相変わらず映画三昧の日々を送っていますが、10年くらい前から映画の”初見と再見”の比率が逆転してきました。若い頃は当然ですが圧倒的に初見の映画が多かったですが、このごろは再見の方が若干多くなってきました。当然、年齢に比例して見てきた映画の数が違うこともありますが、2度目や3度目で新たな発見や面白さを感じることが多いこともあります。残念ながら記憶力が落ちてきたこともあるでしょうね。さらに、その映画を知っているという安心感もあります。ただ、好きな映画、名作はやはり何度見ても面白いです。今日の映画はそんな繰り返し見るお気に入りの一本です
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夜の大走査線
1967年/アメリカ(107分)
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対立しながらも殺人事件の捜査をともにすることになった白人の警察署長と黒人刑事の活躍を描く社会派サスペンスドラマ!
監督
ノーマン・ジェイソン
キャスト
シドニー・ポワチエ/ティッブス刑事
ロッド・スタイガー/ギレスビー署長
ウォーレン・オーツ/サム・ウッド巡査
リー・グラント/コルバート
ラリー・ゲイツ/エンディコット
ウイリアム・シャラート/市長
監督はマックイーンの「シンシナティ・キッド」「華麗なる賭け」のノーマン・ジェイソン。主演は「手錠のままの脱獄」「野のユリ」「招かれざる客」「ジャッカル」などのシドニー・ポワチエ。相手役の警察署長役には「波止場」「質屋」「夕陽のギャングたち」などの名優ロッド・スタイガー。さらに「ワイルドバンチ」「ガルシアの首」などサム・ペキンパー作品に多く出演していたウォーレン・オーツ。唯一の女性出演が「シャンプー」「さすらいの航海」のリー・グラント。あとで知ったのですが脇役として有名なスコット・ウィルソンのデビュー作でちょこっとだけ出てます
▲シドニー・ポワチエ/ティッブス刑事
▲ロッド・スタイガー/ギレスビー署長
▲ウォーレン・オーツ/サム・ウッド巡査(右)
▲リー・グラント/コルバート
警官サム(ウォーレン・オーツ)は深夜のパトロール中、町の実業家が殺害されているのを発見する。めったに殺人事件など起こらない田舎町で、気負ったサムは駅で列車を待っていた黒人をいきなり容疑者として逮捕した。ところがその黒人はバージル・ティッブス(シドニー・ポワチエ)というフィラデルフィア警察の殺人課の優秀な刑事で、休暇で母の所へ帰る途中だった。初めて殺人事件を扱うギレスピー署長(ロッド・スタイガー)はベテランのティッブスの協力を頼みたいと思ったが、人種偏見の強い土地柄の上、自身のプライドもあり素直に頭をさげることができなかった。しかし、彼の論理的な思考と刑事としての手腕に二人で捜査を続けるのだが、たびたび捜査方法をめぐり対立した上に、黒人に調べられるという屈辱に町民たちの怒りは頂点に達していたのだった・・・
この作品は1967年の第40回アカデミー賞において、「卒業」「俺たちに明日はない」「招かれざる客」などをおさえ作品賞を受賞し、さらにロッド・スタイガーが主演男優賞に輝いています
原題は「In the Heat of the Night」
原題を直訳すると「夜の気だるい熱さの中で」と訳すのでしょうか。題名はそれでよかったと思いますね。邦題の「夜の大走査線」ではいささか仰々しいですね。それでも映画としては、クライムサスペンス作品として最高の一本と推す人も多いです
冒頭はレイ・チャールズの主題歌をバックに、闇の中を走る列車のロングショット!これだけで一気に画面に引き込まれます。そして「ミシシッピ州スパータへようこそ!」という看板とは裏腹に暗く悲し気な空気に包まれ、この映画が一筋縄ではいかない予見を感じさせます
ことごとくぶつかり合う二人
暑く気だるい夜に起きた殺人事件を発端に、偶然故郷に帰る途中で降りた都会の敏腕刑事と、人種差別が色濃く残る田舎町の警察署長が、いがみ合いながらも事件を解決していく物語です。単純な物取りの犯行として処理しようとする署長に対し、地道に事実を積み上げ論理的に解決しようとする敏腕刑事は何度もぶつかり合います。なんといってもこの映画の見どころのひとつはシドニー・ポワチエとロッド・スタイガーです。見るからにエリート然とした端正な顔立ちのシドニー・ポワチエに対し、始終ガムを噛んで大声で喚き散らすロッド・スタイガーが実にいいです。近年では相容れない二人がコンビを組んで事件を解決するバディ映画、例えば「48時間」のニック・ノルディとエディ・マーフィ、「ラッシュ・アワー」のジャッキー・チェンとクリス・カッター、「リーサル・ウェポン」のメル・ギブソンとダニー・グローヴァー、「バッドボーイズ」のウィル・スミスとマーティン・ローレンスなどを思い浮かべますが、彼ら二人の場合バディという関係性でないところが面白い。事件の背景にもなっている人種差別というところが暗い影を落とします
