【独偏ベストテン 43-1】 ピンク・レディーのシングル作品 (6~10位) | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 前回の独断と偏見のベストテンでは、’80~90年代に活躍したトップアイドルの一人、中山美穂を取り上げましたが、今回は時間を’70年代まで巻き戻して、ピンク・レディーのお二人にご登場願いましょう。

 


 ピンク・レディーは、テレビのオーディション番組「君こそスターだ!」での落選を経て、「スター誕生」の東京大会に参加してサロペット姿でフォーク・ソングを披露。決戦大会でレコード会社と芸能事務所1社ずつからかろうじて札が上がり、何とか歌手デビューにこぎ着けます。・・・そう、実に意外なことに、彼女たちは同じく’70年代デビューの桜田淳子や‘80年代デビューの中森明菜のように、最初から大スターになることを期待されて世に送り出された歌手ではなかったんですね・・・。

 そんなケースでは、普通であればデビュー曲として手堅いフォーク・ソングが当てがわれ、おそらくはあまり売れることなくいつしか芸能界から消えていく運命となったはず
の2人だったと思うのですが、彼女たちは幸運の星の下に生まれたシンデレラ・ガールズでした 「スター誕生」の審査員だった作詞担当の阿久悠センセと、作曲担当の都倉俊一センセが、“大化け”か“大コケ”かを賭して、健康的なお色気路線を狙ったチャレンジングな快作「ペッパー警部」を準備してくれた上に、振付け担当の土居甫センセが、スタッフですら目を背けるような前代未聞の“過激な振付け(実際には大して過激ではないが、当時としてはありえなかった”で勝負することを頑として譲らなかったのです。私が生業とする“研究”の世界でも同じですが、何か大きな仕事を成し遂げるためにはやはり守りに回るだけではダメで、時には低い可能性に賭けてみるチャレンジ精神も大切だということなのでしょう。

 かくして、阿久悠センセをはじめとする“仕掛人たち”は賭けに勝利し、ピンク・レディーは瞬く間に国民的人気者となりました
阿久悠センセによれば、ミーとケイはデビュー前から高いプロ意識と歌手としての資質を備えていた
ようですが、彼女たちが“大スター”として歌謡界に君臨できた最大のポイントは、やはり阿久悠、都倉俊一、そして振付師の土居甫各氏の“プロとしての矜持”と“チャレンジ精神”であったと思わずにはおれません。

 そんなこんなで、我が国におけるこれまでの歌謡シーンを俯瞰するに、ピンク・レディー(とその仕掛人たち)ほどチャレンジングな試みを企て、かつ大きな実績を残したアーティストは他にいない
といっても過言ではありません。ところが、私が未だにどうにも納得いかないのは、その奇抜な振り付けやレコードセールス面での記録ばかりが取り沙汰されるあまり、ピンクレディーの”アーティストとしての音楽的評価”が不当に低すぎるのではないかという一点に尽きます。

 ピンク・レディーは、1976年8月25日にリリースされたデビュー曲「ペッパー警部」から1981年の解散までに、全部で22枚のシングルをリリースしています。このうち、連続ミリオンセラーを達成した1977年夏から1978年夏までの“最盛期”は、5作目の「渚のシンドバッド」から9作目の「モンスター」までの5作品
。その後、アメリカ進出に打って出たわずか1年の間に、ピンク・レディーブームは潮を引くように去ってしまい、1981年3月に後楽園球場で開かれた解散コンサートの淋しい動員ぶりは、かつて一世を風靡した2人には酷なものだったと聞きます。

 ところが実際に、彼女たちの残した22作のシングルを聴いてみると、ヒットした作品のみが素晴らしかったというワケではなく、全盛期の作品はもちろん、1978~79年にかけて売り上げが急降下した作品群、そして1980~81年にかけて売り上げがジリ貧を極めた作品群、いずれも様々な魅力にあふれた秀作揃いだった
ことが分かります。今回の独偏ベストテンでは、彼女たちが「ピンク・レディー」として1976年から2003年の再々々結成までにリリースした全25作のシングル作品を対象に、10作品+次点作品をセレクトした結果を、6~10位、1~5位、資料編の3回の記事に分けてお送りしたいと思います。・・・そして案の定、今回の結果は、特定の時期にリリースされた作品ばかりに偏ることなく、いかにも私らしいテイストの順位に収まりました

