「そんなの無理でしょ?」
「無理じゃないよ。頑張る」
「旅行の時に体調を崩しちゃうことなんて…どうしようもないことだって、私も思ってる。
だからそれを直して欲しい…ってことじゃないんだよ?」
「ううん。体調崩さないようにするから」

非現実的なことを真剣な声色で言う凌亮に私は少し笑ってしまった。

「そんなの…無理なことじゃん」
泣き笑いして情緒がおかしくなった。

「無理じゃないよ。旅行の計画も全部唯に甘えていたけど、ちゃんと俺も考える」

そんなふうに言って繋ぎ止めてくれることが嬉しかった。

移動時間や滞在時間まで計算して綿密に作った行程表通りに行かないことに不機嫌になっていたこと。

電車旅も座ればすぐに寝てしまう凌亮を見て不機嫌になっていたこと。

私はなんて心が狭かったんだろう。

凌亮と旅行ができる。
一緒に朝を迎えられる。

それだけで幸せなことなのに、全く凌亮に寄り添っていなかった。

いくつか行きたい場所をピックアップしておくぐらいで、綿密な行程表なんて必要なかった。

凌亮の体調を一番に考えて行動するべきだった。

凌亮に肩を貸してあげて寝かせてあげれば良かった。

旅行という一大イベントにひとり肩肘張って、私は何をそんなにむきになっていたのだろう。

私はやっとそんなふうに自分の言動を省みることができた。

と同時に、何か自分の気持ちが軽くなったような感覚になった。