【お薦めシングルレビュー 6】 白いバスケット・シューズ (芳本美代子) | 歌謡曲(J-POP)のススメ

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音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 今回はまた80年代のアイドルポップスに戻って、詞・曲・歌唱ともに高いレベルで揃ったアイドルポップスのお手本のような作品を一つご紹介します。曲の出来の割に売り上げは奮いませんでしたが、名曲の誉れ高い作品としてすでに有名なので、ご存じの方もきっと多いはずです。

「白いバスケット・シューズ」(芳本美代子)
作詞:松本隆、作曲:井上大輔
、編曲:井上大輔(Strings Arrangement:深町純)
[1985.3.21発売; オリコン最高位22位; 売り上げ枚数6.4万枚]
[歌手メジャー度★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★★★★]


 みっちょんこと芳本美代子は、新人アイドル激戦と言われた1985年にデビュー。同期では、斉藤由貴中山美穂本田美奈子松本典子井森美幸橋本美加子あたりと共に好スタートを切り、年末の賞レースを争いました。この年は、南野陽子浅香唯森川美穂藤原理恵(C・C ガールズ)・森口博子など、歌手としては後にヒットを飛ばす面々も多く、なかなかの豊作年だったんですねー。

 さて、この「白いバスケット・シューズ」ですが、まず、何と言っても松本隆の詞が秀逸です。

♪ 春の風が冷たくて 借りたのスタジアム・ジャンパー
  風邪ひいても知らなくてよ 優しすぎるわ

 ここはやっぱり「知らなくてよ」という言葉選びがポイントになってますねぇ(「スタジアム・ジャンパー」ってのは、いかにも昭和的ですが・・・)。さすが松本隆センセ、聴き手(若い男の子)がどんな女の子に惹かれるか、良く分かっていらっしゃる
。これでみっちょん、デビュー曲から、正統派アイドルど真ん中の「しとやかイメージ」を獲得して、だいぶん得しました

♪ あなたの手にぶら下がり 海を見てはしゃいだ
  男らしいとこを見せて 点かせぐのね
  目を閉じて10秒待ったのに にぶい人ね
  もっと他の恋人たち 進んでる
  Kiss me darlin' 渚色の砂丘を逃げるわ
  早くつかまえてね 白いバスケット・シューズ

 この辺りの、微妙な心の動きと情景がくっきりと目に浮かぶような描写も見事です。「キスしてあなた」では生々しすぎるので、ここだけあえて英語で「Kiss me darlin'」としたのも、新人が歌うことを意識した演出でしょう。正統派アイドル歌手のデビュー曲としては、もうこれ以上は望めないほどの出来と言えますね~。 

 作曲・編曲は、これまた70~80年代に数多くのアイドルポップスを手がけた井上大輔が担当。♪春の風が冷たくて~ の直後に挿入されるドラムが作品全体のチャームポイントになっています。また、♪心のハープをかき鳴らして~ の箇所には、いわゆる「親衛隊」の本領発揮ポイントとでも言うべきリズムを搭載 (←分かる人には分かるはず
)。まぁこんな風に、アイドルポップスとしてのツボをきっちりと押さえた心憎い仕掛けが散りばめられた作品に仕上がっているのです。

 ・・・むむぅ、そういえばこの曲、Vol.1でレビューを書いた「虹いろの瞳」(新井薫子)と、ある共通点があることにいま気づきました。両方とも、三連符が効果的な役割を果たしているハ長調のアイドルポップスなんですね。いやー、さすがに単なる偶然でしょうけど・・・

 閑話休題。あとは、日本のシンセサイザーの第一人者として知られた深町純センセがStr. Arr.を担当しているのが目を引きます。♪目を閉じて10秒待ったのに にぶい人ね もっと他の恋人たち 進んでる~ あたりでバックにさりげなく流れるストリングスが、主旋律のイメージを効果的に膨らませて曲を盛り上げるところは特に印象的で、深町氏の丁寧なプロの仕事ぶりがうかがえますね。井上大輔の編曲とは別に、わざわざストリングスアレンジをプロに依頼するというのはかなり珍しいケースであり、関係者が芳本美代子のプロモーションに賭ける気合いと力の入れようが伝わってくるようです

 みっちょんの歌唱力については、同期の本田美奈子や松本典子の歌唱力が素晴らしかったせいであまり取り上げられることがありません。彼女の最大の魅力(武器)は、適度に抑制のきいた発声と、確かな作品の咀嚼力に裏打ちされた表現力でありミディアムテンポの正統派アイドルポップスを歌わせると本領を発揮するタイプと言えるでしょう。その観点からオススメできる彼女の他のシングルとして、「雨のハイスクール」・「アプリコット・キッス」・「心の扉」・「涙のイヤリング」・「サカナ跳ねた」あたりを挙げておきます。

 最後に、彼女のファースト写真集をfeatureした凝った作りの動画をupしておきましょう。いやぁ、これは懐かしい写真だなあ・・・(←はい。実は写真集持ってました) ・・・ってなことで、おあとがよろしいようで。どっとはらい。

【2016/5/2 テレビ映像は削除に次ぐ削除で、今回またまた差し替えしました。「デビュー当時のみっちょん(八重歯あり)ってこんなだったよね~」というイメージがストレートに伝わってくる映像ですね



【2015/1/31 作品自体の素晴らしさも味わって戴きたいので、元音源を追加アップしました。
ぜひこちらもどうぞ~