 それでは、長らくお待たせしましたが、順位の発表をば。今回は次点(11位)から6位までの結果を一気にどうぞ~


次点 Last Pretender 【オススメ度★★】
作詞:糸井重里、作曲:高橋ユキヒロ、編曲:高橋ユキヒロ
[1981.1.21発売; オリコン最高位85位; 売り上げ枚数0.8万枚]

 惜しくも独偏ベストテンの次点に泣いたのは、21作目のシングル「Last Pretender」でした~
。まぁしかし、全部で22曲ある第一期ピンク・レディーの楽曲ではおそらく最も“仲間はずれ(=異端)”ということになるであろうこの作品が、錚錚たる作品群を抑えて上位半分に入ったというだけでも、十分に番狂わせの結果と言えるかも知れません

 この作品に関するレビューで必ず語られるのが、「テレビ・ラジオ・コンサートで、ピンク・レディーが一度も歌うことがなかったというエピソードです。そりゃそうでしょう。元はと言えばこの作品は、Y.M.O.がピンク・レディーのヒットシングル群を分析して「テクノポリス」などのヒット作を飛ばしたお礼として提供されたみたいなもの。それに、Y.M.O.サウンドはそもそも“ステージで作り込んでナンボ”の性格であるため、“生歌を聴かせる”には極めて不向きな代物なんですよね・・・

 曲の構成は、A-B-A-B-C(サビ)-A’-B-C-Bと、かなり変則的と言えますが、高橋ユキヒロが作曲したと思えば違和感はありません
4小節と短くて単調なBメロを幻想的に繰り返すところ、サビのCメロ(♪ プリテンダー 私は~)に覆い被さってくる英語のセリフ、冒頭とラストの“いかにも”な効果音などなど、良くも悪くもY.M.O.色120%の作品に仕上がっているので、Y.M.O.ファンにとっては垂涎モノでしょうが、ピンク・レディーのファンには理解されにくい作品かも知れません。かくいう私にとっては、ミーのファルセットの美しさと可能性に改めて気づかせてくれた佳曲だったりするのです。



第10位 DO YOUR BEST 【オススメ度★★★】
作詞:伊達歩、作曲:都倉俊一、編曲:井上鑑
[1979.12.5発売; オリコン最高位36位; 売り上げ枚数5.1万枚]

 第10位に滑り込んだのは、ピンク・レディーのオリジナルシングル作品としては初めて阿久悠センセが作詞を外れた第一作である16作目シングル「DO YOUR BEST」でした
。この作品は、彼女たちにとってはオリコン最高位が初めて20位に届かず、シングル売り上げ枚数も初めて10万枚を切るという、非常に苦しい時期の作品であるがゆえに、世間的にはあまりいい印象を持たれていないのではないかと思われます。でも、“ピンク・レディーの衰退期にリリースされた作品”という先入観を捨てて聴いてみると、意外な佳曲なのではないかと私は思うんですけどねぇ・・・

 曲の構成は、A-A-B-C(サビ)-B-C-A。初っ端から、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの超名曲「宇宙のファンタジー」を想起せずにはおられないイントロが哀愁を誘います
。ところが都倉センセは、当時としては斬新だった同音連打&リズム主導の単調なメロディをAメロ(♪ ジャンヌ・ダルクの生まれ変わりよ~)とBメロ(♪ いつかヒーロー DO YOUR BEST~)に畳みかけることで、イントロでいったん出した“ご馳走”をしばらく引っ込めてしまうんですね。で、曲が佳境に入ったところ(サビのCメロ)で、メジャー調の甘く優しいメロディをお見舞いすると、「スイカに少し塩を振るとかえって甘さを強く感じる」のと似たような効果が・・・。実は、この手の”剛と柔のメリハリを利用した揺さぶり”は、ピンク・レディーの他のシングル作品でも頻繁に登場するワザなのですが、おそらくこの「DO YOUR BEST」は、このテクを最も激しく効かせた作品と言えるでしょうね



