「ご結婚は帰還されてからですか」
「そう。昭和21年の冬に復員して、翌年見合いして結婚して、わたしが生まれたのがその年の暮れ。マルアキ足袋店は、わたしの祖父がやってたんです。まもなくして、なくなりましたけどね」
「それで、秋葉原さん、物心ついたときには、お父さんがそういう症状をもっておられたんですね」
「うん、月見て吠えてた」
「満月と、なにか関係あったんでしょうか、兵隊だったときの経験と」
「まったく、わかりません」
日本軍兵士のPTSDは、「戦争神経症」と呼ばれていたが、
戦後ずいぶん時間が経つまで、ほぼ隠されていた話だという。
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「うちの親父はそのことでは、病院にも行かなかったし、わたしたちは誰も、親父が病気だとは思っていなかった。
アル中だとか、気が荒いとか、そんなふうに思ってました。
酔っぱらって大声を出したり、ものを壊したりしたことはあるけど、
そんなに珍しいもんでもなかったんですよ、そのころは」
テレビドラマやアニメにだって、ちゃぶ台をひっくり返して暴れる親父なんて、
あたりまえみたいに出てきたじゃないですか、と秋葉原さんは言った。