私はひとより情報がおそいので、
飯島奈美さんを知ったのは、「南極料理人」
(たべものが主役の映画ナンバーワンではないかと思う。
事件らしい事件は起こらないと言えば言えるけど、
なんか大昔の学生寮みたいな感じがすてきだった)
なんです。
そこから、
飯島奈美、という名前を意識して映画をみるようになったんですが、
でも飯島さんの料理だぁ~というのが全面に出てるのは
「南極料理人」をもって嚆矢とするって気がします。いまのところ。
表紙からして、「カモメ食堂」のシナモンロール。
そう、この本は映画に出てきたお料理を飯島さんが、
料理だけではなく、テーブル周りの雰囲気を含めて再現した
シネマ料理の箱庭的な作品集なのであります。
「クレイマー・クレイマー」のフレンチトースト。
私もこのフレンチトーストのエピソードがすきです。
はじめは息子に八つ当たりなんかして、全然なっちゃなかったお父さんが、
最後になると息子といいチームになっているって感じで。
思い出しただけでほろっとする。
茶色でまとめられた画面もすてきだったけど、
お母さんがペインティングした水色の空の子ども部屋もすてきだったなあ。
映画は飯島さんが選んだものだそうです。
アエラの連載のために、月に4本、たべものの出てくる映画を
探して、そのレシピを試作して、セットを考えて。
「西の魔女が死んだ」のいちごジャム。
飯島さんもこの映画をみたんだ~と思うとやっぱりうれしい。
ちなみに、ナミというのは、フィンランド語で「おいしい」という意味だそうです。
なんていい名前なんでしょう。
あれっ?
「きょうの猫村さん」も映画になったの?
と思いましたが、マンガだけどあえて、みたいです。
飯島さんも猫村さんを読むんだなあと思って、
ちょっとうれしい。
伊丹十三監督の第二作、「タンポポ」のチャーハン。
飯島さんは、「映画を観終わった後にたべたくなる
料理」という自分の原点を決めた映画、とおっしゃってます。
「大病人」から伊丹映画の料理に携わり、映画の楽しさを知ったそうです。
月に4本の映画を決めるために、年間140本の映画を
時には10倍速で料理のシーンを探したり、
料理が決まったら図書館で郷土料理の本をしらべたり、
ひとに話を聞いたりして、
この連載を続けていたそうです。
シフォンケーキのひとつのために、17種類のレシピを焼き分ける。
ほんとうのプロだなあ、と思いました。
すきな仕事だからこそ全力投球で、納得がいく答えを探すというか…。
お気に入りのことばとシーンという章に、
フーテンの寅さんの、
「生まれてきてよかったなあ、ってことが何べんかあるじゃねえか。
それを感じるために人間は生きてんじゃねえのか?」
という言葉が紹介されていました。寅さん映画もまた、
おいしそうなたべものが出てくる映画でした。
こんなみっしり中身のつまった本を、あっというまに読んでしまって
申し訳ないような気持ち…でももし、これが文庫本になっていたら、
春先のちいさな電車旅にぴったりな気がします。