もう 知る人も少なくなったかと思うが、埼玉県入間郡に『新しき村』という集落がある。
武者小路実篤と同志により、理想郷として、ただ生活するためのものではなく、精神に基づいた世界を築く目的で開村された村だ。
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![From With-201212092027000.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20121209/20/with322/df/fc/j/t02200124_0427024012323190341.jpg?caw=800)
十数年振りに行ってみた。
前日、友人に誘われて仙川の『武者小路実篤文学館』を訪ねた際、ふと思い出して館長さんにその村のことを聞いたのがきっかけだった。
あの頃でさえ入植当時の面影がやっと残るくらいだったので もはや記念公園か何かになっているだろうと思っていたら、なんと今も十五人の村民が月刊誌を滞らせることなく暮らしていらっしゃるという。
そして館長さんは毎年年初に 皆さん揃ってこの文学館にご挨拶にいらっしゃるんですよ、と言いながら今年発刊された11冊の『新しき村』を見せて下さった。
失礼ながら(まさか・・)と思った。無くしたと思っていた想い出の品を見つけたような気持ちになった。
昨日、(行け)と言わんばかりに有休をとっていたAさんに頼んで高速を走らせた。
あの頃と変わらない小さな踏み切りを渡る。
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雑木林、梅林、茶畑・・・
そして、「この門に入るしものは自己と他人の生命を尊重しなければならない」と記した柱が二本以前と変わらずすっくと立ち、
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その道の向こうに実篤がデザインした(全人類同胞の思想・人類平和共生の理想)を表す旗が掲げられていた。
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恐る恐る美術館の戸を開けた。中から「はい。いらっしゃいませ。」と朗らかな声が聞こえて初老の女性が出迎えて下さった。
そして、不覚にも「皆さん、お元気なんですね。」と言った私に「元気です、元気です。だからこうして頑張ってるんですよぉ。」と胸を張ってみせられた。
『図書館』には読み重ねられた白樺派の書籍、美術書、月刊誌etcが整然と並び、古いアルバムに入植以来の村の歴史が刻まれていた。
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食堂の入り口が農産物販売所になっていて、私は森の香残る椎茸、カボチャ、大根と産みたて卵を買った。
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奥には村民の方々の食を預かる厨房があって何人かの女性が定食らしいお膳を揃え、その近くで作業着姿の男の方々が談笑しながらそれを食べていた。
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『新しき村』は健在だった。
人の世の日溜まりを生きるようにすこぶる健在だった。そして、この事実は私に明日の一歩を踏み出す希望を与えてくれた。
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「またいらして下さい!!春には桜が見事に咲きますから!!」と美術館にいらした女性が声を掛けて下さった。
土の匂いを嗅ぎながら、私も笑顔で「はい、必ずまた。」と会釈して別れ、晴れ晴れとした気持ちで また高速を走らせて帰ってきた。
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