【お薦めシングルレビュー 26】 アクロバティックなファルセットが見事な正統派アイドル歌謡! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 春といえば、何といっても“新人アイドルのデビュー”に相応しい季節ですよねっ・・・んもう、こんなに爽やかな季節だってぇのに、先日のレビューで、よりによって暗さの極致のような「赤色エレジー」を紹介しちゃった手前、こんな手のひら返しみたいな書き始めも何なんですケドねぇ・・・

 でももう引っ込みつかないので、手のひらを返したまま話を進めます
。去年の今頃は、爽やかな季節に相応しいオススメの新人デビュー曲として、「虹いろの瞳」(新井薫子)「白いバスケットシューズ」(芳本美代子)「ティーンエイジ・ソルジャー」(中村容子)あたりをご紹介しましたよね・・・(覚えてます)。アイドルのデビュー曲ってのは製作者側の腕の見せ所のような一面もあるせいか、嬉しいことに世にあまり知られてない名曲がまだまだあるんですよねぇ

 今回は、そんな中から一作ピックアップしてみました
。どういうわけかセールス面ではパッとしなかった曲なのですが、歌謡曲マニアの間では、いまだに楽曲・歌唱ともにトップクラスの評価を得ているこの作品で~す()。


「ちょっと春風」(沢田富美子)
作詞:三浦徳子、作曲:小田裕一郎、編曲:大村雅朗

[1981.4.1発売; オリコン最高位114位; 売り上げ枚数-万枚]
[歌手メジャー度★★; 作品メジャー度★; オススメ度★★★★★]





 '70年代の終わりには、「異邦人」(久保田早紀)「大都会」(クリスタルキング)「ダンシング・オールナイト」(もんた&ブラザーズ)・・・、いわゆる“ニューミュージック”というジャンルに属する新人アーティストが次々とミリオンセラーを叩き出しました
。さらに、中島みゆき松山千春さだまさしなどの中堅組も気を吐いて、歌謡シーンはかなり活気を帯びていましたね ところが、ことアイドルシーンに目を向けると、キャンディーズはとっくに引退。山口百恵も引退を表明し、ピンク・レディーにも往年の勢いがまったく見られないという、まさに“アイドル冬の時代”・・・こうした閉塞感を見事に払拭したのが、松田聖子田原俊彦河合奈保子三原順子岩崎良美柏原よしえ(芳恵)などの‘80年デビュー組アイドルの面々でした。その後間もなく”'80年代黄金時代”を迎えることになるアイドルシーンは、1980年を境として一気に元気を取り戻したわけです

 今回取り上げる沢田富美子は、1981年に本格的に歌手デビューしました
。ここでわざわざ“本格的に”と書いたのは、彼女が1979年の暮れに、アニメの主題歌として「ノルマーリナ・ミーシャ」をリリースしているためです。その“プレ・デビュー”時代に歌手としての実力はすでに“折り紙付き”だったので、「ちょっと春風」を引っさげて1981年にCBSソニーから彼女がデビューした際には、私には“満を持しての登場”に見えたのですが・・・

 そうですねぇ、この作品に関してはまずYouTubeを聴いて戴いた方が話が早いと思うので、早速どうぞ~




 いかがでしたか。冒頭でガツンとやられた方も多いのでは・・・

  ♪ 愛してるとささやいてよ 世界中に君だけと
   夢中だよとささやいてよ 肩先ゆれる長い髪に
   ポップな love feeling


 この楽曲が全体的に良くできているのは“言わずもがな”なんですが、その最大の魅力は上に挙げた前サビの部分に凝縮されているのではないかなぁと思います
恋人同士で過ごすのが一番楽しい時期の心象風景を、爽やかさを前面に出してこれほど見事に表現した歌詞も珍しいのではないでしょうかそして、「愛してる」、「世界中に君だけ」、「夢中だよ」・・・おそらく世の女性が恋人からささやかれたいフレーズが的確にセレクトされている点もgood さすが三浦徳子センセ、新人アイドルの爽やかなイメージに相応しい出色の仕事と言えましょう

