【シングルよもやま話 44】 メロディと緩急が目まぐるしく変わる都倉センセの”意欲作”はどうよ! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 「意欲作」・・・このフレーズだけ聴くと、何だか随分と良さげなイメージですよね。でも、このフレーズが歌謡曲とセットで使われる場合には、ちょっと眉にツバを付けて見てやる必要があるかも知れません。ええっと、これだけじゃ一体何のことやらさっぱり・・・って感じですか。要するに、「今度の新曲は意欲作で・・・」という風に紹介されるような歌謡曲は、「今度の曲は定石を外して冒険しちゃったので、皆さんのお気に召すかどうか(不安です)・・・」とほぼ同じ意味であるケースがほとんどだってことです

 こうした“意欲作”では、作り手サイドのチャレンジングな試みが聴き手に喜ばれれば大ヒット
の可能性も期待できるワケですが、なかなかそう上手くいかないのが現実というもの作家サイドが冒険して行き着いた先に聴き手の“ニーズ”がなくて「大コケ」となる確率は、実はけっこう高いと言えます。・・・で、ちょっと意地悪な言い方になってしまうのですが、ここで重要なポイントは、「普通、売れている歌手は“意欲作”なんか出さない」ということです。せっかく軌道に乗っている歌手が、あえて危険を冒す必要などないのですから・・・

 そういえば、あまりに目先が変わった曲を出したために、元々のファンが「ついてゆけない~
」と悲鳴をあげたケースが現にありました。1980年にデビューした田原俊彦がシングル10作目としてリリースした「NINJIN娘」(1982.8.6発売)がそれです。1982年当時のトシちゃんといえば、シングル売り上げ50万枚以上を維持していた1年目の勢いこそなくなっていましたが、まだコンスタントに30万枚の売り上げが見込める人気者でしたから、そんな局面でリリースされたファニーな珍曲「NINJIN娘」は、ある意味「意欲作」、「冒険作」だったと言って良いでしょう。ところが結果は散々なことに・・・。リリース前にラジオ番組でオンエアされた直後から、多くのトシちゃんファンが強い拒絶反応を示してちょっとした物議を醸したので、事の顛末をご存知の方も多いかも知れません。

 夏に日焼けをして真っ赤っかになった”キミ(彼女)”を、よりによって野菜に喩えてしまったのがトシちゃんファンのカンに障ったのか、それとも、歌詞全体があまりに“幼稚”でバカっぽすぎたのがいけなかったのか、はたまた曲の最後の ♪ 秋になるころ“食べ頃”さ~ というフレーズが「まぁっ、トシちゃんったらお下劣~」と思われちゃったせいか、その辺はよく分かりません・・・(きっと全部いけなかったのでしょう
)。

 閑話休題。“意欲作”の話に戻りましょう
。今回ご紹介するのは、まさに“意欲作”というほかにちょっと表現しようのない作品です。曲自体もチャレンジングで目先の変わった代物ですし、それをリリースしたアーティストも、セールス的にジリ貧状態に陥った“後のない”状況下にあって、あれこれ試して何とか現状を打破したいという気持ちが強く伝わってくる・・・この作品で~す()。


「ブラック・サンシャイン」(狩人)
作詞:伊達歩、作曲:都倉俊一、編曲:都倉俊一
[1980.4.10発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
[歌手メジャー度★★★★★; 作品メジャー度★; オススメ度★★★]


 「ブラック・サンシャイン」は、狩人の11作目シングルにして、都倉俊一センセが1年9ヶ月ぶりに作・編曲を担当した作品です。そう、あの大ヒットしたデビュー作「あずさ2号」(1977.3.25発売、オリコン最高位4位、売り上げ枚数51.2万枚)は、実は都倉俊一センセの作品だったんですよね~


