【シングルよもやま話 56】 歌詞の解釈が悩ましい(?)女性アイドルの衝撃的なデビュー作をどうぞ | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 さてさて、梅雨もすっかり明けて毎日暑い日が続いていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回はまたまた’80年代の歌謡曲に戻って、「よもやま話」ってことでいってみたいと思います

 今回取り上げるシングルは、私が高校生だった1983年にお目見えした女性アイドルのデビュー曲
なのですが、歌詞の世界が私の中でイマイチ十分に理解しきれてなくて、30年以上経った今もなお、ひとり悶々としている問題作)なんですよね~。…きっと、このブログに目を通して下さっている皆さんの中にも、リアルタイムでご存じの方が多そうな予感がしたりなんかして。これですよん


「チェリーガーデン(桜の園)」(木元ゆうこ)
作詞:阿木燿子、作曲:中村泰士、編曲:川村栄二
[1983.5.1発売; オリコン最高位-(124)位; 売り上げ枚数 -万枚]
[歌手メジャー度★; 作品メジャー度★; オススメ度★★]


 1983年デビュー組にカウントされるアイドル歌手と言えば、以前に記事を書いた松本明子の他に、岩井小百合武田久美子伊藤麻衣子冨田靖子桑田靖子森尾由美太田貴子原真祐美徳丸純子大沢逸美松尾久美子高橋美枝横田早苗吹田明日香小出広美河上幸恵佐藤由梨水谷圭ルー・フィン・チャウ。うーむ、メンツ量としては申し分なく賑やかだし、個人的には結構楽しませてもらった面々なんですがねぇ…。中森明菜・小泉今日子などの82年組、中山美穂・斉藤由貴・本田美奈子などの85年組あたりと並べると、どうしても「メジャー級の歌手を一人も出せなかった」年という評価になってしまいます。

 世間的評価の厳しい(
)そんな1983年、木元ゆうこは、ポリドール・レコード30周年記念歌手)として華々しくデビューを果たしました。デビュー曲の作家陣(阿木-中村-川村)を見ても、かなりの力の入れようだったことが分かりますよね。ただ、あの時代のアイドル歌手だとやはり“素材選び(一にルックス、二に個性…)”が最大のポイントでしたから、その点では大いに疑問符のつくところ…(少し下ぶくれ気味のホッペとか、ぽってりした唇とか、個人的には好みでしたが…木元さんどーもすいませんm(u_u)m)。 私があえて書くまでもなく、ポリドール自体は歴史のある会社ですが、当時のポリドールは(テイチクあたりと同じく)アイドル歌手を売り出した経験と実績がほとんどなかったので、素材選びに長けていなかった面もあったでしょうね…。ちなみに、新人アイドル歌手が豊作だった前年(1982年)にポリドールが売り出したのは、スターボーでありました…(←ダメ押し情報)。

 それでは、さっそく作品のご紹介をば。まず、アラフィフの私を長年悩ませてやまない(←大げさ
)、阿木燿子センセによる歌詞を見ていただきましょう。こんな感じです。


(Aメロ) ♪ あなた憧れているのでしょう
        女の子だけのハイスクール
        ツタに覆われた礼拝堂
        懺悔を捧げる乙女たち
(Bメロ)   あなた憧れのチェリーガーデン
        アヴェ=マリアはもう聴けない
        セーラー服は昔のままでも
(Cメロ・サビ) 桜の枝を手折るのは誰?
        夢を壊してごめんなさい
        ざわめいて なまめいて
        チェリーガーデン 花ざかり

(Aメロ) ♪ あなた想像しているでしょう
        肌が触れあう モーニング・トレイン
        黒髪の人が抱えている
        ハイネの詩集の背表紙を
(Bメロ)  ※ 永遠(とわ)の憧れのチェリーガーデン
        アヴェ=マリアはもう聴けない
        セーラー服の中身が息づく
(Cメロ・サビ)  桜の花を散らすのは誰?
        今度遊びに来て下さい
        ときめいて 謎めいて
        チェリーガーデン 恋ざかり ※

(※ くりかえし)


