先日、アニメ制作会社GONZOの梶田社長と、お話させていただく機会があり、アニメビジネスの展望と、GONZOの将来のスタンスを探る質問をしてみた。『経常利益では増収している多くのアニメ会社の実際が、制作事業の営業利益のプラスという光と、版権事業のマイナスという影をもつ今、新しいマーケットをどこに見いだせば、より効果的でしょうか。』という失礼な僕の質問に対し、冷静に考えながら答えてくれた梶田社長は、とても紳士的だった。魅力と実力を兼ね備えた人だと思う。
質問の答えを総合してみると、『明確な答えは現在は無い』ように思える。そのなかで、より効果的に、新しいマーケットにある新しい資金にコミットするために、GONZOは中国で劇場用アニメの公開を成し遂げた。今回のブレイブストーリーもまた、それまでのGONZOの領域とは違う、ジブリの領域への進出を果たした。
様々なマーケットで、様々な事業者と連携し、より多様的な戦略を展開し、コンテンツを成立させる。それが既存のアニメマーケットから抜けだし、新しい利益へとつながることなのではないだろうか。

2008年、GONZOはUSEN(GYAO)と連携し、劇場アニメを公開する。有名フランス文学のアニメ化だ。GYAOスタート以来、コンテンツビジネスのイノベーションを目指すUSENと共闘することで、今度はどんなビジネスモデルがみられるか。

どきどきする。
『ブレイブストーリー』を観てきた!!
このアニメについて特筆すべきは、『フジテレビ映画事業局』、『ワーナーブラザーズ』、『GONZO』が連携していることだ。各事業者による、極めて効果的な事業展開と、その事業規模の大きさを活かした多様な戦略が、かつてのジブリの領域に挑戦した格好になると思う。
GONZOの映像クオリティは言うまでもない。物語自体は巧くまとめられていてわかりやすく、なにより物語やキャラクターに感情移入しやすくて、商業作品として、充分なものだった。ラストシーンも、物語として秀逸だったと思う。『主人公の両親の離婚から始まる、等身大の少年の冒険』は、共感を喚起させるコンテンツとして、なにより観客と市場を意識していた。

ジブリ帝国が築かれたアニメ領域に対して、コンテンツビジネスの意識を持ち込んで挑戦した、『ブレイブストーリー』に魅力を感じて抑えられない。

ソニーの久夛良木氏は言う。


「Liveの世界をネットワーク越しに実現する、というのは、言い換えれば“4次元“の世界。過去にもいければ、いろいろな場所にも行ける。いまのインターネットで は、少ない表現の中でもそれがはやっている。是非これをPS3のキーにしていくのが夢」


新しい価値と世界を、人々と市場に与え続けるソニーらしい言葉だと思う。そしてこれは、任天堂のWiiとの乖離が決定的となったと感じられる言葉でもある。Wiiは、家庭のゲームであり続ける。それは大切なことだ。個人的にはこちらを支持したいほどだ。創造と夢と、遊ぶ楽しさを、いつまでも子供を含めた多くの人へ供給してゆくのがWiiだ。


PS3は違う。数年後の新しい世界を、創る。かつてのPS2が、空間をゲームにもちこみ、DVDを一般に流通させたように。将来、わたちたちに、また違う世界を、それらはみせてくれるのだろうか。




韓国の制作会社による、オール韓国スタッフのテレビアニメシリーズ、『少女チャングムの夢』が、2006年4月からNHKで放送がスタートした。監督、演出、キャラクターデザイン、作画、デジタル、シナリオ、すべて現地の韓国人たちである。1話と2話を視聴したが、これがとても良い出来だ。日本産テレビアニメシリーズの、およそ中堅以上のクオリティは保障されているのではないだろうか。キャラクターデザインも魅力的で、すんなりと世界にはいっていけると思う。


韓国では、映画やドラマなど映像コンテンツの、国内でのマーケットが脆弱であるとされている。なにより、マーケットの規模が小さいのがその理由にあげられる。だから韓国は、映画やドラマの映像コンテンツについて、国内市場を越えて、海外市場への展開を目指している。日本を含めてアジア各国や中国において、韓国のドラマや映画が席巻しているのは、いうまでもない。おそらく韓国はアニメでも同じ展開を狙っている。


