今日紹介の映画は残念ながら名画座でも見たことがありません。30年以上前にビデオのレンタル(DVDではありません)

で初めて見ました。画像や音声の状態が極めて悪く、その後10年以上経ってDVDでまともな画像を再見できました。今ではこのような古い名作を気軽に自宅で見られることに感謝したいですね

 

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サンセット大通り

1950年/アメリカ(110分)

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ビリー・ワイルダー監督による、ハリウッドの舞台裏とその栄光を忘れられない女優の悲劇を描いた傑作!

 

 

 監督

ビリー・ワイルダー

 キャスト

グロリア・スワンソン/ノーマ・デズモンド

ウイリアム・ホールデン/ジョー・ギリス

 

エリッヒ・フォン・シュトロハイム/マックス

ナンシー・オルソン/ベティ

フレッド・クラーク/シェルドレイク

ロイド・ゴウ/モリノー

ジャック・ウェップ/アーティー

セシル・B・デニム/本人役

バスター・キートン

 

監督は生涯60本以上の映画に携わり「失われた週末」「七年目の浮気」「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」などのビリー・ワイルダー。個人的に大好きな監督のひとりです。主演は、サイレント時代の大スターのグロリア・スワンソンで、74年のチャールトン・ヘストン主演の航空パニック映画「エアポート’75」が遺作になりました。もう一人の主役には、当時全く無名だったウイリアム・ホールデンが演じ、一躍脚光を浴びてその後「第十七捕虜収容所」「戦場にかける橋」「慕情」「麗しのサブリナ」「ワイルドパンチ」などに出演しています。他には、「大いなる幻想」のエリッヒ・フォン・シュトロハイム、ナンシー・オルソン、さらに本人役で「十戒」などで知られる名監督のセシル・B・デニム、友人役であのバスター・キートンなどサイレント時代のスターらが顔をそろえています

 

 

 

▲グロリア・スワンソン/ノーマ・デズモンド

▲ウイリアム・ホールデン/ジョー・ギリス

▲エリッヒ・フォン・シュトロハイム/マックス

 

物語の始まりは、ロサンゼルスの郊外にあるサンセット大通りに、サイレンを鳴らしたパトカーが、ある大邸宅の前に止まる。そこで警官たちはプールにうつ伏せで浮かんでいる男の死体を見つけます。そして、話しは半年前にさかのぼる・・・

売れない脚本家ギリス(ウイリアム・ホールデン)は、ある日借金取りに追われサンセット大通りにある古びた豪邸に逃げ込む。そこは無声映画時代の大女優ノーマ(グロリア・スワンソン)の家だった。表舞台から姿を消したものの、自分をスターと信じ込んでいる彼女は、再び華やかな世界への返り咲きを願い、自身で大量の脚本を書いていた。折しも、ギリスが脚本家と知ったノーマは彼に脚本の手直しを依頼するのだが・・・

 

  なぜ男はプールに浮かぶことになったのか?

 

この映画は、結果を先に見せ原因と過程に興味を向かせる回想形式で始まり進行していきます。そのナレーションを、プールで浮かんでいた人物ジョー・ギリス(ウイリアム・ホールデン)本人がゆっくり語り始めます。この回想形式は推理小説などで時々見られる手法で、「刑事コロンボ」もそうですし「タイタニック」もこの手法を使っています。本作では、売れない脚本家のギリス(ウイリアム・ホールデン)が、こうなった(プールに浮かんだ)ことの顛末を丁寧に説明していきます

 

借金取りに追われたジョー(ウィリアム・ホールデン)は、一時的に隠れるためにある邸宅に逃げ込みます。時代から大きく取り残された屋敷と目つきの鋭い慇懃な執事、そして、大仰で尊大な女主人。すぐに立ち去るつもりが、彼女がかつての大女優で再び銀幕へ復帰するために脚本を書いていることを知り、演出家の彼は一儲けしようと企み彼女の脚本の手直しをするのだが、彼女の異常なまでの執念、狂気までは読み取れない。そのことが大きな不幸を招きます

 

 

  サンセット大通りとは?