 んで、私がいったい何に悶々としてるかと言うと、このエロいシチュエーションに もとい「歌詞の冒頭の“あなた”は、男なのか? それとも女なのか?」という疑問に対してです。…いや、私もこの曲をリアルタイムで聴いたときには、“あなた”=“男”だと信じて疑わなかったですよ。“桜の枝を手折る”のも、“桜の花を散らす”のも“男”だし、“朝の満員電車の中で肌が触れあう”のを想像するのも“男”に違いないよなぁ…ってね。でもそれにしちゃあ、“懺悔を捧げる乙女たち”とか、“アヴェ=マリア”とか、“ハイネの詩集”なんていう、ひと昔前の少女漫画に登場しそうなメルヘンチックな世界が強調されすぎてやしないか… その後成人してから、この曲を何度も何度も聴くうちに(←「この行為こそまさに変態」とか言いっこなしでどうかひとつ)、私にはもう“桜の園”ではなく、“百合の世界”としか思えなくなってしまいましたとさ

 …コトの真偽は阿木燿子センセご本人にお聞きするしかないのですが、私としては、「この歌詞はどちらの意味にもとれるように阿木センセが意図的に仕掛けた → さすが一流の職業作家は違う
」というスタンスで無理矢理納得している今日この頃…なのであります。実際、どちらの意味にとってもちゃんと論理破綻しないような歌詞になっているんですよね(“あなた”=女の場合には、主人公に憧れる後輩の女のコという設定になるのかな)。ま、フツーは女性アイドル歌手のデビュー曲に”百合の世界”を持ち込むわきゃないので、単に私の妄想ってだけだと思いますが

 それにつけても、「硬軟とりまぜたフレーズで青少年の心に揺さぶりをかけるなんて、実にケシカらん(=うまい)詞だよなぁ…」と思います
。つまり、先に挙げた“懺悔を捧げる乙女たち”、“アヴェ=マリア”、“ハイネの詩集”などのフレーズは背徳的な想像力をかき立てる“隠喩表現”によってじわじわと、そして一方で、“ざわめいて なまめいて”や、“セーラー服の中身が息づく”のように思わずドッキリの“直喩表現”でストレートに、当時健全な高校生だった私(←ここは笑うところではないぞよ)の心を大いにかき乱したワケですよ

 中村泰士センセによる曲の方も、不安を駆り立てるような切迫感あるイントロ~Aメロから始まって、複雑なコード進行を駆使することでどこまでも墜ちてゆく感じを巧みに表現したBメロ(この部分は川村栄二センセのアレンジの功績も大きいかも
衝撃的な歌詞を下支えする妙に落ち着き払ったサビ(Cメロ)で最後まで突っ走る構造になっていて、阿木センセの強烈なインパクトの歌詞に十分に耐えるお見事な仕事ぶりに思わず唸ってしまいます





 中村泰士センセといえば、世間的には、細川たかしの「心のこり」(1975.4.1発売、オリコン最高位1位、オリコン売り上げ枚数80.1万枚)や「北酒場」(1982.3.31発売、3位、77.5万枚)、桜田淳子の「私の青い鳥」(1973.8.25発売、18位、15.9万枚)のような明るい作風の曲を書くコンポーザーというイメージが強いかも知れません
。でも、この「チェリーガーデン」や、ちあきなおみの「喝采」(1972/9/10発売、2位、80.7万枚)のように、複雑なコード進行をベースに独特のメロディを紡ぐこともできる稀有な職業作家ではないかと思います

 歌っている木元ゆうこは、
デビュー当時にしてこのスキャンダラスな歌詞内容なのに、歳はまだ16 この1年半前に ♪ 伊代はまだっ16だぁ~から~ が受け入れられた当時の音楽シーン(世相)を思うにつけ、さすがにアイドルとしてはちょっと色気が過剰だったのではないでしょうか(“夢を壊してごめんなさい”のフレーズあたり、妙に説得力ありすぎてガキんちょには毒ですよ…まったく)。

 そんなこともあってか、アイドル歌手としてはシングル2枚、アルバム1枚をリリースしてフェイド・アウト
。そしてその2年後、芸名を樹本由布子に改名してアダルト路線で再デビュー、というあまりに予定調和的な流れにはちょっとうんざりでしたが…。彼女の場合、特に中音域の声質になかなか良いものがあったと思うので、もう少しアイドル歌手としての展開を見たかった気がします

 それでは、今回はこんなところで
 またお逢いしましょう~