあるのだろう。
後半の翔哉はいい仕事をしました。三竿は出番なし。
ここからどうチームが変わってくるかなあ。

長くなった。寝よう。





名波浩、かく語りき

一昨日、編集Mさんから連絡あり。
「次号で補強中間報告って企画をやるんですよ」
「この時期恒例のアレね。でも今年のヴェルディは小動き。なんかネタあるかなあ」
「前の選手は?」
「若手の成長に賭けるっつう振り切った方針ならそれもよし。おれはそっち派」
「佐藤優也の件は残念でしたね」
「言わないで。まだ引きずってるから。あっためてきた話もお蔵入りで悲しい」
「獲得の噂ありのレベルでも可です」
「ま、やってみますわ」

紙媒体は速報性でネットに敵わないが、どうせやるなら一発ホットトピックスを入れたいとするのがこの稼業の心がけ、気合いである。
結局、〆切がなければ書こうとしないんだし、ちょうどいい。
で、あちこち手がかりのありそうな人に電話したら、チャンピオンシップ、プレーオフの影響で、各クラブとも動きが遅くなっているそうだよ。
こないだ、おそらく選手のアウトは出そろったとしたけど、ここにきて水面下の綱引きが行われている模様。ごめんね!
詳しくは、来週売りの『サッカーダイジェスト』にて。


●掲載情報
『フットボール批評』issue09(カンゼン) 1月6日発売
名波浩監督インタビュー「ジュビロ磐田は再び光り輝くサックスブルーの夢を見るか?」を寄稿。
僕はジダン、フィーゴ、名波世代なもんで、特別思い入れはある。
名波監督のように臆せず語る人が指導者として成功してくれるといいなあ。

以下、本文ではカットした東京ヴェルディについて話した部分をサービス。

――今年のヴェルディ、どうでしたか?
「パス回しのテンポがいいし、前で選択肢を作れる選手、時間を作れる選手がいる。中後雅喜のリーダーシップは素晴らしかったね。彼のキャリアハイじゃないですか」
――はあ、ただ最後は失速しちゃって。
「チームを安定させるのは簡単ではないですよ。シーズンの3分の1はよかった。もう3分の1はふつう。残りの3分の1は悪かった。来年これが半々以上になったらだいぶ上にくるでしょ。4位くらいまでは充分見える」
――手応えあったんすよねえ、一時は。
「6月から8月あたりまではすごかったね。若い選手が多いから勢いだけだと言う人もいたけど、おれはそうは思わなかった。春先、大久保で練習試合をやったじゃないですか」
――はい、観に行きました。
「あのゲームもブルーノ・コウチーニョが出ていなかったら勝負はわからなかったよ。彼のプレーが遅かったせいでリズムがおかしくなってた」
――興味を覚える選手はいましたか?
「いますいます。あいついいな、獲れないかなとコーチに言ってましたもん。名前は言わないですよ」
――あん、ケチ。
「2014年、うちが1‐2で負けた試合、その選手のパフォーマンスは特別目を引きました。たまたま解説の仕事もあってじっくり見られた。ほかにもいいなと思う選手は何人か」
――どんなタイプがお好みですか?
「狭いエリアでの立ち位置、身体の向きを意識できる選手。いまヴェルディに足りないのはサイドキックの質だとか細かいこと。立ち位置はほぼ全員正しい。いいサイドキックが入ったとき、すっと前を向ける選手が倍増えたらどんどん点が取れますよ」
――もしかして、短期間ながらもヴェルディOBとして、励ましてくれてます?
「いや、そのつもりは別に」
――いいとこまで行くけど、どうしてもゴール前でいちゃいちゃしちゃうんだなあ。
「自分たちのパス回しにちょっと酔っている感はある。前を向けるのにクッションになっているだけの選手がいて。入ってくるタイミングは抜群の選手ばかり。ほとんどノッキングしないでしょ? 動きがかぶって固まったりしない。ほう、と感心しながら見てた」
――そっか、やっぱ冨樫さんいい仕事をしてるんだ。
「間違いなく優秀な仕事。監督替えちゃダメだよ絶対。上に行くには、外国人選手がどうはまるかがポイントになるかもしれないけど。いまのメンツで3年チームを作れれば先が楽しみだね」