第9位 サウスポー 【オススメ度★★★】
作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一、編曲:都倉俊一
[1978.3.25発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数146.0万枚]

 第9位は、ピンク・レディーとしては第2位のオリコン売り上げ枚数を誇る7作目シングル「サウスポー」でした~。「え~こんな大ヒット曲が、何でそんなに順位が低いの~」と感じる向きもあるでしょうね。でも、サビメロの美しいことが最大の特徴である彼女たちのシングル作品群にあって、この「サウスポー」のサビは、私にはやや物足りなく感じられるのです。もっとも、歌詞の舞台設定、アップテンポで小気味よい曲展開、要所要所でマリンバが見せるいい働き(アレンジ)なんかはやはりお見事という他はなく、私のお気に入りの一作であることは間違いありません

 この「サウスポー」では、歌詞の全面的な書き直しのエピソードが有名ですよね
。そう、よりによって最終レコーディングまで終わった段階で、阿久悠センセが飯田久彦ディレクターから、「これまでのピンク・レディーの作品に比べて歌詞に面白味も勢いもないというシビアなダメ出しを食らって、たった一晩での書き直しを余儀なくされたという、あの話です。果たして阿久悠センセから出てきた歌詞が、♪ 背番号1の すごい奴が相手 フラミンゴみたい ひょいと一本足で~ というんだから、やはり阿久悠センセはタダ者ではないです。阿久センセもあの時ばかりはさすがに「少しムッとしたと述懐しておられますが、プロとして作品の仕上がりに妥協しない両氏の姿勢には本当に頭が下がるばかりです・・・。それともう一つ、♪ 男ならここで逃げの一手だけど 女にはそんなことはできはしない~ というくだりは、実にパラドキシカルでうまいところをついた言い回しだと思いますよねぇ



第8位 世界英雄史 【オススメ度★★★】
作詞:伊藤アキラ、作曲:川口真、編曲:川口真
[1980.5.21発売; オリコン最高位45位; 売り上げ枚数1.7万枚]

 第8位にランクインしたのは、18作目のシングル「世界英雄史」でした~ ひところは社会現象にまでなった“ピンク・レディー旋風”も、この作品をリリースする頃にはすっかり“なり”を潜めてしまい、彼女たちがマスコミの話題になることもほとんどなくなっていました。従って、この作品をまともに聴いたことのない方も多いことと思います。でも、“食わず嫌い”でスキップしてしまうには惜しい佳曲だと思うので、この際ぜひご一聴下さいね

 まず詞の方ですが、ナポレオンから始まって総勢16人の歴史的英雄を登場させるといういかにもピンク・レディーらしい“風呂敷の拡げっぷり”です(歌詞を手掛けたのが阿久悠センセではないのがちょっと意外ですが)。実際には、この作品の主人公は16人の英雄たちではなく、「歴史には残らないけれど、私の歴史を作ったあの人(=私にとっての英雄)」という形で落とし前をつけているのが実に巧み
です。彼女たちの曲は、初めこそ人間界から題材をとっていましたが、超人(王貞治)、宇宙人、モンスター・・・と、シングルをリリースするたびにキャラがインフレ化する一途でしたから、そうした傾向を逆手にとった“オチの付け方”にはすっかり意表を衝かれました

 曲の方は、さすがに私の敬愛する川口真センセだけあって、A-B-A-C-D(サビ)-A-B-A-C-D-C-Cと、定石をやや外した“凝った構成”になっています。後期ピンク・レディーを象徴するアメリカン・テイスト路線のイントロ(Cメロと同じ)からAメロまでが、アダルト&ハードな世界を表現しているのはまぁ“お約束”だとしても、その後に4小節のみのドラマティックなBメロ(♪ その名は英雄 たたかう男~)を挟むところなんかはいかにも川口センセらしいマニアックな仕事ぶりですし、サビのDメロ(♪ 忘れないひとりの人~)に至ってはちょっと悶絶モノの甘いメロディで、思わず聴き惚れちゃう
んですよね・・・。たった4分強の歌の中にいろんな要素が詰め込まれた“欲張りな一作”と言えるでしょう。




