【お薦めシングルレビュー 28】 長いタイトルは伊達じゃない!詞曲共に重厚な超名作メガヒット! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 曲のタイトルというものは、一義的には、“その曲の内容を端的に表現しているもの”であることがやはり望ましいと言えます。となると、タイトルは自ずとパッと見て分かりやすい、コンパクトなものが主流になる・・・というのが自然な流れでしょう。実際の歌謡シーンでも、’70年代あたりまではまさにそう言った状況でした

 ところがここで目先を変えて、タイトルを少し長めにしてみたらどうでしょうか。短いタイトルの中にちょっと長くて目先の変わったものがあれば、それは当然目を惹きますよね
。‘80年代前半に、シングル曲のタイトルでこれをやったのが横浜銀蝿ファミリーでした。こんな感じです()。

●「お前サラサラサーファー・ガール おいらテカテカロックン・ローラー」(T. C. R. 横浜銀蝿 R. S.)(1982.2.24発売)【31文字】
●「ドキドキHeartのバースデイ・パーティー」(岩井小百合)(1983.3.9発売)【21文字】
●「ハードボイルド・ロマンス“奇麗”」(嶋大輔)(1984.4.21発売)【16文字】
●「好きさ好きさ好きさ好きさ好きさ」(紅麗威甦)(1982.11.17発売)【15文字】


 ここでは特に長いものを挙げてみましたが、これら以外の彼らのシングルも、タイトルはだいたい長めでした
。ただ、彼らはもともと、「ヨロシク」をわざわざ「夜・露・死・苦」などと表記するのが好きな人種ですから、おそらく私が上に書いたような商売上の戦略というよりは、単に「目立ちたい」一心から出たものだったと思われます

 では、タイトルを長くすれば「インパクト効果」が得られて万々歳じゃないかというと、必ずしもそうとは言えないのが面白いところ
一体どういうことかと言うと、タイトルがあまりに長いと、テレビ・ラジオのベストテン番組にリクエストしてもらえないんですね・・・。これらのベストテン番組は、’80年代後半まで、ヒット曲を生み出す重要な役割を担っていたせいもあって、’80年代をざっと眺めても銀蝿ファミリー以外に長いタイトルのシングルはあまり見られません

 ところが、1989年に「ザ・ベストテン」、1990年に「歌のトップテン(ザ・トップテンの後続番組)」が次々と終了し、ベストテン番組が完全消滅してしまうと、状況に大きな変化が訪れます
1991~2年頃から、いわゆる「ビーイング系アーティストの台頭」が始まると、彼らがこぞって長いタイトルのシングルをリリースしまくるんですね。1アーティストにつき1作で15文字以上に限るというやや厳しい制約を付けても、こんなにあるんですから・・・ほら()。

●「別れましょう私から 消えましょうあなたから」(大黒摩季)(1993.4.28発売)【20文字】
●「夏の終りにあなたへの手紙書きとめています」(三枝夕夏 IN db)(2009.8.26発売)【20文字】

●「錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう」(WANDS)(1997.9.3発売)【18文字】
●「あなたの夢の中 そっと忍び込みたい」(宇徳敬子)(1993.8.4発売)【16文字】
●「君の家に着くまでずっと走ってゆく」(GARNET CROW)(2000.3.29発売)【16文字】

●「君はマニュアル通りには動かない」(BAAD)(1994.1.19発売)【15文字】
●「この一瞬という永遠の中で・・・」(MANISH)(1996.1.22発売)【15文字】


 「リクエスト」される必要がなくなれば、あとは目立った者勝ち
・・・というワケでもないのでしょうが、ビーイングがセールスの戦略上、インパクト効果を狙って長いタイトルを乱発したことは、想像に難くありませんよね。もっとも当時は、チャート上位に長いタイトルばかり並んでしまっために、肝心の目立つ効果はどこへやらという笑えない状況になってましたけどネ

 ・・・ふぅ。やっと本題にたどりつきました
。今日ご紹介する作品は、同時期にリリースされた長いタイトルの超名作シングル、コレで~す(


「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」(B’z)
作詞:稲葉浩志、作曲:松本孝弘、編曲:松本孝弘、明石昌夫

