第1 ①について
1 本件自己株式の取得の効力について
(1) 招集手続きについて
甲社は,本件自己株式の取得にあたって,株主総会の決議(会社法115条1項3号,156条1項)を経るにあたって,甲社株主に定時株主総会の招集通知(158条1項,157条1項)を発している(資料①)。
もっとも,甲社は,B以外の甲社の株主に対し,第1号議案の「取得する相手方」の株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とすることを請求できる旨を通知しなかった(160条1項参照)。これは,B以外の株主の株式買取請求の機会(160条2項3項)を奪うものであって,重大な法令違反が存在している。
(2) 株主総会決議について
本件では,議長のCは,Bが賛成したことを理由に第1号議案が賛成されたものと判断している。
もっとも,Bは,自己株式取得の相手方たる「特定の株主」であり,Bには議決権が認められていない(160条4項)。そして,Bは甲社株式の25%を有する株主であるから,Bの議決権数を除けば,出席株主の議決権の3分の2を超えるのは困難である。即ち,Cは特別決議の充足(309条2項2号)がないにもかかわらず,可決と判断したことになる。
なお,Bは自己株式取得の相手方でもある以上,個人的利害関係を有する「特別の利害関係を有する者」(831条1項3号参照)にも該当する。即ち,Bは決議に公正を保つことができない者であるにもかかわらず,CはBの議決権を認めたということになる。
(3) 以上の事実に鑑みると,退社制度の存在しない株式会社において,投下資本の回収手段たる株式譲渡の機会を奪うという重大な法令違反があり,可決されていないにもかかわらず可決とみなした株主総会決議における重大な法令違反が存在している。これは,違反の重大性に鑑みて,法的安定性の見地から無効と解するべきである。
よって,本件自己株式取得の効力は生じない。
2 甲社とBとの間の法律関係について
甲社の本件自己株式取得の効力が認められない以上,Bは甲社の株主のままである。それゆえ,Bは甲社に対し,株主たる地位の確認請求をすることができる。
他方,甲社は,Bに対して払った25億円の不当利得返還請求をすることができる。
第2 ②について
1 まず,株主DがCに対し,処分価格を市場価格の8割とした根拠を明らかにするよう質問したのに対して,Cは説明を拒否している。
もっとも,本件においては,市場価格の8割とした点ついて明らかにしても,甲社や他の者の権利を侵害するものではない(会社法施行規則71条2号)。
そうだとすれば,Cは正当な理由がないのに説明を拒否したことになり(314条違反),株主総会決議の方法に重大な法令違反がある(831条1項1号参照)。
2 次に,乙社は,本件自己株式処分の相手方である。それゆえ,乙社は個人的な利害関係を有しているにもかかわらず,Cは乙社の賛成を認めて,出席した株主の議決権の3分の2をかろうじて上回ると判断している。
即ち,乙社の賛成を認めたことで,「著しく不当な決議」(831条1項3号)がなされたことになるという重大な瑕疵がある。
3 また,処分価格が市場価格の8割とする点については,確かに,処分を確実にするには市場価格より低くする必要性があり,また,株価は上下する性質を有することから経営の専門家たる取締役の判断にゆだねることが適切とも思える。
もっとも,取締役の経営判断といっても,市場価格の10%程度にとどめられるべきであり,市場価格より20%低い価格にすることは合理的判断を逸脱するもので,処分の相手方との関係では無効と解する。
本件では,甲社の乙社に対する本件自己株式処分の対価は,市場価格より20%低い8割の価格でなされているため無効となる。
4 以上の各瑕疵の重大性に鑑みれば,取引の安全を重視する必要性はないため,本件自己株式処分の効力は無効となる。
第3 ③について
1 無効な自己株式取得について
Cは、取締役即ち「役員」(329条1項参照)であるから,善管注意義務(330条,民法644条)及び,忠実義務(会社法355条)を負う。そして,忠実義務の一内容として法令遵守はCの「任務」(423条1項)に含まれることになる。
そうであるにもかかわらず,Cは法令に反する手続きで本件自己株式の取得を実行している。これは,Cの「任務」たる法令遵守に反する行為である。
よって,Cには任務懈怠が認められ,無効な本件自己株式取得についてCは甲社に任務懈怠責任(423条1項)を負う。
2 本件自己株式処分について
(1) 前述の通り,CはDに対して,本件自己株式の処分価格が市場価格の80%と定めた点について説明を拒絶している。
これも,Cが負う「任務」たる説明義務(314条)に反するものであって,任務懈怠が認められる。
(2) また,処分価格が市場価格の80%である点については,前述の通りCの合理的判断を逸脱するものである。
即ち,市場価格の80%より高い価格で処分すべきであったのにしない点で,甲社に損害が生じている。かかる損害は,上述のCの説明義務が尽くされていない結果,充実した会議ができないまま可決とされたことも影響している。
(3) そうだとすれば,Cの説明義務違反と,市場価格の80%で処分したという任務懈怠により,甲社に損害が生じたことになる。
よって,Cは甲社に対し,本件自己株式処分について任務懈怠責任(423条1項)を負う。
以上
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【追記】
条文を探せたのはOK。でも、財源規制に関する部分は全くできていない。
1P11行目の参照条文は意味不明。なぜこんな挿入の仕方をしてしまったのか?
自己株式取得の瑕疵と、総会決議に関する瑕疵との関係は触れていない。確かに、構成中少し疑問に思ったが、どスルーしてしまった。そもそも違う手続なのだから、その点は検討するべき点だった。
同時履行の問題に関しては、あまり知りません・・・。百選の解説の中でそういうのがあったような???
それと、要らない言葉が多すぎる。無駄に言葉を増やしていることで意味不明になっている。違反の重大性→無効の流れは理解できる。でも、法的安定性→無効となるのか?安定させるのであれば有効でも???要らない言葉を加える結果ですね。
経営判断原則は趣旨には書いてない。
自己株式取得の議論との整合性は考えていない。
財源規制の議論が抜けたため、責任の話も内容の薄いものとなっている。無理矢理記述を膨らませた感じ。
※会社法は最近論理的な思考を強く問うている気がする。基本的知識を正確にしつつ。問題を解きまくって、関連するもの相互間の関係を意識した答案をかけるよう訓練する必要あり。