電化製品や、IT関連事業、オンラインゲーム事業において、韓国は世界戦略で日本の先を行く。コンテンツビジネスでも同じだ。数年後、韓国はアジア市場を、韓国コンテンツで埋めようとするだろう。けれど現在、日本のコンテンツ関連企業は、日本国内のマーケットと日本国内の利潤だけで満足してしまっている。いったいどれだけの日本の事業者やクリエイターが、数年後の世界戦略を意識しているのだろうか。


竹島(独島)を巡る争いより、クールでクレバーな日本と韓国の本当の戦いが、コンテンツビジネスのフィールドで行われることは避けられない。

中国が進める、自国のコンテンツ強化戦略について。


中央政府が、日本や欧米の制作会社の大陸への介入を許すのは、単なる経済活性化より、中国の自国制作コンテンツの強化に狙いがあるのかもしれない。たしかに技術や管理ノウハウは吸収できるだろう。だが、中国国民にセンスは吸収できない。


中国産の自動車、中国製の大作映画、どれも海外での評価は低い。センスが必要とされる産業のなかで、中国の活躍はありえない。だが、この弱点をカバーできる製作管理ができたとき、中国発コンテンツは、飛躍をみせるだろう。


企画、映画やアニメならば脚本と画コンテを、そしてキャラクタービジネスなら、キャラクターデザインを、中国へ無料提供できるという冒険をするものがあらわれればの話だが。


中国国内では、中央政府がアニメ産業の振興・発展を促進する政策を策定しながら、

日本製アニメなど外国製アニメの規制と緩和を繰り返し、その方針はたびたび、ぶれる。外国製アニメの審査厳正化、放送時間の制限のいっぽうでは、外資規制の緩和により、日本企業の、現地企業との合弁によるアニメ制作、配給などへの参入もある。

中国の政策は、『中国オリジナルのアニメとゲームのプロジェクトにより中国国内市場のシェアを上げ、海外市場でのシェアの獲得』と、『中国アニメの強化』を、めざしたものである。中国オリジナルのアニメの育成と拡大を狙ったものであり、今後の中央政府の政策も、中国オリジナルアニメの発展のための、産業保護的なものになる。そして今後、そんな中国政府のアニメ産業への政策のなかから、利用できる部分をみいだす必要がある。

中国における携帯電話へのアニメ配信サービスを考えた場合、日本製アニメのコンテンツは魅力的だ。

しかし、中国オリジナルアニメ、中国オリジナルキャラクターの育成と拡大を狙う中央政府の今後の政策を予測して動き、あえて、中国オリジナルキャラクターのコンテンツの配信サービスを考える余地もある。

人は音楽を、パソコンを使い、データで扱うようになった。音楽と人は、近年、新しい関係を創る。CDというメディアにこだわる価値観は、もうない。しかし、この流れが起こってまもないころ、日本国内の大手レーベルらは、データで音楽が扱われることを嫌った。そして、CCCDなどパソコン上での使用を制限するメディアで音楽をリリースした。しかし、そのヒステリックな展開と行動は、数年で取り消されることになる。


結果、大手レーベルは、新しいコンテンツ提供の価値観を、読みきれなかった。音楽というコンテンツを産むだけが、企業の仕事ではないと思う。音楽コンテンツを、『人に提供する』、『市場へリリースする』ことまでが、企業の仕事だと思う。彼らの利権の維持にまわった答えが、CCCDだった。音楽と人は、新しい関係と価値観で結ばれた。その状況を受け入れたうえで、よりよいコンテンツ提供を考えることが、企業だと思う。

USENが、2005年4月から開始した無料ブロードバンド放送『Gyao』は、ブロードバンド環境があれば、誰でも無料で簡単に視聴できる。この極めて開かれた体勢と、広告収入というモデルは、テレビ放送に近い。


VOD(ビデオオンデマンド)事業の扉は、すでに開かれた。魅力あるコンテンツを揃えることが、成功のためには大切だ。だが、『コンテンツを視聴側へ提供するサービスのかたち』、そのビジネスモデルまでを含めて、『コンテンツ』だと、僕は考える。魅力あるコンテンツを揃え、そして開かれたコンテンツ提供を目指す。Gyaoの未来に期待したい。