先日、お休みを取ったAさんが突然「蛍を観に行こう!!」と言い出した。
私は週中一回のお休み日で、趣味の朗読レッスンのあとの心地よい疲労にうとうとしていた時だった。
(ひゃ~!今から~!もう夕方じゃない~・・・)と、一瞬ためらったが、ずっと前から現地の蛍ブログで出没状況を確かめていたAさんが言い出したのだから従う他無し。
いつもなら生徒達と賑やかにレッスンが始まる頃に車のエンジンをかけ、中央高速を西に向かった。
山梨県身延町の下部温泉近くにある一色に着いたのは、もう7時半を過ぎていた。
山間いのひっそりとした駐車場に地元蛍保存会の方々がわずかな光で誘導してくれた。
夜も遅いのに案内小屋から7、8歳位の男の子、女の子が数人出てきて「蛍、今日はいますよ~♪いっぱい いますよ~♪」とうちわを振っているのが一足早い夏休みのようだった。
道路を渡り、一色川添いに出た。
確かに・・・
ほの白い闇に一歩入ったところにある夢想の空(くう)に 光るものがあった。
草丈ほどの鑑賞を想像していた私達は その 光るものが蛍であることを認めるのに少し時間がかかったが
美しい光は闇に慣れ始めた私達を招くようにスワッ、スワッと光っては消え、光っては消えた。
(流れ星みたい・・・ )
そう思った。
そう思うほどに 闇を作る森と 闇を覆う空との間を蛍の輪が線を描いて舞っていた。
ほの白いとはいえ(手付かずの中で)をモットーに解放された畦道は、気を抜くと川に田に滑り落ちる。
細く張られた1本のロープとAさんが引いてくれる手を頼りにそろりそろり歩く。
気が付けば 蛍の中にいた。
草ほどに飛ぶ蛍は川面に映って数を増やし、竹ほどに飛ぶ蛍は夜空に光って数を増し、そこにいる人達はみんなして星降る天に包まれた。
小さな橋で群れから外れた一匹が私の手のひらに留まった。
「あっ、Aさん、蛍・・」と言いかけたら スッと飛んで行った。
ほんのかすかだがチクッとした足の感触と一緒に光の温もりが残り、
それは かすかなはずなのに線香花火の残り火に「熱っ・・」と声を上げた幼日を蘇らせた。
その時、観光客の絞るようなささやきを破って 女の子の高い声がした。
「陽平~!陽平~!
どこにいるのよぉ!!」
さっき案内所にいた女の子だった。その子が多分一緒にいた同級生らしい陽平君を呼んでいるのだ。
静寂などお構い無しに私達をかき分けて行く小さな肩に苦笑した。
そして、あの子も私位になったとき、「蛍」の文字に故郷を想い、この闇の賑わいに陽平君を探したことを懐かしむのだろう・・・と思った。
カジカの声を心地よく聴きながら、私達は夢の間に間を帰路についた。
途中、談合坂で一息入れようとパーキングへの緩いカーブを切ったとき写メール添付のメールが入った。
北海道のHちゃんからだった。そして、添付された写メールには礼装のHちゃんとウェディングドレス姿の愛娘Mちゃんが腕を組んで映っていた。
夢の間に間に届いた夢の様なメール。
余りある幸せを祈りながら余りある幸せをもらった・・・と、思わずHちゃんのいる東の夜空を眺めながら
手のひらに残る蛍の温もりを そっと包んだ私だった。
![From With-201206161123000.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20120616/11/with322/d0/f4/j/t02200391_0240042712030329755.jpg?caw=800)
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