ノエル――フォア・ハンズ 2 | 菅原初代オフィシャルブログ「魔女菅原のブログ」

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現れたのは、白い塊だった。なにかの冗談としか思えないほどの、
肥満した身体は、北極熊のようだ。不機嫌そうな顔。


 担任が転校生の出身や名前を披露するが、ざわめきにかき消され、かろうじて、
「ノエル」とだけ聞えた。不釣合いなほど、軽やかな名前に失笑が洩れる。

席がきまって、これで騒ぎも落ち着くかと思えた瞬間、
とてつもない大きな笑い声が起こった。


椅子に座ることができないのだ。机と椅子のあいだの空間に、
ノエルの巨大な肉塊は、入り込むことができなかった。

結局、ノエルのために、美術室の机と椅子の一組を運搬したのは、
当然、機転のきく学級委員の私だった。


超然とした態度で、挨拶なしで座るノエルを、
白けた空気が包む。私は内心、どうしようもなく、快哉をあげていた。
これで決定的だ。ノエルは生け贄の山羊になるしかないだろう。


 だが、意外にもノエルは、一種独特な人気を集めてしまった。

合唱コンクールの練習のために設けられた音楽の時間に弾いたピアノに、
クラスは騒然となった。転校してきたばかりだというのに、
どうして校歌を、しかもジャズのアレンジに乗せることができるのだろう。


 鍵盤の上を、猛烈な勢いで疾走する白い指先。その跳躍。
鍵盤の上のサーカス。音楽の教師の比ではなかった。
この中学では、終業式の前日に合唱コンクールが行なわれることになっていて、
ピアノはすでに決まっていたのだが、ノエルがピアノを弾くことに、誰もが賛同した。


私は圧倒されながら、目の前の白い塊を、認めることができなかった。
指揮棒でこの白い芋虫を殴りつけたい衝動を、かろうじて押さえつけ、
水崎ノエルという名前を、心のなかで踏みつけていた。


泥のなかに捨てられ、泥にまみれた白い手袋。
そうなって当然だったのは、ノエルの方なのに。