第7位 S・O・S 【オススメ度★★★★】
作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一、編曲:都倉俊一
[1976.11.25発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数65.4万枚]

 第7位にランクインされたのは、彼女たちの2作目シングルにして、初のオリコン1位獲得曲である「S・O・S」でした~。イントロのモールス信号が電波法の規定によって流せないため、放送局が自主規制した・・・というエピソードは、あまりにも有名ですよね

 この「S・O・S」は、女の子に向かって「男の子には気をつけなさいよ」と優しく諭すような歌詞といい、8ビートに乗せた可愛らしい感じのメロディといい、ピンク・レディーの全シングルのうち、最もアイドルっぽい楽曲
ではないかと思います。この頃はまだ、彼女たちの5作目シングル「ウォンテッド(指名手配)」あたりから現われるaggressive(攻撃的)な表現も見られず、カラリとしたお色気含みの歌謡ポップスをミーとケイが歌っているというのがかえって新鮮に感じられるのは私だけでしょうか。

 曲の構成は、A-A'-B-C(サビ)-A-A'-B-Cと、歌謡曲としては非常にオーソドックス。特筆すべきはやはり、サビ(♪ S・O・S S・O・S~)よりもBメロ(♪ この人だけは 大丈夫だなんて~)の方が美しい点(ミーとケイのハモリもgood
)と、それに絡んでくるオーケストラの生楽器を駆使したアレンジが実に座りよく収まっていて、’70年代の歌謡曲の楽しさを象徴するような出来になっているところでしょう。それにしても、ントロの駆け上がるようなストリングスには、どうも既視感、もとい“既聴感”があるなぁ・・・と思ったら、同じく都倉俊一センセがアレンジを手掛けた「狙いうち」(山本リンダ)(1973.2.25発売)とウリ2つなのでした。きっとコレ、都倉センセの“手癖”の一つなんでしょうね



第6位 モンスター 【オススメ度★★★★】
作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一、編曲:都倉俊一
[1978.6.25発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数110.2万枚]

 ピンク・レディーにとって最後のミリオンセラーとなった8作目シングルの「モンスター」が、第6位に入りました~。「透明人間」、「カメレオン・アーミー」と並んで“お子様向け路線()3部作”の第1弾にあたる作品でもありますね。

 曲の構成は、A(サビ)-B-B'-C-A'-B'-C-A'彼女たちのシングルでは少数派の”頭サビから始まる作品”です
。この曲では、どうしてもイントロで都倉センセがカマしたモンスターの笑い声「ワハハハハ・・・」のインパクトが大きいのですが、そういう“飛び道具”的な興味はともかく、メロディ&アレンジ面でもあれこれと仕掛けと工夫が凝らしてある点にしっかりと着目してほしい作品です。

 ’70年代の歌謡曲では、シンセサイザーがまだ登場しておらず、その分、生楽器を使った重厚なサウンドが味わえるのが嬉しいポイントの一つだと思うんですが、中でも都倉センセが曲とアレンジを手掛けたピンク・レディーのシングル作品群は、様々な楽器が細かく配置されていて奥行きのあるオーケストラ・サウンドが楽しめるのが素晴らしい
のです。

 この「モンスター」に関しても、スネアドラムを効果的に使った分厚いサウンド、思わず身体がリズムをとってしまう小気味よいビート、覚えやすく味わいもある頭サビなど、“お子様”以外にも自信を持っておススメできる要素がてんこ盛りの秀作
だと思うので、これまで、「ガキ向け」という先入観からこの曲をしっかりと聴いたことのなかった皆さんには、これを機会にぜひ再評価して戴きたいですね~。




 ・・・それでは、今回の発表はこんなところでおしまい
 次回は、「【独偏ベストテン 43-2】 ピンク・レディーのシングル作品 (1~5位)」と銘打って、いよいよ上位5作品を発表したいと思いますので、どうぞお楽しみに~