世界史の学習に必要な,インド・パキスタン・スリランカなどの南アジアの国・地方・行政区分とそれぞれに属する都市・地名を紹介していきます。
南アジアの地方・行政区分の捉え方・使い方
南アジアは,現在の国名でいうと,インド・パキスタン・バングラデシュ・スリランカ・ネパール・ブータン・モルディブをあわせた領域を指す。
世界史で「インド」という言葉を使う場合には,現在のインド共和国だけでなく,パキスタン・バングラデシュなど,南アジアの他の国も含めた領域を指すことが多いので注意が必要である。
世界史で出てくる都市・地名について言えば,やはり現在のインド,ついでパキスタンに集中しており,スリランカはマイナーなものが一つ,そして,その他の国の地名はまず出てこない。このため,現在のインドとパキスタンに存在する都市・地名を覚えるようにすればよい。
南アジアの中核となる現在のインド共和国の領域は,大きく,北インド・東インド・西インド・南インド・中央インドに区分することができる(その他に,北東の辺境部と,インド洋の諸島があるが,世界史の学習で出てくることはまずない)。
そして,行政区分としては,インド全体が28の州と8の連邦直轄領に分けられているが,この行政区分については,一部を除いて大部分は覚える必要はないだろう。というのも,現在のインドの行政区分の多くは現代になってから生まれた枠組みであって,世界史を学ぶ際にはあまり有効ではないからである。
そこで,大きくインドの東・西・南・北・中央の各地方を把握して,あとはインダス川・ガンジス川・デカン高原・インド洋などの主要な地形を目印にしながら,個々の都市の名称や位置を覚えるとよい。
以下では,まずインド全体の地形・地方・行政区分を説明してから,北インド・東インド・西インド・南インド・中央インドの地方ごとにその領域にある都市・地名を紹介していき,その後にパキスタン・スリランカの都市・地名についても紹介する。
なお,それぞれの都市・地名について,世界史の学習や受験における重要度を★の数で示しました。★★★~★で星が多いほど重要ということを意味します。
★★★ | 基本:高校の定期テストや大学受験の共通テストのレベル |
★★ | 標準:一般的な国立大学や私立大学の入試で必要なレベル |
★ | 発展:難関大学の入試では必要なレベル |
全体について
地形(河川・山脈・海洋など)
河川としてはインダス川・ガンジス川を絶対に覚えておく必要がある。また,ガンジス川の主な支流であるヤムナー川も沿岸に重要な地名が集まっているので覚えるとよい。そのほか,ナルマダー川はあまりメジャーではないが,ヴィンディヤ山脈とともにインドの南北の境界の目印になる。
山脈はヒマラヤ山脈を知っておくのは当然として,ヒンドゥークシ山脈・スライマン山脈も知っておくとよい。このヒンドゥークシ山脈とスライマン山脈の間にカイバル峠が存在し,陸路でインドに進入する際のメインルートになってきた。そのほか,ヴィンディヤ山脈はインドの南北の境界として有名である。
海については,アジアの南に広がるインド洋については問題ないと思うが,そのインド洋の一部にもなっている,インドの西側のアラビア海,東側のベンガル湾も覚えておこう。
地方区分
インドの地方は,北インド・東インド・西インド・南インド・中央インドというように,東西南北および中央に分けることができる。そのほか,北東の辺境部と,インド洋の諸島がある。
これらのうち,北インド・東インド・西インド・南インドの4地方には,それぞれにいくつかの重要な都市・地名があるので,それらを覚えたい。その他の地方は世界史の学習のうえでは,あまり気にする必要はない。
行政区分(州など)
現在のインド共和国は,28の州と8の連邦直轄領に区分されている。
世界史の学習ではインドの行政区分について聞かれることはあまりないが,比較的重要な州を地方ごとに挙げておく。
北インド…ウッタル・プラデーシュ州,パンジャーブ州
東インド…ビハール州,西ベンガル州
西インド…グジャラート州,マハーラーシュトラ州,ゴア州
南インド…タミル・ナードゥ州
ここに挙げた州には重要な都市・地名があるので知っておくと便利ではある。
北インド
北インドは,北方から民族がインドへ進入する際の入口付近にあたり,デリー・アグラなどの首都が置かれた都市をはじめとして,重要な都市・地名が多い。
特に,ガンジス川とその主な支流であるヤムナー川の沿岸には,重要な都市が集中している。
行政区分については,デリー連邦直轄領のほか,ウッタル・プラデーシュ州には重要な都市・地名が多くあるので把握しておきたい。パンジャーブ州も重要である。そのほか,北インドのなかでも一番北の地域(ジャンムー・カシミール連邦直轄領およびラダック連邦直轄領などの地域)は,いわゆるカシミール地方にあたり,パキスタンや中国との係争地として有名なので知っておこう。
デリー ★★★
インド北部の中心都市で,ガンジス川の支流ヤムナー川の沿岸に位置する。現在は都市とその周辺がデリー首都圏という直轄領になっている。