仕事始め

年末年始をのほほんと過ごした。

テレビをだらだら見、飽きたら本を読んだり映画を観たり、気の置けない友だちと会い、互いを高め合う関係なんて息が詰まるよ、意味がまるでないのに一緒にいるのがいいんだと思い、久しぶりに会った
甥っ子をやはり泣かし、朝から晩まで麻雀を打ち、つもり四暗刻をテンパりながら対々和三暗刻であがってしまう自分のみみっちさに忸怩たる思いを募らせ、今年のNHK大河ドラマは『真田丸』だ、楽しみが増えたぞとほくそ笑む。

今日から仕事始め。まじめに働きたい。


年明け、東京ヴェルディは残念なニュースから。
4日、佐藤優也のジェフユナイテッド千葉への移籍が発表された。
僕は選手の出入りに関し、クラブや選手の考えがあってのことだろうし、だいたいはしゃあないという態度なのだが、これにはまいったなあと天を仰いだ。

佐藤といえば数々のビッグセーブが語られるが、それらより僕は劣勢を跳ね返そうとする豪胆なプレーを印象に刻む。
2013年の横浜FC戦@ニッパツ三ツ沢球技場だったと思う。
ヴェルディはミスからピンチが連続し、最終ラインがバタバタしていた。
短いバックパスが佐藤に送られ、相手が猛然と間合いを詰めてくる。
クリア、と僕はつぶやいた。
だが、そこで佐藤はキックフェイントを入れ、相手をひゅっとかわし、前にびしっとボールをつけた。
うわっ、すげえ。肝の太さに感嘆したね。
サッカーの教科書には、あの状況はセーフティ・ファーストと書いてある。
とりあえずタッチラインに蹴りだし、流れを切って落ち着けるのがセオリーだ。

安全策を拒否した佐藤のプレーからは、おたおたすんなよ、ほれこうやって繋いでいこうぜというメッセージが読み取れた。
僕は好きだったんだよ、ああいうの。
涼しい顔でリスクを冒し、戦局を動かそうとする姿勢、気概が。
持ち前の豪気が裏目って、ピンチを招いたこともあった。
がんがん前に出て、とにかく攻撃につなげようとするんだ。
ああ、この人は守る人でありながら、心底勝ちたいんだなあ、とスタンドから見ていた。
好みは分かれるところだね。
監督によっては、そこは求めてないからと評価を下げる人もいると思う。

ヴェルディの強化部は佐藤に対し、半年前から契約延長のオファーを出していた。
保留となっていた理由は、J1でプレーすることをプライオリティの最上位に置いていたからだと聞く。
向上心の強い選手であり、年齢的にも当然のことだ。

千葉からのオファーが届いたのは、クリスマスをちょい過ぎたあたり。
周辺取材のみで本人から話を聞けていないが、生まれ育った千葉であること、J1への距離、オファーの中身など、総合的な判断だと思われる。
急ピッチでチームをつくり直している千葉のビジョンが魅力に映った面もあるかもしれない。
ヴェルディはとても時間のかかることをやろうとしてるからね。
とどのつまり、競り負けたんだなあ。
わかっちゃいたけど、事実の重みはそれなりに堪えるものだ。

3シーズン、ヴェルディのゴールマウスを守ってくれた佐藤には感謝している。
これぞプロという卓抜したプレーに雀躍させてもらい、自分のGK観も広がりを得ることができた。
確固たるポジションを捨て、こうして打って出たわけだから、千葉での活躍を望む。
「なんでキーパーになったんだっけ……。子どもの頃からスポーツはなんでもできたんですよ。恐れない、ところかな。向かってくる相手にびびらず、身体ごと飛び込めた。待つより、前に出ることを好んだ。おまえのいいところだと褒められ、その気になったんだと思います」と、佐藤は少年時代の話を聞かせてくれた。
大人になっても、性分ってやつは変わらないもんだね。
前へ、前へ。

