【お薦めシングルレビュー 29】 小さな恋の物語をメルヘンチックに描いた王道アイドルポップス! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 1976年に始まった「ホリプロタレントスカウトキャラバン(ホリプロTSC)」も、昨年にはなんと37回目を迎え、現存するタレントオーディションとしては一番の老舗として不動の地位を築いています。歴代の優勝者をざっと眺めてみると、榊原郁恵(第1回)、堀ちえみ(第6回)、井森美幸(第9回)、戸田菜穂(第15回)、深田恭子(第21回)、石原さとみ(第27回)・・・というように、歌手・女優・バラエティと幅広い分野で活躍する才能を数多く発掘してるんですねぇ

 そんな歴史のあるホリプロTSCの第10回決戦大会(1985年)の会場に、一人の男が学生審査員として参加していました(もちろん私です
 当時大学1年生。・・・あ、このハナシ以前にも少し書きましたっけ・・・まいっか)。この決戦大会は、厳しい予選を勝ち抜いてきた最終候補者4名の中から優勝者1名を決定するというもの。「学生審査員そんなん必要ないでしょ」という声もありそうですが、ホリプロ関係者の話によれば、「プロの評価とは別に、候補者と同年代の目から見て人気のあるコに得点が入るようにしたい」という狙いがあったようで、在京大学の歌謡曲サークル&アイドルサークルに向けて招集がかかったというわけです

 優勝者を選ぶに当たって、歌手デビューした際に“お客さん”になってくれそうな層の声を重要視するというのは、“地に足のついたやり方”とでも言いましょうか、確かに企業の戦略として取り得る選択肢の一つだと思いますね
。ところが、当時すでに沢山あったタレント事務所のうち、大学生風情なんかとマトモに取り合ってくれるところなんて、ホリプロサンミュージックくらい。本当に数えるほどしかなかったんですから・・・(お蔭で、ロハでタレントを学園祭に来てもらう交渉は、毎回困難を極めることに)。

 もっとも、TSC決戦大会当日に学生審査員として参加した連中の間では、「いくらホリプロが親“学生”派の事務所と言っても、学生審査員の票で優勝者の行方が左右されるなんていうリスクを冒すだろうか・・・
なーんて穿った見方もありました。だから、あの日会場で私が投じた一票(正確には押しボタン式でした)がちゃんとカウントされたかってのは、実にアヤシイんですけどね(例えば学生審査員のボタンだけ、実は集計マシンに繋がってなかったとか)。

 そんなこんなで、今回取り上げるのは、第10回ホリプロTSC決戦大会で、中村由真(スケバン刑事Ⅲ)、我妻佳代(おニャン子クラブ会員番号48番)、白石(鳥山)さおり(ミスコン53冠、小野寺“HOTEL”丈の奥様)と競って見事にグランプリに輝いたこのお方(↓)のセカンドシングルで~す。

「セシリア・Bの片想い」(山瀬まみ)
作詞:松本隆、作曲:宮城伸一郎、編曲:船山基紀

[1986.6.21発売; オリコン最高位28位; 売り上げ枚数2.0万枚]
[歌手メジャー度★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★★★]




 この作品は、松本隆作詞&宮城伸一郎作曲による、新人女性アイドルの王道路線とも言うべき爽やかで可愛らしい極上のアイドルポップスです。まずはYouTubeをどうぞ~



 イントロの透明感あるグランド・ピアノの音色にウットリする間もなく、規則正しいビートが、イギリス郊外と思しき舞台とした小さな小さな恋物語の始まりを告げてくれます
。作品の構成はA-B-Cという単純明快な形になっていて、通常の歌謡ポップスのように印象的な“サビ”で勝負するのではなく、まるで物語を読むようにストーリーが徐々に展開するような仕掛けになっているのがお見事 もともとキャッチーなアイドルポップスが好みの私ですが、こういう大らかで洒落た趣向の作品も大好きなんですよね・・・

 セシリア・Bという名前の女のコの健気(けなげ)な想いをメルヘンチックなフレーズを駆使して表現した松本隆センセの歌詞が相変わらず冴えてます
。1986年リリースという時代を考えると、「れんげの咲く丘」、「土ぼこりの田舎道」、「花の文字」、「草で作った笛」、「リンゴの木の枝」という言葉遣いは明らかに古めかしいワケですが、これらがとても懐かしく効果的に感じられるような状況設定になっているのはさすがそれと、下の歌詞からも分かるように、結局彼女の想いが「あなた」に届くことはなく、なかなかに切ない幕切れなのですが、曲を聴いた後も“ほんわかと温かい気分”の余韻がしばらく残るのもとってもgoodなのです

  ♪ セシリア・Bの片想い
    土ぼこりの田舎道に
    ちぎって置いた花の文字
    読み取ってね 大きな I Love You

  ♪ セシリア・Bの片想い
    リンゴの木の枝に座り
    そっと目を閉じて待ったのに
    くちびるへと触れたのは風

  ♪ セシリア・Bの片想い
    本を抱いて丘に立てば
    青い瞳のトンボ追う
    あなたの幻影(かげ) 届かぬ I Love You


 作曲の宮城伸一郎センセは、財津和夫センセ率いるあのチューリップに途中から加入したベーシストで、ほぼ同時期に芳本美代子にシングル「アプリコット・キッス」を提供
。それにしても、チューリップのメンバーと言えば、財津和夫姫野達也、そしてこの宮城伸一郎と、優しくて可愛らしい感じの女性アイドル向けの作品を書くのが得意なメンツばかりというのは一体どういうわけでしょう・・・。いや、もちろん単なる偶然だと思いますが何とも不思議な感じがします

 山瀬まみの歌唱もなかなかキュートですよね
。彼女の歌い方の特徴の一つである「しゃくり上げ歌唱」から、つい松田聖子のソレを思い浮かべてしまうのは「ご愛敬」といったところでしょうか・・・(まぁ、しっかりと自分の魅力にしていると思いますし)。本人のキャラはともかく、こういった品のある正統アイドルポップスを歌わせると、自分の持ち味を実によく発揮する貴重な歌い手さんだったと思います。

 で、この名作をあの“時東ぁみ”がカバーしてるっていうので、彼女のライブ映像をYouTubeで聴いてみたところ、こちらはかなりガッカリでした・・・
。イントロからいきなり本人の「手拍子よろしくね~」でずっこけたのはさて措くとしても(手拍子なんかそぐわない曲だってことが分からんかなぁ)、歌詞の含蓄をまったく無視したあんまりな歌唱に、オリジナルの素晴らしさを知る者としては軽~くめまいがしてしまいました。・・・いやね、私は決して「“やばせばび”みたいに上手に歌え~」って言ってるんじゃないんですよ。要するにもっと作品を大切に扱ってほしいってこと 昭和歌謡にスポットライトを当ててくれるのは嬉しいんだけれど、そこんとこはくれぐれもよろしくお願いしたいもんです

 ・・・ん
「それはそうと、学生審査員だったお前は誰に一票入れたのか」ですって・・・ 決戦まで勝ち抜いてきただけのことはあって4人とも甲乙付け難い接戦だったのですが、最後はやはり歌唱力が一歩擢んでていた山瀬真巳子さん(決戦大会時点での本名)にボタンを押しましたよ~。そしてその一年後にはこんなに素晴らしい作品で楽しませてもらうことになるわけで、あの日、会場で私が下した判断はやはり間違っていなかったなぁ・・・と今さらながら思うんですよネ

 それでは、今日のところはこの辺で
 またお逢いしましょう~