 

この映画は、かつてスポットライトを浴びた無声映画の大女優ノーマ・デズモンドが、若き脚本家と共に、過去の栄光を取り戻すために起きた悲劇を描いています。その彼女の姿は、時代と共に姿を消しつつある当時の映画界そのものだと言えます。その象徴がサンセット大通りで、冒頭で映る「SUNSET BLVD.」の看板が物語っています

 

このサンセット大通りには、映画関係者やスターたちの豪邸が立ち並び発展してきました。ノーマ・デズモンド役のグロリア・スワンソンこそまさに無声映画時代の大スターで、主人公そのものの経歴を辿っています。映画の黎明期はサイレント映画(無声映画)中心の身振り、手ぶりで大げさな演技が要求されてきましたが、1930年ごろからトーキーが主流になりサイレント映画のスターたちは映画と共に姿を消していきます。それが主人公ノーマであり、それを演じたグロリア・スワンソン自身です。本作の中で彼女の映画をかつて監督したセシル・B・デニムは、実際にグロリア・スワンソンの無声映画を監督し、実名で登場しています。さらに印象的なシーンで、かつての俳優仲間が集いトランプを興じる面々を見たギリスが「まるで蝋人形のようだ」とつぶやいています。その時の面々とは、チャップリンと並ぶかつての喜劇王のバスター・キートン、アンナ・Q・ニルソン、H・B・ワーナーでした。これらのサイレント時代のスターたちを「蝋人形」と揶揄したところに悲しい時の流れを感じます

 

この映画は、主人公ノーマ、すなわちグロリア・スワンソンの過去の栄光、そしてサイレント映画そのものを暗示しています。サイレント時代の大スターのグロリア・スワンソンはまさに当時の大スターで数々の映画に出演し、その共演者の中には、以前企画した「あなたが選ぶ歴代美男男優」で唯一ほくとさんが名前を挙げていたルドルフ・ヴァレンチノもいます。彼の映画は見たことありませんが、ハリウッドの貴公子と呼ばれた美男子でしたが、残念ながら31才で早逝しています

 

 

 

  忘れ去られた大スター!

 

初めて二人が会った時、部屋の中にある夥しい数の写真やサイン、トロフィを見てギリス(ウイリアム・ホールデン)が彼女の正体に気づき、彼女に問いかけた言葉にノーマ(グロリア・スワンソン)が即座に答えます

「昔、大物でしたよね」

「今も大物よ。小さくなったのは映画の方だわ!」

異様なほどの女王様ぶりは逆に精一杯の虚勢に見えて哀しく映ります。さらに大仰な身振り、話し方もそれに輪をかけています。なんといってもすごいのが、ノーマそのもののグロリア・スワンソンが生々しくそれを演じていることです。一挙手一投足すべてが主人公のノーマでありグロリア・スワンソンなのです。主人公に等身大のグロリア・スワンソンを据えたことに、監督のビリー・ワイルダーのすごさとしたたかさがあります

 

すでに忘れ去られたスターということを、本人以外は全員知っています。若干ネタバレになりますが、毎週届く彼女へのファンレターは全て執事のマックスが書いたものですし、外部との接触も全てマックスが取り仕切っており、ノーマが喜ぶような偽装もします。そこには単に主人と執事という関係をはるかに超えています。執事のマックスは実はノーマの最初の夫であり、かつてノーマの主演映画を撮っている映画監督だった男です(実際にグロリア・スワンソンの映画を撮った監督でのひとり)劇中では彼女の忠実な執事ですが、それと同時に狂っていく彼女を最後まで支え続けるた唯一の人でした

 

「イヴの総て」のベティ・デイヴィス

「サンセット大通り」のグロリア・スワンソン

  「イヴの総て」と「サンセット大通り」

 