佐藤の移籍について、
竹本GMは「誤算だった」とはっきり述べる。
この時期、釣り合う選手がマーケットに出ているはずもなく、妥協点を探って手を打つしかないだろう。
だったら、せめてポープ・ウィリアムは残しとけよって意見が出るだろうが、これはまた別の話。
GKとして豊かな資質を評価する声はあるが、基盤となるプロ意識の面でぐらつきが大きい。
「能力そのものはもちろん大事。けれども、選手がピッチに立つには、仲間から認められ、あいつが選ばれるのは当然だと信頼を勝ち取らなければいけないんです」と冨樫監督。
この先の彼のキャリアを考え、異なる環境を経験させる判断は正しいと見る。

となれば、頼みの綱は柴崎貴広ですよ。
プロ16年目、年輪を重ねてきた理由を存分に示してほしい
佐藤とはまるでタイプが違い、まずはそのへんがどう出るだろうか。

一方、高木善朗の期限付き移籍期間延長はいいニュース。
不完全燃焼だった昨シーズンを経て、今年はやってくれるでしょう。
いや、やってくれると断言したい。
そこそこのところで満足できるようなタマじゃないんだから、おおいに欲張ってほしい。

これで、おそらく選手のアウトは出そろったね。
では、本年もよろしく。





しょうがない人

原田宗典の『メメント・モリ』(新潮社)を読んだ。
躁うつ病を患い、覚せい剤・大麻所持で現行犯逮捕など、すったもんだあった末の十年ぶりの長編小説だ。
たぶんぱっとしないんだろうなあと思いつつ、買うしかなかった。
自分が手に取らなければ、ひっそりと書店の棚に埋もれるに違いない。
買い支えってやつである。

僕にとって原田さんは、読書の楽しみを広げてくれた恩人だ。
十代の終わり頃、軽妙なエッセイを通じ、鷺沢萠、色川武大(阿佐田哲也)、中島らも、藤原新也らを知り、そこからさらに広がりを得た。
座付き作家を務める東京壱組(現・壱組印)のお芝居も観に行ったな。
気に入った作家や気の合う本読みが、いいよと紹介するものに手を伸ばしてみる。
ジャンルの垣根を飛び越えて発見する快感を覚え、そのやり方はいまに至るまで変わっていない。

原田さんの長編小説は『スメル男』(講談社文庫)、短編小説集は『しょうがない人』、エッセイ集は『十七歳だった!』 (ともに集英社文庫)を僕は薦める。
とりわけ心に残るのは、『しょうがない人』に収録される「すれちがうだけ」。
太字は本書からの引用部分。

主人公のぼくは、白い杖を持つ女子高生と同じバスに乗る。
停留所に止まり、女の子と母親が乗車してくる。
女の子は小さな箱を大事そうに抱え、そこからひよこの啼き声が聞こえる。
箱をちょっとだけ開け、のぞき込む女の子。

「あなたはピイで、あなたはチイ」
 間断なく啼き続けるひよこの頭をつっつきながら、女の子が言う。

母親は娘の行為をたしなめ、家に帰るまで待つように言う。
ふと、そばにいた女子高生がひよこの啼き真似をしてみせた。
女の子は表情を明るくするが、そこに光のない真っ白な瞳を見つけ、身体を強張らせる。

「可愛いわね」
 女子高生は女の子の方へ顔を突き出し、やっと押し出すように言った。女の子はすっかり困惑し、助けを求めて母親を見上げている。
「可愛いって。よかったわねえ」
 母親は白い杖に目を止めて、幾分早口で言う。女子高生はほっとして表情を崩し、何度かうなずいた後に正面へ向き直った。腰を引いて、深く座り直す。その拍子に、スカートの襞ポケットがきらりと光った。

バスが激しく揺れ、女子校生のポケットから丸い物体が飛び出す。
コンパクトだった。

「ようこちゃん、拾ってあげて」
 母親がそう言って女の子の肩を叩くまでの間、誰もがじっと息を殺していた。
(中略)
 彼女は一瞬ぼうっとしていたが、女の子の手の気配を間近に感じると、あわてて両手を目の高さまで掲げて、コンパクトを受け取った。
「ありがとう」
 その頬が見る見る紅潮していく。