デリー゠スルタン朝の各王朝で首都とされた後,ムガル帝国でも主に首都が置かれた。イギリス領インド帝国時代にも後期には首都が置かれ,その際に新市街のニューデリーが建設された。
現在もインドの首都となっている。
メーラト ★
インド北部ウッタル・プラデーシュ州の都市。ガンジス川の支流ヤムナー川の沿岸にあり,デリーの北東に位置する。
1857年のインド大反乱の契機となったシパーヒーの蜂起が起こった地として知られる。
マトゥラー ★
インド北部ウッタル・プラデーシュ州の都市。ガンジス川の支流ヤムナー川の沿岸に位置する。
グプタ美術の仏像が制作されたことで名高いが,ヒンドゥー教の聖地でもある。
アグラ ★★
インド北部ウッタル・プラデーシュ州の都市。ガンジス川の支流ヤムナー川の沿岸に位置する。
ムガル帝国第3代皇帝のアクバルがこの都市に遷都したことで知られる。
ムガル帝国第5代皇帝シャー゠ジャハーンが建設したタージ゠マハルも有名。
カナウジ ★
インド北部ウッタル・プラデーシュ州の都市。ガンジス川の上流の沿岸に位置する。
7世紀にヴァルダナ朝の首都が置かれた。
パーニーパット ★
インド北部ハリヤナ州の都市。ヤムナー川の近くに位置する。
1526年にムガル帝国の建国者バーブルとロディー朝との間でパーニーパットの戦いが行われた地として有名。
アムリットサール ★★
インド北部パンジャーブ州の中心都市。
1919年にイギリス軍がインド人を虐殺したアムリットサール事件が起こった地として知られる。
また,シク教の中心地でもあり,その総本山であるハリマンディル・サーヒブ(黄金寺院)があることで有名。
東インド
東インドは,古代インドのマウリヤ朝やグプタ朝の中心地となったほか,近世以降にはベンガル湾の沿岸にイギリスやフランスの拠点がつくられた。
地形について着目すると,とにかくガンジス川の沿岸に重要な都市・地名が集まっている。
州でいうと,ビハール州と西ベンガル州に重要な都市が集中しており,ビハール州の都市は古代インドの王朝との関係で,西ベンガル州はイギリス・フランスのインド進出との関係で,重要な都市・地名がある。
パータリプトラ(現パトナ) ★★★
インド東部ビハール州の都市で,現在の同州の州都パトナにあたる。ガンジス川の沿岸に位置する。
古代にマウリヤ朝およびグプタ朝の首都となり,古代におけるインドの中心地となった。
ナーランダー ★
インド東部ビハール州の地。パータリプトラの南東に存在する。
グプタ朝の時代に仏教の研究・教育機関であるナーランダー僧院が設立されたことで有名。
カルカッタ(現コルカタ) ★★★
インド東部の西ベンガル州の都市で,ベンガル地方の中心都市。ガンジス川の河口近くに位置する。現在は現地読みにあわせてコルカタと改称されている。
17世紀にイギリス東インド会社がインド進出の拠点とし,イギリスの植民地時代にはその首都にもなった。
シャンデルナゴル ★★★
インド東部の西ベンガル州の都市。ガンジス川の河口近くに位置し,イギリスの拠点となったカルカッタの北方に位置する。
17世紀にフランス東インド会社の拠点が置かれ,ポンディシェリとともにフランスのインド進出の中心になった。
プラッシー ★★
インド東部の西ベンガル州の地。ガンジス川の下流沿岸に位置する。
1757年にインドに進出をめぐるイギリスとフランスの決戦であるプラッシーの戦いが行われた地として有名。
西インド
西インドは,インダス文明やグプタ美術などの古代の遺跡が多いほか,沿岸にヨーロッパ諸国の拠点がつくられたことが注目される。
地理的には,インド西海岸の沿岸に重要な都市・遺跡が多いが,内陸にも宗教寺院の重要な遺跡が存在する。
州でいうと,グジャラート州とマハーラーシュトラ州には重要な地名が多い。また,ゴアはその名のままゴア州になっているが,このゴアも重要である。
ドーラヴィーラー ★
インド西部グジャラート州の遺跡。インドとパキスタンの国境に近く,インダス川の下流にも近い。
インダス文明の代表的遺跡の一つとして知られる。
ロータル ★
インド西部グジャラート州の遺跡。
インダス川からはかなり離れているが,インダス文明の遺跡が発見されている。
アフマダーバード(アーメダバード) ★
インド西部グジャラート州の主要都市。
1930年のガンディーによる塩の行進の出発地として有名である。
ボンベイ(現ムンバイ) ★★★
インド西部マハーラーシュトラ州の州都で,インドの西海岸に位置する。現在はムンバイと改称されている。
イギリス東インド会社がインド進出の拠点を置き,以後もイギリスのインド支配の主要拠点となった。
アジャンター ★
インド西部マハーラーシュトラ州に存在する遺跡。
グプタ美術の代表的壁画などが残るアジャンター石窟寺院が有名。
エローラ ★
インド西部マハーラーシュトラ州の遺跡。アジャンターの南方に位置する。
仏教・ヒンドゥー教・ジャイナ教の寺院・像が建設されたエローラ石窟寺院が有名。
ゴア ★★★
インドの西海岸の都市。現在は周辺を含めてゴア州となっている。
