2019年最初の「映画レビュー」はこの映画と決めておりました!

 

実は、この映画のレビューは3年ほど前に書き終えておりましたが、さまざまな出来事に考慮しつつ何度か「お蔵入り」させておりました。この映画は「パニック映画」の先駆けとも言われており、ジャンルについてもざっくりと「パニック映画」の括りに組み込めれていますが、実は、極上の人間ドラマとして認識していただきたくレビューしました!

 

この映画を初めて観たのは、公開後数年たった70年代半ばで、東京下町の名画座で観ています。あまりのすばらしさにその後、雑誌「ぴあ」を片手に東京中の名画座を駆け巡り、ようやく二度、さらにテレビ、レンタルで数回づつ観ており何度観ても飽くことがない思い出の一本です!

 

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「ポセイドン・アドベンチャー」

1972年/アメリカ(117分)

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1969年に発表されたポール・ギャリコの小説をもとに作られたパニック映画の金字塔!

 

 

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<監督>

 

ロナルド・ニーム

イギリスの名監督!この映画の監督で有名ですが、アルバート・フィニーアレック・ギネスらの「クリスマス・キャロル」(1970年)やジョン・ヴォイト「オデッサ・ファイル」(1974年)、シャーリー・マクレーン「泥棒貴族」(1966年)などさまざまなジャンルの映画を撮っていますが人間ドラマの描き方が抜群に上手な監督です。パニック映画のひとつとして作られた79年の「メテオ」は評判倒れですが、「ミス・ブロディの青春」(1968年)は地味ながら素晴らしい映画でした!

 

<キャスト>

 

ジーン・ハックマン/スコット牧師

今さらですが「許されざる者」「ミシシッピー・バーニング」「クリムゾン・タイド」など多数。37才の時に出演したアメリカン・ニューシネマの名作*「俺たちに明日はない」(67年)で脚光をあびた遅咲きで、先日もDVDで4回目の「エネミー・ライン」を観たばかりです。この映画の前年には「フレンチ・コネクション」でアカデミー主演男優賞を受賞し、この一年後には以前レビューしたこともある大好きな*「スケアクロウ」に出演し、まさにノリにノッテいる時期でした!

 

アーネスト・ボーグナイン/ロゴ刑事

たぶん200本以上の映画出演がある名優で、たぶん他の映画でも観たことがあると思いますよ。強面で敵役が多く、以前レビューした*「ウイラード」やペキンパーの「コンボイ」などにも出演しています。リー・マービンの「北国の帝王」の鬼車掌役は強烈でした

 

レッド・バトンズ/マーティン

キャロル・リンレイ/パリー

 

シェリー・ウィンタース/ベル・ローゼン

ジャック・アルバートソン/マニー・ローゼン

 

レスリー・ニールセン

ステラ・スティーヴンス/ロゴ夫人

ロディ・マクドウォール/エイカーズ

パメラ・スー・マーティン/シェルビー

 

何と言ってもジーン・ハックマンの型破りの牧師が印象的です!ちょうどこの時期ハリウッドでは「ダーティハリー」イーストウッド「ゲッタウェイ」マックイーン「レッドサン」ブロンソン三船敏郎といった甘い二枚目スターというより男くさい型破りな男優像というのが主流だったことも成功要因だと思います

 

*以前レビューしています

*「スケアクロウ」

*「俺たちに明日はない」

*「ウイラード」

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映画の歴史を変えた一本!

 

大みそかの夜、パーティーで賑わう豪華客船ポセイドン号を海底地震によって一瞬の内に船は転覆、生き延びた人々は生存をかけて脱出に挑むが・・

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同年公開の「ゴッドファーザー」と共に世界中を席巻し、大ヒットを記録!CGのない時代にすべて実写というのが驚きで「タワーリング・インフェルノ」と並ぶパニック映画の最高峰!

 

パニック映画の「原点」にして「頂点」

 

あの超大作「タイタニック」(1997年)の製作の手本ともなったと言われる「伝説的な作品」で、単なるパニック映画にとどまらず奥深いヒューマンドラマとして仕上がっています 

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物語は、大型旅客船が荒れる海を進むシーンから始まります

 

「生存者はわずかだった。これは彼らの物語である」

 

豪華配役に加えて発想も当時としては奇抜!

 

この映画には二人の対照的な牧師が登場します

一方は、「神を信ぜよ!信じる者は救われる」と説く普通の牧師で年老いたジョンと、一方は「自分自身の道を切り開かなければ神も助けてくれない」と声高にいう異端の牧師スコット

 

この二人の信念の違いがこの映画のテーマです

 

「神はお忙しい!」

 

「神は勇者を求めます。ひざまずいて助けを乞うたらそれでいいというのですか?寒くて凍え死にそうなら、祈るより家具さえも燃やすべきです!」

 

自分は無宗教ですので「教え」について何とも言えませんが、この映画では非常時の行動、リーダーシップの在り方を示しています。ご存知の通り「ポセイドン」はギリシャ神話の海神のことで、文字通り、生を賭けての「アドベンチャー」なのです

 

船が反転して、このままここに留まり助けを待つべきだという多くの人々を、スコット牧師が生きる為に「クリスマスツリーを登って上に行こう」と説得するシーンが印象的です

 

スコット牧師(ジーン・ハックマン)とローゼン夫人(シェリー・ウィンタース)との会話

 

「上に行きましょう!」

「スコットさん、上には何があるというの?」

「希望(命)です!」

 

この映画の象徴的な名シーンだと思います!