やがて、女子高生は目的のバス停で降りて行った。

「あのね、どうして目が見えないのに鏡持ってたの?」
 母親は一瞬返答に詰まり、しばらく女の子の顔をじっと見つめていたが、そのうち自分にも言い聞かす調子で、こう答えた。
「女のひとだからよ」
「女のひとだと目が見えなくても鏡持ってるの? でも見えないんでしょう」
「ううん、女のひとだから」
 女の子は納得のいかない様子で「ふうん」と言ったきりうつむいた。

そうしてバスは走り続け、短い物語は終わる。
誰もが、すれちがうだけ――。
作者の深いところに届く視線、小さな揺れ動きを丁寧に拾い上げる描写が沁みるんだ。

原田さんの新著『メメント・モリ』は、私小説のスタイルをとっている。
メンタルの不調から書けなくなって方々に不義理をし、家庭不和、逮捕劇、自動車事故といった破れかぶれを、持ち前の軽いタッチと繊細さで描いている。
エッセイでおなじみの人物がちょいちょい現れ、やはり愛読者のほうが楽しめるだろう。
装幀を、学生時代からの友人である原研哉がいつものように手掛けていてほっとした。
次回作を気長に待つ。

その人の持つ、どうしようもない部分。始末に負えない性質。
なにやってんだよめんどくせえなあと呆れるけど、厭なところが露見してすっぱり切れるとしたら、それは好きでもなんでもなかったんだよ。

先日逮捕された、キングオブコメディの高橋くんの件でもそれを思った。
長年のバナナマンファンである僕にとって、設楽軍団の高橋くんはファミリーの感覚だ。
キンコメのコントは面白かった。
みっともない変態犯罪をやらかし、でもあの笑いはまぎれもなく彼が生み出したもので、ふたつは別ものと頭ではわかりながらも整理がつかず、持て余し、たまらない気持ちになる。
ただ、自分のなかに残す輝きの像はそのままに。
ひそかに刻む年の瀬だ。

窪美澄の『ふがいない僕は空を見た』(新潮文庫)、佐藤泰志の『そこのみにて光輝く』(河出文庫)もそういう風味のある小説。
ともに映画化されており、コクのある作品に仕上がっている。
厄介なもの、哀しみにも似た何かを抱え、それでも人は生きていかねばならない。

時間だけはたっぷりあって映画を観まくった2015年。
僕のベスト1は、
洋画『アメリカン・スナイパー』 次点『薄氷の殺人』
邦画『百円の恋』 次点『君はいい子』
に決定しました。
痛恨は、橋口亮輔監督の『恋人たち』と、塚本晋也監督の『野火 Fires on the Plain』を見逃していること。
よさそうな匂いがぷんぷんするので、お正月に遅れてやっている映画館を見つけて行ってみよう。





ベレーザ、無念

23日、皇后杯準決勝、日テレ・ベレーザ vs アルビレックス新潟レディース@等々力競技場。
新潟を応援するえのきどいちろうさんと、僕らにおあつらえ向きの対戦カードだねと一緒に観戦した。
自由席のチケットは準決勝2試合通しで前売り800円。安い。

「新潟は上尾野辺めぐみですよ。レオ・シルバと同じくらいチームで重要な選手」
「ベレーザは14番の長谷川唯をご覧あれ。げっ、サブか。上尾野辺とマッチアップするのは清水梨紗ですね。かわいい顔してプレーは骨っぽい。ぐいぐい縦にきますよ。GKの山下杏也加もかなりいいです」

11分、新潟がセットプレーから大石沙弥香のゴールで先制し、34分、ベレーザは中里優のゴールで同点に追いつく。

前半30分過ぎから後半20分あたりまではベレーザの時間だった。
中央でサイドでトライアングルをつくり、新潟の守備網をかいくぐっていく。
僕はそのうちゴールを割れるだろうと、余裕しゃくしゃくでゲームを眺めていた。

ん、ヘンだぞと奇妙に感じたのは後半の半ば過ぎ。
中盤を突破しても、その先はがっちり抑えられる。
ボールは圧倒的に持っているのに、フィニッシュまで行けない。
新潟の守備にリズムが出てきて、後手を踏むシーンが増えてきた。

以前、冨樫監督から聞いた話を思い出した。
「守備の選手ってのは不思議なものでね。攻められ慣れてリズムが出てくることがあるんです。クロスやスルーパスに対して身体が自然と反応し、全然怖くなくなる。むしろどんどん来いよと前向きに守れる」
ああ、このことかあ。

そうして決着はPK戦へ。
どうせならゴール裏から見ようと席を移動する。
僕らの近くにいたのはたぶんメニーナの選手たちで、フライパンの上の豆みたいに飛び跳ねながら応援していた。
双方のGKが2本ずつ止め、迎えた5本目。
ベレーザは阪口夢穂のシュートが止められ、ジ・エンド。
くう、残念!