[1993.3.17発売; オリコン最高位1位; 売り上げ枚数193.2万枚]
[歌手メジャー度★★★★★; 作品メジャー度★★★★★; オススメ度★★★★★]


 タイトル文字数は何と21文字 ビーイング系のシングルの中でも、これはひときわ長い方ですね~

 この作品は、パンチと深みを併せ持つドラマティックなメロディが何と言っても素晴らしい のです。冒頭から泣かせる気マンマンのストリングスの音色、ほんのりとオリエンタルな風味を帯びたサビのコード進行(下記参照)、中盤以降にスローテンポでこれでもかとサビを重ねてくる小技・・・計算され尽くしたこれらの仕掛けが効果的に機能した結果、多くの人たちの心を揺さぶる大名曲になり得たということではないかと思います

♪ 愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない  
  (D→E→C#m→F#m→Bm7→C#m7→D→E→A)
  太陽が凍り付いても 僕と君だけよ消えないで
  (D→E→C#m→F#m→Bm7→C#m7→D→E→F#m)


 詞の方も、メロディのテンションの高さに負けないほどの「アツさ」です。何てったって、♪ 太陽が凍り付いても 僕と君だけよ消えないで~ さらには、 ♪ 他人(誰か)の血が流れても 一途な想いを振りかざそう~ ですから・・・。主人公の男の視線は、自分と相手の女性にしか注がれていない・・・そこには、自分たちのためには他人の犠牲も厭わない「究極のエゴ」が見え隠れしています。もちろん、これはあくまで“熱い想いのたけ”の比喩的表現なのであって、実際に誰かを傷つけるという即物的な意味ではないワケです重厚なメロディとのバランスという観点から考えると、誤解を招くリスクを負ってまで、あえて過剰気味な表現をセレクトした勇気()は実にお見事 と思わず感心せずにはいられません



 ・・・さてっと、今回のレビューはひとまずここまでにして、最初に触れた「長いタイトル」がちょっと興味深いので、強引に話を戻したいと思いま~す。すでに挙げたタイトル以外で、私が思いついたものをいくつか書いておきます(他にもまだあると思うので、漏れがあったらぜひ教えて下さいね)。一応、(1)副題は含まない、(2)句読点、カンマ、!、?などの記号も1文字とカウントする、(3)英語のみのタイトルは除く(文字数がぐんと増えるため)、という条件のもとで、文字数の多い方から並べてみます。まずはシングルA面のタイトルから。

●「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」(宮本浩次)(1996.1.21発売)【36文字】
●「ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス」(スターダスト・レビュー)(1982.5.25発売)【29文字】
●「届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ・・・」(GACKT)(2005.8.10発売)【27文字】
●「ただ抱きしめるだけの愛で悲しませないつもりなんて」(パーコパコ)1993.10.10発売)【24文字】
●「あの太陽が、この世界を照らし続けるように。」(コブクロ)(2011.4.27発売)【21文字】
●「どうして君を好きになってしまったんだろう?」(東方神起)(2008.7.16発売)【21文字】
●「風を受け走る君には怖いものは何もない」(UN’z)(1994.6.1発売)【18文字】
●「僕がどんなに君を好きか君は知らない」(郷ひろみ)(1993.1.21発売)【17文字】
●「幸せについて本気出して考えてみた」(ポルノグラフィティ)(2002.3.6発売)【16文字】


 一方で、シングルA面以外(シングルc/w及びアルバム曲)の方では、世間の目にほとんど晒されないことをイイことに記録の塗り替えだけが目的の“奇を衒った”タイトルが横行・・・ほとんど無法状態に近い感じがします

 ちなみに、私が知る限りにおいて現時点で最も長いタイトルは、ヴィジュアルバンド「LEM」が2010年にリリースしたもので、何と517文字(でも無意味な代物なのでタイトルを書き下すのはスキップ) それまで最長とされていた、プログレロックバンド「内核の波(ないかくのわ)」が2006年にリリースした341文字(こちらも同上)を更新したということですが、いずれもダラダラ長いだけで、シングルA面の長いタイトルを鑑賞するような醍醐味は期待できません・・・む~ん、こちらはちょっとガッカリだったなぁ

 それでは、今回の記事はこんなところで。またお逢いしましょう~