この時の太ったおばさんは、エリザベス・テイラーモンゴメリー・クリフト主演の名作*「陽のあたる場所」でアリス役を演じたシェリー・ウィンタースで、あまりに変わりようで絶句(笑)。ただ、彼女の存在はこの映画では大きかったですね

 

*以前レビューしています

「陽のあたる場所」

 

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海洋パニック映画の常識?!

 

「脱出(生還)の時には、必ずもう一度水の中に潜らなければならない!」という海洋パニック映画のルール?を作った映画です!息苦しさと緊迫感、さらに、水中動作の遅さを見せての前後のスピード感を強調する見事な演出で、後年続々作られたパニック映画でのシーンの元ネタはこの映画と言っても過言ではありません!

 

この映画には、いくつもの名シーン、名セリフがあります!

 

困難な脱出の途中でローゼン夫人が夫に問いかけるセリフ

 

「ねえあなた、これを最後に言ってからどれくらい経つかしら・・・愛していると」

「さあなあ・・20年くらいか?」

 

この脱出は太った自分には無理かもしれない・・でも、愛するあなたは絶対に脱出してほしい!こんな思いがこの短いセリフに込められていたと思います!それをさらりと言いのけたご主人の変わらぬ愛に思わず目がしらが熱くなりました

 

「お前ひとりを残しては行けない!」

 

いくつものドラマがこの映画にはあります

そのひとつひとつが素晴らしいです

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人間ドラマとして素晴らしい映画!

 

パニック映画としての映像の素晴らしさ、凄さはもちろんありますが、この映画の本当の良さは人間ドラマが色濃く描かれていることです!登場人物の描写がしっかりしており、ドラマ性が高いところが他のパニック映画との差というか力量の違いです。

 

脚本、キャスト、映像すべてケタ違いに面白い!

 

古さは否めないですし70年代っぽい大雑把さや一部のダイコン役者ぶりも笑えますが、これほど力強い映画も珍しい!

 

スコット牧師とロゴ刑事の二人のやりとりは迫力あって面白いですし、この二人を含めてキャラクターの豊かな人間性の描き方も複雑にせずわかり易くしたことで、緊張感が増しました。このあたりの映画の作り方が抜群にうまいですね

 

この映画は「パニック映画」であり「パニック映画ではない」そう評価される理由がこの人間ドラマの面白さからです

 

70年代は多くの名作があり、さまざまな「映画のブーム」の先駆けとなります!

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カンフー映画における「燃えよドラゴン」

オカルト映画における「エクソシスト」

新たなSF映画ブームにおける「スターウォーズ」そして「エイリアン」

動物パニック映画における「ジョーズ」

パニック映画における「大空港」そして「ポセイドン・アドベンチャー」

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子供が船内をうろうろして、トイレで小便器がさかさまになっているシーンなどを織り交ぜながら、強弱や緩急をつけた演出は見事です。出演者の女性の足がみんなキレイなのは、それも計算なんでしょうか、それともサービスなんでしょうか(笑)

 

 

「私は、この映画を見るために生まれて来た」

 

そう絶賛したのは、あの淀川長治先生です

 

この映画は、2006年にウォルフガング・ペーターゼン監督によってリメイクされております(「ポセイドン」)。カート・ラッセルらによる迫力ある映画でしたが人物描写が希薄でただ見せるだけの映画になったのが残念です

 

近年の映像技術の進歩には目を見張るものがあり、感心するばかりです。このCGのない時代にスペクタルな映像の凄いこと!アナログでしか出せない味、凄さが妙に引き付けられます。かつての大作のリメイク作品が越えられない理由のひとつがここにあります!

 

画像の凄さは技術により、やがて超えられ陳腐化しますがドラマは基本的に変えられません!これを両立させたことに、この凄さがあります。この映画のあと、数多くのパニック映画が作られましたが、この映画を超えられないのはこの一点に尽きます!ちなみに、この映画と並びパニック映画の最高峰と言われる「タワーリング・インフェルノ」(74年)との比較をよく質問されます。タイプが違う上に、ポール・ニューマンマックイーンを配した「タワーリング・インフェルノ」は、大好きな映画でいつか必ずレビューしたい映画ですが、物語が広がりすぎの感があり評価の点でも好き度の点でもこの映画だと言わざる得ません!

 

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挿入歌のモーリン・マクガバンが歌う

「モーニング・アフター」もすばらしいです

 

ラストのロゴ(アーネスト・ボーグナイン)のセリフが全てを物語っています。ひとりのリーダーとして、みんなを救えたことだけでなく、生き抜くためになにをすべきかということに・・・

 

「奴(牧師)は正しかったんだ!!」

 

パニック映画として最高峰のみならず、人間ドラマとしても超一級の70年代を代表する映画です!

 

この映画を三度劇場で観られたことに感謝したいです

 

必ず観るべき映画です!