僕の手には27日の決勝のチケットがすでにあり、急に心細くなって知り合いの緑者に連絡したが(えのきどさんは日光アイスバックスの試合)、つれない返事である。
まあいいよ。
INAC神戸は松田監督のチームだし、澤穂希のラストプレーを堪能するよ。

帰りに寄った本屋さんで平山夢明の『暗くて静かでロックな娘』(集英社文庫)が目に留まり、レジに持っていった。
僕は、同著者の『デブを捨てに』(文芸春秋)をたいそう気に入っている。
これでもかと、ブラックユーモアてんこもり。
こないだ出た『このミステリーがすごい! 2015年版』で、書評家・杉江松恋さんが2位に入れていてうれしかったね。
陰惨なのにユーモラス。目を背けたくなるようなグロテスクのなかに純情キラリ。
くらくらっときちゃうのよ。
安っぽい救いなんぞいらん。

メリークリスマス。





近況

12月13日(日)
いしかわごうメルマガ読者限定の忘年会@立川・KITENにゲストとしてお呼ばれ。
主に川崎フロンターレについて、ふたりでしゃべり倒した。
久しぶりに楽しかったねえ。

新井章太と登里享平のエピソードがいっちゃんハネたかなあ。
あと、あらためて森勇介人気の根強さを思った。

いつもと勝手が違うのは、ヴェルディ色のボケが通じないこと。
おでんくんのネタから、FC東京の森重真人の話になったんだけど、「モリシゲ、モリシゲさん……誰だ。知らねえな」っつったら、おいマジかこいつ、代表だぞの空気が流れたよ。
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12月14日(月)
ジュビロ磐田、名波浩監督インタビュー@オークラアクトシティホテル浜松。
カフェの閉店時間の確認ミスに加え、名波監督の直前の仕事が押し、困った事態になったのだが、「あら、名波さんがいらっしゃるんですか」と店側がだいぶ融通を利かせてくれた。
さすがは静岡の顔ですよ。冷や汗かいたあ。

ついでにヴェルディに対して感じたことも聞かせてもらった。
なるほどそういう見方なのかと、たいへん得した気分。
こちらは雑誌が出たあと、おまけとして公開の予定。

井林章の契約更新が発表された。
他クラブからどの程度引き合いがあったのか全容は把握していないが、ひとつだけ情報を耳にしていた。
JPFAトライアウトに行ったとき、複数のスカウト、強化担当から「井林株、上昇」の声。
とある関東のクラブは、年俸およそ1.5倍の複数年契約を提示したという。
聞かされたときは、こらあかんと思ったね。
プロですもん。オファーの額は評価そのものだ。

後日、竹本GMに探りを入れてみたら、「井林は残りますよ。キャプテンとして周囲の信頼が厚く、本人も責任を自覚している。意外ですか?」。
意外って言っちゃいけないんだろうけど、「えっ、うそ」とぽかんとしたよ。
この気持ちには、どうにかして報いてあげたいね。

12月15日(火)
原稿書き。遅々として進まず。

12月16日(水)
東京ヴェルディ広報部・メディア関係者忘年会@エビス 稲田堤店。
こういうのに参加するのはいつ以来だろう。たぶんオジーのときが最後か。
たいてい僕は隅っこで目立たないようにしているんだけど、男どもが控えめな人ばかりでさ。
しけた空気になるのもなんだからちょいちょい前に出たら、余計なことたくさん言っちゃったよ!
倉林広報の胸板が筋トレの成果により厚くなったとか桁外れに無益な情報もあったが、新しい広報スタッフと顔合わせできたのは収穫でした。

12月17日(木)
ようやく原稿を書き上げ、泥のように眠る。