【お薦めシングルレビュー 20】 難解な吹コン課題曲の作曲者による国民的アイドルグループの名曲! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 私は今でこそこんなですが(←どんなだ)、小学校時代にブラバンでフルートやってたことがありましてね。その頃から、いつかは「全日本吹奏楽コンクール(以下、吹コン)」に出場することを夢見る、“おめめキラキラ、ケナゲで純なお坊ちゃま”だったんですよねぇ(爆爆)。・・・ところが、進学した地元の中学・高校では、「楽器を指導できる先生がいない」なんつーショボい理由で、クソガキの夢ははかなく潰(つい)えることに。高校には吹奏楽部もちゃんとあったんですけどねー。元来変わり者の私は、「コンクールに出ないんなら入部する意味ないや」ってことで、吹コンのLPレコードを買ってきては部屋に引き籠もって、フルートやリコーダーの一人演奏(もちろん“我流”の邪道な代物でっせ)に勤しんでは一人悦に入っていたのでした・・・

 で、そんな私が楽しみにしていたのが、当時、杉並の普門館というホールで年一回開催されていた吹コンの全国大会なんですね
。これは、厳しい地方予選大会を勝ち抜いてきた精鋭たちが集って金賞を争うファイナルステージのことで、要するに「吹奏楽の甲子園」みたいなもんです。出場者でもその身内でもなく、知り合いが出てるわけでもないのに、この大会の「中学の部」と「高校の部」にわざわざチケット買って毎年一人で聴きに行って、早朝から夕方までほとんどぶっ続けで演奏のシャワーを浴びるってんだからよっぽどM度の高い・・・もとい、“好事家”なんですな・・・

 ま、私の性癖はこの際どーでもえーわけで
、とっとと本題に入るための前フリに戻りますね。吹コン全国大会に出場する団体は、課題曲と自由曲を1曲ずつ演奏して、これを審査員が採点することで「金賞」「銀賞」「銅賞」「賞なし」が決定されます。このうち“課題曲”っていうのは、吹コン連盟が公募や委嘱によって毎年数曲選定する中から、各団体が好きな作品を選ぶという寸法になっとります。課題曲のラインナップは、軽快なマーチあり、叙情的で心に響く曲あり、晦渋な現代音楽あり・・・と、例年なかなかバラエティに富んでまして、観賞用の吹奏楽オリジナル曲としてもすぐれた作品が多いので、私も楽しみにしてたんですねぇ

 
そんな吹コン課題曲の長~い歴史(何と1940年からだそうです)の中で、作品の解釈が難しくて、かつ演奏テクニックの面でも難易度が高い作品というのがいくつか存在します。「吹奏楽のための『深層の祭』」(三善晃、1988年)、「射影の遺跡」(河出智希、1991年)、「序奏とアレグロ」(木下牧子、1982年)などがそんな作品に該当するのですが・・・(三つとも私の大のお気に入り作品なんですが、このブログは歌謡曲がテーマなのでこの辺で“自粛”ってことで)。

 ふー、これでやっと長~い前フリは終了です
。ここまでついてきて下さった方、どうもありがとうございますm(_ _ )m。今回は、上に登場した「射影の遺跡」の作曲者である河出智希センセが、歌謡曲のコンポーザーとして華麗なる転身を遂げて発表した作品の一つをご紹介したいと思います。これでーす()。


「会いたかった」(AKB48)
作詞:秋元康、作曲:BOUNCEBACK、編曲:田口智則/稲留春雄

[2006.10.25発売; オリコン最高位12位; 売り上げ枚数3.4万枚]
[歌手メジャー度★★★★★; 作品メジャー度★★★★; オススメ度★★★★]


会いたかったAKB48


 作曲クレジットが“BOUNCEBACK”になっていますが、これは河出智希センセが竹内栄美子さんとのコンビで作家活動をする時のペンネームです
。実際には、「作詞は竹内さん、作曲は河出センセが担当」という分業制になっているので、事実上は河出センセの作曲と言って良いでしょう。'80年代中旬にアイドルポップスの作曲クレジットでよく名前を見かけた“岩里未央”と似たようなパターンですね(岩里未央は、作詞家の岩里祐穂(いわさきゆうこ)と作曲家の三浦一年との共作時のペンネーム)。

 「会いたかった」は、今でこそAKB48の代表作と言ってもいい曲になっていますが、発売当時はほとんど売れませんでした
。私はテレビか何かで流れているのを聴いてすぐ気に入ったので、ファンでもないのにリアルタイムで購入したんですが、その当時、周囲でAKB48のことを知っていたのは自ら“ヲ●ク”を豪語してやまないS君くらいしかいなかったですから。それが今やこんな状況になろうとは、さすがに想像しませんでしたねぇ・・・

 曲の方は、
'80年代の良質な歌謡ポップスの美味しいエッセンスだけを抽出して固めて作ったんじゃないか・・・と言っていいくらい秀逸な出来なんじゃないでしょうか。具体的には、「キャッチー」、「メロディアス」、「爽やかさ」、「ノリの良さ」など、聴き手にとって嬉しい要素が満載の作品ってことですね。そして何よりも、聴いているこちらを元気で明るい気分にしてくれるパワーが半端じゃないのがイイのです

 秋元康大明神
による歌詞の方は、特段めぼしいテクニックも見られないし、内容的にも何てことないんですけどねぇ・・・。私のようなオヤジもこの歳になってくると心が凝り固まってしまって、自分の気持ちに反するような行動をとってしまうことが多々あるわけで、この辺りの歌詞には思わず「ハッ」とさせられます

♪ 好きならば好きだと言おう 誤魔化さず素直になろう
  好きならば好きだと言おう 胸の内さらけ出そうよ


 ・・・そうそう、CDを買った当時からずっと気になってることがありましてね
♪ どんどん溢れ出す汗も拭わずに 素顔のまま~ の部分で前面に出てくる金属音チックな声の持ち主は一体誰なんでしょ? ・・・やぁ、私が単にこういう個性的すぎるヴォーカルが大好きだってだけなんですケド・・・

 閑話休題。河出智希センセのインタビューによれば、彼の音楽の原体験は、ロイ・ジェームスの名司会で知られるラジオ番組「不二家歌謡ベストテン」だったそうです
。私も、中高生の頃は「毎週日曜の朝はこの番組を聴かなきゃ始まらないっ」ってほどの大ファンでして、もう夢中になって聴いたもんです(遠い目)。ま、それはともかく、「会いたかった」からは、'80年代の歌謡テイストが随分とプンプン漂ってくるなぁ・・・と思っていたら、やはりそうだったのか・・・と妙に腑に落ちて、思わずニヤリとしてしまった私なのでした



 一応、参考として、河出智希センセの「射影の遺跡」もupしておきますね
。こちらの方は高度な対位法を用いた吹奏楽オリジナルの超名作ですが、前フリでも触れたように、現代音楽の構造をなしていて極めて難解な代物(でも、ラストの処理がカッコいいんだなこれがなので、チョロッとだけ聴いて戴いて、「会いたかった」とのギャップ(ホントに同じ人間が書いた曲なのか・・・・を楽しんでもらえれば私としては本望なのです



 ・・・さて、今回は吹奏楽と歌謡曲の“あやしい(intimate)関係”をテーマにして一曲ご紹介しました
。このテーマなら書けそうなネタがもう何個かありますので、ほとぼりがさめた頃にまた書きたいと思いま~す

 それでは、またお会いしましょう~