映画のはじめに、サム・ウッド巡査(ウォーレン・オーツ)に、駅で列車を待っていただけなのに黒人ということで容疑者にされました。さらに同じ黒人から
「黒人が白人と同じ格好をしてる」
と驚かされるシーンもありました。今の映画と比較すると全体的には盛り上がりに乏しい映画ですが、骨太で見ごたえのある映画です。黒人に対する風当たりは想像以上だったに違いありません。実際に映画の撮影に際してもシドニー・ポワチエは南部での撮影に難色を示したと言われています
この映画は、アメリカの差別や暴力といった重いテーマを扱っていながら、人と人との関係を深くが静かに探る作品です。黒人が金を持っていれば泥棒に違いない、若者は無秩序で暴力的だ、というような偏見から間違った正義感が生まれなかなか正解にたどり着けない。そういう中で一人の黒人の敏腕刑事と反発しつつも認める警察署長の関係は、お互いの理解によって新たな価値観、正義を生んでいる気がしてなりません
人種差別をテーマとした刑事ドラマ
刑事映画なのですが、昨今の拳銃をぶっ飛ばした痛快アクションではありません。サスペンス仕立てなのですがそれほど凝ったサスペンスではなく、全体的には時代性を考慮したとしても少し大味な印象です。同じような南部での人種差別をテーマとした映画でジーン・ハックマン、ウィレム・デフォーの「ミシシッピー・バーニング」と比べると、過激な差別描写は抑えめですが、そのぶんリアルな印象でした。例えば、ディップスとギレスビー署長が地元の有力者に捜査に行くとき、果てしなく続く綿花栽培で働く大勢の黒人を当たり前のように見ていたギレスビーがディップスに「お前さんには縁のない光景だろうな」というのを複雑な表情を浮かべていたのが印象的です。さらにその時訪ねた地元の有力者(たぶんギレスビー署長の同行がなければ、黒人のティッブス刑事には会うこともできなかった)からの平手打ちを即座に返したシーンも印象深いです。おそらく当時の南部の状況を考えるとかなり異常な出来事に違いありません。その日、市長がその顛末を聞いてギレスビー署長にこう言い放ちます
「君(署長)もずいぶん丸くなったな」
「何がです?」
「以前の署長なら、あの黒人が平手打ちを返した時点で射殺していたろう?」
物語の構図としては、都会の黒人刑事と田舎の警察署長が人種差別に抗いながら事件を解決していくのですが、シドニー・ポワチエの静かなスマートさが際立っています。この年シドニー・ポワチエは、黒人青年と白人女性の結婚をめぐる家族の葛藤を描いた「招かれざる客」、白人の高校に赴任してきた黒人教師を描く「いつも心に太陽を」、そして本作の3本に主演しています。いずれも全くタイプの違う作品ですが、人種差別を根底に描く意欲作でした。彼は人種の壁をぶち破った世界初の黒人映画スターです。いずれも話題になった映画でしたがシドニー・ポワチエはアカデミー賞ではノミネートすらされていませんでした
二人の握手
この映画でギレスビー署長を演じたロッド・スタイガーはこの年話題になった「俺たちに明日はない」のウォーレン・ベイテイ、「卒業」のダスティン・ホウマン、「暴力脱獄」のポール・ニューマンらを抑えてアカデミー主演男優賞を獲っていますが納得です。終始相手を見下す態度をとりますが事件を解決したい気持ちは変わりません。途中でディップス(シドニー・ポワチエ)が、誤認逮捕を証明した時も、新たな証拠を発見した時もいっさい謝罪やお礼の言葉もありません。途中、ディップスが事件から手を引くことになった時も、駅のホームのベンチまでやってきて「俺に頭を下げさせるつもりなのか?」と言いつつ暗の協力を求めていました
この映画はの面白さは、アクションでも謎解きでもなく、ディップス(シドニー・ポワチエ)とギレスピー署長(ロッド・スタイガー)という正反対の二人の正しい対立構図にあります。ディップスは正しい警察官としての職務を全うしようとし、ギレスピー署長は町の秩序をまもろうとする。この秩序と感情のぶつかり合いがあるものの、根本はお互いを認め合っていたに違いありません。
事件はディップスの活躍で解決します。それでも面と向かって感謝するシーンはありません。ただ、帰るときになって彼のカバンを黙って駅まで運んであげます。これが最大限の彼流の感謝の印なのでしょう。謝罪も友情もすべて言葉の外にあります
「バジール!」
「元気でな・・・」
いがみ合っていた二人がお互いに見せる初めての笑顔でした。この映画では、事件としての謎解きはそんなに重要なことではありません。先に述べた人種差別問題などの偏見を、ふたりによって変化の兆しを見せつけられたように思います。原題のごとく「夜のけだるさの中で」人間同士が少し寄り添うことで変えられることを告げているようで深い物語でした
レイ・チャールズの主題歌が流れて冒頭と同じ赤褐色の列車が静かに去っていきます。骨太でイカした映画でした
是非どうぞ!






























