演劇界を描いた映画はたくさんありますが、まず思い出すのが「イヴの総て」「サンセット大通り」「天井桟敷の人々」ではないでしょうか。特に、本作と「イヴの総て」は以前「イヴの総て」のレビューでも書きましたが、同じ年の公開で、アカデミー賞ノミネートが14部門で受賞6部門の「イヴの総て」とノミネート11部門で受賞3部門の「サンセット大通り」が話題の中心でした。結果的には作品賞、監督賞など主要部門を含む6部門を獲得した「イヴの総て」の圧勝のかたちでしたが、改めて映画を見た限りでは、主演女優賞はグロリア・スワンソンにあげたかったですね。それほど彼女の鬼気迫る演技は特筆ものです。かの淀川長治氏が「イヴの総てより絶対にサンセット大通りの方が面白い!」と力説し、このアカデミー賞の結果に激怒したとも伝えられましたが、それも納得の作品だと思います。

 

ちなみに、この年は名作が多く「花嫁の父」「アスファルト・ジャングル」「サムソンとデリラ」さらにキャロル・リード監督の「第三の男」も公開されていました。ちなみに、本作「ハリウッド大通り」の中で、グロリア・スワンソンが旧知の仲のセシル・B・デミル監督をハリウッドの撮影所を訪ねますが、その時に同監督が撮っていた作品が「サムソンとデリラ」でした

 

 

 

▲セシル・B・デミル監督(右)

  フイルム・ノワールの傑作

 

賛否はあるでしょうが、このような作品は夜中に濃い目のコーヒーでも飲みながら、じっくりとひとりで見たいものです。もちろん大勢で見ていただいて問題はないのですが、「この女(ひと)狂ってる」とか「さっさと逃げ出してしまえばいいのに」などという雑音は勘弁してもらいたい。だから一人で見た方がいい。最後の最後まで惹きつけられる脚本と迫真の演技は何度見ても圧倒されます。名作や傑作などと言う言葉はあまり大安売りするつもりはありませんが、そういう冠がついても恥じない作品であると断言できます

 

かつての大スターのつかの間の輝きを一緒に夢見ることができたのは、彼女に仕えていたマックスではなく、したたかな若い売れない演出家ギリスでした。そして、そのギリスもノーマの狂気に飲み込まれて行き、最後は死体となってプールに浮かびます

 

以前ブログ友のパインさんが、若い人に是非見て欲しい映画として、本作「サンセット大通り」を挙げていました。全く同感です!数々の名作を世に送り出したビリー・ワイルダー監督の代表作にして、フィルム・ノワールの頂点とも言うべき作品で、絶対に次の世代に語り継がれていくべき作品だと思います

 
▲「サンセット大通り」のラストシーン▼

  鬼気迫るグロリア・スワンソン!

 

自分が事件を起こしたにもかかわらず、正気を失ったノーマは騒ぎを聞きつけて駆け付けた記者やカメラマンを映画の撮影と思い込み、自分がかつて演じた「サロメ」のごとく階段から仰々しく降りて来るシーンは圧巻です!

 

階段から降り切った彼女に向かい、執事のマックスは、カメラを傍らに「用意はいいか!カメラスタート!」という彼の生涯最後(執事として、そしてかつて彼女お映画を撮った映画監督として)の合図を送ります。カメラは回り、ノーマは恍惚の表情でカメラの前に立ちます。鬼気迫る演技とよく言われますが、この時の彼女こそ狂気そのものでした

「なにもなくても喝采がある」

このセリフは、先に紹介した「イヴの総て」で、全てのものを犠牲にしてスターへ駆け上がったイヴ(アン・バクスター)のセリフです。本作「サンセット大通り」のラストのこのカットを見た瞬間、このセリフを思い出しました。映画こそ違いますが、ともに演劇に憑りつかれた女優の生きざまを見た思いです

 

50年代の黄金期のハリウッドの代表的な一本です

是非ご覧ください!

 

▲サイレント時代のグロリア・スワンソン▼