 それでは、まずは一度YouTubeをご覧いただきましょうか




 この動画は、狩人が「夜のヒットスタジオ」に出演した際のものですが、いやはやこりゃ懐かしいわ~
 曲の目新しさもかなりの衝撃だったんですが、曲のラストの方で、レーザー光線を浴びながら雨の中をずぶ濡れになって歌うという演出があまりにイカしてた(←死語)もんで、忘れようにもちょっと忘れられない映像なんですよね~

 曲の方はいかがでしたか。好きとか嫌い以前に、「複雑すぎてよく分からなかったから、もう一度見てみないと・・・
という方が、実は一番多いのではないでしょうか。メロディと緩急が目まぐるしく変わる難曲ですが、ロック調でカッコいいし、実は聴けば聴くほど味の出てくる“スルメソング”なので、いつかカラオケで歌って見たい衝動に駆られているのは、きっと私だけではないはずです(きっと歌いこなせないで敗れ去ること必至ですが)。

 それでは、この曲の一番の特徴である“緩急”の変化に着目して、少し見ていきたいと思います
。歌詞はざっとこんな感じになっていま~す()。

(※1) ♪ 朝から夜まで陽射しも当たらず
       歯車みたいに働き続けた
       黒く翳った太陽だけにらんで 闇雲に走った
       過ぎ去る季節を黙って見送り
       優しい誰かの手紙も途絶えた
       どこか似ている太陽だけ信じて ひたすらに走った
(※2) ♪ 割れたガラスの窓から 俺を見ていた
       ブラック・サンシャイン ああ忘れはしない
(※3) ♪ Shine Shine この腕に太陽の炎
       Shine Shine 忘れないがむしゃらな日々を
(※4) ♪ 夜明けを告げる黒い接吻 ブラック・サンシャイン


 (※1)では、ハードボイルド・ロック調の“急”パートが繰り返されます。「なんだ退屈な曲だなぁ・・・」と思っても、そこはちょっとガマンして下さい
(※2)以降のドラマティックな場面へとより効果的につなげるための布石なのですから。耳を澄ますと、クィーカ(=ゴン太くんの声がバックで鳴りまくっているのも要チェックです(以前にこのブログで取り上げたクィーカ大好きな藤本卓也センセも大絶賛・・・)。

 (※2)では、いきなり歌謡曲チックなコード進行が登場・・・これがまた味わい深いメロディで、私は大好きなんですよねー
 スピード的には(※1)のロック調から歌謡曲調へと心持ち減速。でもまだ“急”は維持されています

 (※3)ではさらに減速して、(※1)で提示されたモチーフが繰り返されます。普通の歌謡曲だとせいぜい(※2)までで終わってしまうことを考えると、やはりこの作品は「意欲作」であり、「異色作」なんですよね


 (※4)では、♪ 夜明けを告げる黒い接吻 の部分でいったんスピードを回復させたと思ったら、♪ ブラック・サ~ンシ
イン で急減速して大団円。これまでさんざん揺さぶりをかけられてようやくたどり着いたせいかも知れませんが、ラストでシンセが高らかに奏でる平和的なメロディが心にグッときます

 そんなこんなで、(※1)から(※4)まででようやく1セット・・・ふぅ
。私のような歌謡曲マニアにとっては、非常に凝った作りになっているのが嬉しいですし、何と言ってもオリジナリティに溢れた作品なので、狩人のシングルの中では最も高く評価しているのですが、さっぱり一般ウケせず・・・むむぅ残念

 まぁ、よくよく考えてみると、都倉センセには、彼らの3作目シングル「若き旅人」で、曲の最初から最後まで余分な力が入りすぎ
・・・ってな感じの“軍歌歌謡(←たったいま私が作った造語です)”を提供するという大冒険を敢行して大コケした(セールスを前作「コスモス街道」の1/3まで減らしてしまった)という“前科”があるしなぁ。「若き旅人」も「ブラック・サンシャイン」も間違いなく都倉センセの「意欲作」だったと思うのですが、結果的にそれに振り回されてしまった狩人のお二方がどうにも気の毒な感じがしてしまう私なのでした・・・。

 今回はこんなところでおしまいです
。それではまたお逢いしましょう~