 また、沢田富美子の歌唱も、思わず聞き惚れてしまってちょっと感動すら覚えてしまうほどの素晴らしさ
なんですよね~。ツヤのある声質と伸びやかなヴォーカル力にはもともと定評のあった彼女ですが、その長所が生きるように書かれた小田裕一郎センセの曲も秀逸な出来映えです。特に、♪ なが~い髪に~ の部分の“アクロバティック”とも言えるファルセットへの移行は、小田センセが高いインパクト効果を狙って、彼女が歌える音域ギリギリいっぱいの高さまで飛ばした結果に違いないよなぁ~と私は密かに思っているのです

 そんなこんなで、沢田富美子はほぼ申し分のない名曲でアイドル歌手としてのデビューを飾ったわけですが、なぜか売れませんでした・・・
。彼女はもともと敬虔なクリスチャンということで根は真面目、本人からもどことなく品の良さそうな雰囲気が漂ってました。一部のアイドルにありがちな「以前、実はヤンチャしてました~」というオチでもなかったようだし・・・(いや、芸能界の荒波を乗り越えていくには、そのくらいサバけてる方が良かったかも。いま振り返ってみても、沢田富美子本人にアイドルの資質として何か問題があったとは思えないんですけどねぇ

 CBSソニーも、かなり力を入れて売り出していたように記憶してます
。この「ちょっと春風」のライター陣として、ちょうど1年前にやはりCBSソニーからデビューした松田聖子の初期三部作を手がけた三浦-小田コンビを抜擢していることからも、それは明らかですよねデビュー当時の松田聖子に対する私の印象は、「歌唱がつぼみのように生硬でまだまだ発展途上だなぁ。何だか年齢よりも幼い感じだし・・・」というもので、その松田聖子があれだけ売れたのだから、沢田富美子だって当然売れるはず(いや、正確には、売れて欲しい ですかね)と信じて疑いませんでしたから(遠い目)。しかし、実際の結果はすでに皆さんもご存知の通りです・・・

 生物学によれば、日本人というのは世界でも有数の「ネオテニー的形質を有する人種」なんだそうです
。分かりやすく言うと、「顔や身体の造形が実年齢よりも幼く見えるように進化してきた」ってことですね世間が松田聖子を選んで沢田富美子を選ばなかったことを思い出すにつけ、私はふとそんな話を思い浮かべてしまうのです。もっと言えば、芸能界やアイドル業界でいわゆる「ロリコン」タイプに結構な需要があるという事実は、この日本人の生物学的特徴と深い関係があるような気がしてならないんですねぇ・・・(生物学は専門外だけど研究論文でも書いてみるかぁ(うそ))。

 そうそう、沢田富美子に関して残念
だったことを一つ。アイドルとして花開かなかったことはまぁ仕方ないとしても、最後の最後にほとんど需要のなさそうな()“お色気路線(ヌード)”にイメチェンしてシングルを出すという典型的な「あがき」パターンに陥ってフェイドアウトしてしまったのはさすがにいただけませんでした(彼女は、桜井真里亜名義で「哀愁のメキシコ」をリリース)。’70~’80年代には、五十嵐夕紀、甲斐智枝美、徳丸純子、木元ゆうこ・・・などなど、似たようなパターンを辿ったケースが結構ありました。あまり語られることはありませんが、そういうのってデビュー当初のファンにとってはいたたまれないものですよ・・・私もねぇ、沢田富美子のデビュー時があまりに好印象で結構心がときめいてしまっただけに(←あ、オヤヂがそういうキモいこと書くなってこりゃすんまそん)、あの結末は悲しかったです・・・

 最後に、沢田さんが最近テレビで生歌を披露してくれたYouTubeを、読者の方から教えて戴いたので、そちらもアップしておきますね
 例のファルセットもキレイに出てますねぇ これはとってもgoodな動画だと思うので大画面でどうぞ~ (尚太。さん、どうもありがとうございました~(*^ー^)ノ



 それでは、今回の記事はこんなところで
。またお逢いしましょう~

【補記】: 本記事は、もともと4/9の23時頃にアップした後に、私の記憶違いによる事実誤認があることが判明したため、書き直して4/10の13時に再アップしたものです。皆様から戴いたいくつかのコメントの時刻が本記事のアップ時刻と前後しているのはそのためです。皆様にご迷惑をお掛けしたことを、ここにお詫びいたします。