うちの母はあまり料理をしない人だった。
なので、所謂覚えてるおふくろの味とかいうものは少ない。
その数少ない、私の記憶の中のおふくろの味に南瓜の煮物がある。
大人になってから南瓜はあまり好きではなくなったが、小さい頃私はこの南瓜の煮物がとても好きだった。よく食べていたと記憶している。
南瓜を甘じゃっぱく煮た母が作る南瓜の煮物。
私の中の数少ない母の味。
仕事の帰り道、今日は南瓜を買った。
私も南瓜の煮物が大好きだったが、母は現在進行形で南瓜が好き。だから、母の為にあの懐かしい南瓜の煮物を作ろうと思った。
コトコトコトコト、鍋で南瓜を煮る。
母の南瓜の煮物の味つけは全くわからないが(当たり前だが母はもう覚えていない)、あの頃の母の味に近づくよう、ああでもないこうでもないと、調味料を足していく。幼い日に想いを馳せながら、南瓜を煮た。生まれて初めて、南瓜を煮た。
そんなこんなで完成した南瓜の煮物。
南瓜の色が少し目に眩しかった。
試行錯誤し過ぎたので少し煮過ぎたが、自分ではかなり母の味に近づけたと思っている。
もう20年近く母の作る南瓜の煮物は食べていないが、私の覚えている母の味。
とはいえ、やっぱり母の南瓜の煮物とは少し違うのだと思う。
そして、もう私が母の南瓜の煮物を食べることはない。その違いはもう永遠にわからないままなのだ。
味見した南瓜は甘かった。思い出も甘かった。
現実だけ少し苦かった。