16世紀からポルトガルがインド進出の拠点として支配した。
南インド
南インドについては,沿岸の海港都市が圧倒的に重要であり,あとはややハイレベルになるが,内陸にも王朝の都が置かれた都市などがある。
州はあまり重要ではないので,どの州にあるかで把握するというよりは,各海港都市について沿岸のどのあたりにあるかをおさえるとよい。
マドラス(現チェンナイ) ★★★
インド南部タミル・ナードゥ州の州都で,インド南東岸に位置する。現在はチェンナイと改称されている。
17世紀にイギリス東インド会社の拠点となり,以後イギリスのインド進出・支配の主要拠点の一つとなった。
マドゥライ ★
インド南部タミル・ナードゥ州の都市。
紀元前から14世紀頃までインド南端で栄えたパーンディヤ朝の都が置かれた。
ポンディシェリ(プドゥッチェーリ) ★★★
インドの南東岸の都市で,現在はどこの州にも属さない「ポンディシェリ連邦直轄領」となっている。イギリスが拠点としたマドラスの南方に位置している。
17世紀にフランスが占領してフランス東インド会社の拠点が置かれた。
カリカット(現コーリコード) ★★★
インド南部ケーララ州の都市。インドの南西岸に位置する。
ポルトガルのヴァスコ゠ダ゠ガマが来航した場所で,香辛料や綿織物の貿易の主な拠点となった。
ヴィジャヤナガル(現ハンピ) ★
インド南部カルナータカ州の都市。現在はハンピと呼ばれている。
14世紀から17世紀にデカン高原を中心に栄えたヴィジャヤナガル王国の都が置かれた。
中央インド
中央インドには,世界史で出てくるような都市・地点がほとんどなく,しいて言えば,サーンチーが挙げられるくらいである。
世界史では,都市名よりもデカン高原という地形の名を使って議論することが多いので,デカン高原の名称と位置をしっかり把握しておきたい。
サーンチー ★
インド中央部マディヤ・プラデーシュ州の遺跡。
マウリヤ朝のアショーカ王が建設したストゥーパ(仏塔)などが有名。
パキスタン
現在のパキスタンの領域は,多くがインダス川の流域にあり,また陸路によるインドへの進入ルートにあたっており,それとの関係で重要な都市や遺跡が存在する。
地形についてみれば,重要都市のほとんどはインダス川流域に集中しており,それ以外ではインドと外部とを結ぶカイバル峠の近くにも重要な都市がある。
州については,シンド州・パンジャーブ州については受験でも問われることがあるので,そこにある都市と対応させながら把握しておくとよい。
モエンジョ・ダーロ(モヘンジョ・ダロ) ★★★
パキスタンのシンド州,インダス川下流域にある,インダス文明の遺跡。
1922年に都市などの遺跡が発見されて,インダス文明の最も代表的遺跡となった。
カラチ ★
パキスタンのシンド州の州都で,インダス川の河口付近に位置する。
パキスタンの独立当初に首都が置かれ,1960年に首都はイスラマバードに移されたが,現在でもパキスタンの最大の都市になっている。
ハラッパー ★★★
パキスタンのパンジャーブ地方,インダス川中流域にある,インダス文明の遺跡。
1921年にインダス文明の遺跡としては初めて発見され,インダス文明の代表的遺跡となった。
ラホール ★★
パキスタンのパンジャーブ地方の州都。
ムガル帝国時代に一時は首都が置かれた後,シク王国の都も置かれた。
イギリス植民地時代には,1929年にインド国民会議が完全独立を要求するプールナ・スワラージの決議を行い,また1940年には全インド・ムスリム連盟がムスリム国家(パキスタン)の建設を目指す決議を行った地としても知られている。
イスラマバード ★
現在のパキスタンの首都。イスラマバード首都圏という,どの州にも属さない連邦直轄地になっている。
1960年にカラチから遷都が行われてパキスタンの新たな首都となった。
プルシャプラ(現ペシャーワル/ペシャワール) ★★★
パキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州の州都。ガンダーラ地方の中心地。
カイバル峠を越えてインドに入る際の玄関口にあたり,北方からインドに到来した民族の主要な拠点となった。
クシャーナ朝時代にはカニシカ王によって都が置かれ,ガンダーラ美術が栄えた。
スリランカ
スリランカについては,高校世界史や大学受験の世界史では詳細なことは扱われないこともあり,コロンボだけを知っておけばよいだろう。
コロンボ ★
セイロン島西岸の都市で,スリランカ最大の都市。
16世紀以降にセイロン島に進出したポルトガル・オランダ・イギリスの拠点となり,交易によって栄えた。
1948年にスリランカが独立するとその首都が置かれ,1954年には南アジア・東南アジア諸国によるコロンボ会議が行われたことでも知られる。1984年に首都はスリジャヤワルダナプラコッテに移されたが,その後もスリランカ最大の都市になっている。
まとめ
最後に,南アジアの全体の地形と都市・地点をまとめたものを再掲しておきます。