【シングルよもやま話 16】 惜しくも十代で夭逝した女性アイドルによる王道ポップナンバー・・・! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 早いもので、今年もあと一ヶ月となりましたね。毎年この時期になると、私はふと思い出す出来事があるんです。大学院1年生だった私の元に、海の向こうから突然の悲しい便りが届いたのは、1989年のちょうどこの時期のことでした・・・

「志賀真理子さん、カリフォルニアで交通事故死」

 一般紙でも記事に取り上げられたので、彼女のことをご存じなくても、ニュース自体は何となく記憶されていた方も少なからずおられるのでは・・・?事故を伝える記事の概要はこうです。留学先のカリフォルニアから、日本人留学生5人で出掛けたドライブ旅行中に、高速道路で動物が飛び出してきたのをよけきれずに車が横転。車外に投げ出された彼女のみが即死・・・(他の4人は重軽傷)。事故のあったフラグスタッフという町は、グランドキャニオンに車で向かう者にとって、ちょうど玄関口のような位置にあるので、彼女たちの行き先もグランドキャニオンだったのかも知れませんね。ちなみに私も、アメリカ留学中の2001年にロサンゼルスからフーバーダムを経由してグランドキャニオンまで車で旅行した際に、フラグスタッフで途中下車して黙祷を捧げて彼女を偲んできました・・・

 あの界隈は時速100kmで飛ばしても1時間くらいは周囲の景色(ほとんど砂漠)がまったく変わらないようなところなんです
。しかも、カリフォルニアからグランドキャニオンまでは、かなり頑張っても車で5時間以上かかるはず。道路もほぼ一直線で運転も散漫になりやすいので、野生動物が飛び出して来たときに慌ててハンドル操作をミスするというのは簡単に想像できるんですよね・・・。まぁ、事故の原因が「飲酒運転の末に・・・」とかではなくて、「野生動物をよけようとして・・・」というのが、せめてもの救いだったというべきか・・・いや、かえって涙を誘ってしまうわけですが

 ・・・そんなこんなで、今回取りあげるのはこの曲です(
)。ちょっと季節外れなのはご容赦下さいね~m(u_u)m

「青い涙」(志賀真理子)
作詞:売野雅勇、作曲:井上大輔、編曲:船山基紀

[1986.5.25発売; オリコン最高位-位; 売り上げ枚数-万枚]
[歌手メジャー度★★; 作品メジャー度★; オススメ度★★★]


 
志賀真理子は、1986年2月25日にシングル「フリージアの少年」で歌手として正式にデビューしました。ここでわざわざ「正式デビュー」と断ったのは、1985年に「夢の中の輪舞(ロンド)」というアニメ主題歌をリリースしているためです。沢田富美子岡本舞子なんかも同じパターンですね
。この時期の歌謡シーンは、おニャン子クラブの「ばら売り攻勢」の嵐が吹き荒れた頃に当たっていて、楽曲に力を入れて売り出した正統派アイドル(島田奈美山瀬まみ水谷麻里真璃子、・・・私の見立てでは志賀真理子もこのグループに入ります)が、力及ばずそろって共倒れ・・・という、アイドル歌謡を作品(音楽)として楽しむ私みたいなファンにとっては、厳しい時代の到来を十分に予感させるものでした

 志賀真理子は、デビュー当初から「とにかく性格がいい」ことが知られていて、これが彼女のタレントイメージ(アイデンティティ)の大きな部分を占めていたことは間違いありません
。・・・しかし、アイドルとしては正直言って今ひとつ地味なルックスでしたし、歌の方でも、いわゆる正統的な歌唱力は持ち合わせていませんでした確かな表現力は見るべき点がありましたし、丁寧な歌い方も好感が持てたんですが・・・)。結局、彼女は5枚のシングルと1枚のアルバムを残して、歌手としては花開くことのないまま、1988年に大学進学とほぼ同時に芸能界を引退します。1989年8月からは、語学とジャズの勉強をするため、カリフォルニア州立大学リバーサイド校に留学。そして冒頭で触れたように、そのたった3ヶ月後の11月23日(現地時間)に、交通事故によって19歳の若さで天国に召されてしまったのです

 ・・・さて、沈んだ気持ちを切り替えて、作品の紹介に移りましょう。
今回取りあげる「青い涙」は、彼女の2作目のシングルです。5月リリースということを意識してか、井上大輔センセによる曲は、夏休みに向けてウキウキはずむ気持ちを盛り上げてくれる、明るく爽やかな王道アイドルポップスに仕上がってます。それとこの曲、ヘッドフォンで聴くと、リゾート感覚いっぱいの効果音と軽快なパーカッションがとっても心地イイ んですよね~

 一方、売野雅勇センセによる歌詞も負けてはいません。“想いを寄せる幼なじみの男のコに自分の気持ちがなかなか分かってもらえなくて、密かに涙を流すいじらしい女の子の姿”を色鮮やかに描いています
。シチュエーションも私好みだし、「パラソルの”花”が開く」あたりの表現も素敵だと思います

  ♪ 白い桟橋に パラソルの花が
    いっせいに開くころ 夏の幕があがる空に
    海びらき告げる 花火が上がって
    「好きなの」とささやいた 声が消された
    寂しいな生意気だよ 「妹さ」なんて
    カッコつけて兄貴ぶったとこ 嫌いだわ
  ♪ 切なさまじりの 潮風に吹かれ
    街の娘(こ)にとられても 知らないからね

  ♪ あなた想うたび 胸が熱くなる
    気づいてよ頬つたう 青い涙に
    切なさが海よりも 深いブルーよ



 ところで、この「青い涙」という曲には、ちょっとした余話がありまして。彼女のアルバム『mariko』に収録されている
「夏より遠くまで好き」という曲が、「青い涙」とコンポーザーとアレンジャーが一緒で作詞家だけ違う“歌詞違いの同曲”になっているんですね
 ちなみに、松本一起センセによる「夏より遠くまで好き」の歌詞は、こんな感じになってます(

  ♪ Yes!ピンクの視線 Ah その気にさせて
    意味シンなチャーミング 神秘のヴェールをちらちら
    No!5cm以上 Ah くちびるの距離
    スリルから身を引いて 愛は深まる
    単純よ!男の子は その気になって
    乙女心知らずに 一人で悩んでる
  ♪ Yes!あなたが好きよ Ah 誰より好きよ
    夏よりも遠くまで あなたが好きよ

 「青い涙」はシングル曲、かたや「夏より・・・」の方はアルバム収録曲ということで、そのまま比較するのはフェアじゃないかも知れないんですが、
歌詞を聞いて情景がパッと浮かぶ分だけ、私は「青い涙」の世界観の方が好きですねぇ
。“含蓄”だとか“言葉の選び方”の観点から見ても、両者では歌詞の出来にかなり差があるような気もしますし・・・(松本一起センセ、どうもすいませんm(_ _ )m)。・・・皆さんは、どちらのバージョンがお好きですか

 それでは、今日のところはこの辺で~