LTspiceでのシミュレーションの正確性を確かめるため、実機特性を確認したくなりました。
実機の特性測定にフリーウェアのWG(WaveGene)とWS(WaveSpectra)を使用しましたが、最初に調べることが多く意外と使い方が大変です。
下記に Windows10 の環境下での測定前の設定と調整方法と事項をまとめました。


1.必要なソフトウエアとデータファイルのダウンロード
2.インストール
3.歪率測定
4.周波数特性測定

1.必要なソフトウエアとデータファイルのダウンロード
下記のサイトから下記3つのファイルをダウンロードします。

・録音も出来る 高速リアルタイム スペクトラムアナライザ (ASIO、WASAPI対応)WaveSpectra (フリーウェア)    V1.51 (2012/08/15)
https://efu.jp.net/soft/ws/ws.html
・CD-DA やオーディオのチェック用 テスト信号発生ソフト (ASIO、WASAPI対応)WaveGene (フリーウェア)    V1.50 (2013/01/05)
https://efu.jp.net/soft/wg/wg.html
・WGのユーザー波形として読み込む 周期スイープ あるいは 周期ノイズ 信号
https://www.efu.jp.net/soft/wg/down_uws1.html
UserWaveSample1.ZIP ダウンロード後、解凍して WG.EXE と同じフォルダへ入れておいてください。

2.インストール
インストーラーは存在しないのでフォルダを作成し、その中に解凍したファイルをおいておきます。
起動してみるとヒゲのおじさんが登場。「インストールする」を選択すればアプリは起動するのだが起動のたびにヒゲのおじさんが出現するので下記の対応を実施。


Windows10のスタートメニューで右クリック → 設定 → アプリ を選択
画面の一番上の
「入手元を制限しないが、Microsoft Store 以外からのアプリをインストールする前に警告を表示する」を「場所を選ばない」に変更して再度アプリ(WG or WS)を起動。


今度はヒゲのおじさんは現れない。
一度起動するともう現れないようなので上記の設定を戻しておきます。
次にヘルプを参照しようとしましたが、目次は表示されますが項目の内容が右側のペインへ表示されません。


これは、解凍したヘルプファイルのプロパティ修正で解決するとの事なので下記を実施。
エクスプローラーからヘルプファイル(例:WS.CHM)をクリック後、右クリックしてプロパティを選択。
画面下のセキュリティにある「許可する」にチェックを入れて OK ボタンを押します。


再度ヘルプファイルを起動するとヘルプの内容が右側のペインへ表示されるようになります。


WG.CHM も同様にプロパティを変更してヘルプの内容が表示できるようにしておきます。

3.歪率測定
今回の測定は、オーディオインターフェースは、PC本体のものではなく Steinberg Ur44 を使用しました。
日頃ハイレゾのDAC(foobar2000)やDAW(Cubase)のオーディオインターフェースとして使用しているものです。
主な仕様
 24bit/192kHz対応
 6イン(4マイク入力、2Line入力)/4Line out、2Master out、2ヘッドフォンout、
 MIDI 入出力、内蔵 DSP ミキサー&エフェクト

 

Steinberg 6 x 4 USB 2.0 オーディオインターフェース UR44

 

・UR44のループバック設定
UR44のループバック設定をします。
UR44付属のミキサーアプリ dspMixFx UR44 を起動し、設定画面からループバックにチェックを入れます。


画面上部の CONTROL PANEL ボタンを押して確認できる ASIO Driver の設定は、下記のとおりです。

サンプルレートを 192KHz に設定します。


UR44のループバックは、下記のダイアグラムにある通り、DA、ADを通らないデジタルベースのループバックのため、理論的にはWSの全調波歪みTHD(Total Harmonic Distortion)は、0%になるはずです。


・WG 設定
WGを起動し、設定画面を開きドライバを MME 、再生デバイスに ライン(Steinberg UR44) を指定します。

設定画面を閉じメイン画面へ戻ります。
上部にあるサンプルレートを下記に設定
 192000  24  Stereo

Wave1を以下のように設定(1KHz正弦波出力)
 サイン波
 1000Hz
  0dB
 L+R
 スイープ、変調のチェックを外す
Wave2~Wave4はすべて OFF に設定。


・WS 設定
WSを起動し、設定画面を開き、 録音/再生 タブをクリック、
ドライバに ASIO を指定します。
再生デバイスに Yamaha Steinberg USB ASIO、chを UR44 Mix1 L を指定します。
録音デバイスに  Yamaha Steinberg USB ASIO、chを UR44 Input 1 を指定します。
(Loopbackは、 Input 1/2 に戻されるため)
フォーマットは 192000 s/s 24bit stereo とWGと同じに合わせます。

続いて FFT タブをクリックします。
サンプルデータ数を 65536 
窓関数を なし に設定します。

Spectrum タブをクリックします。
レンジを 80dB セット

Wave  タブをクリックします。
レベルメーター 表示(縦)にします。


・ 測定開始
WSの上部赤丸ボタンを押して測定開始です。
Peak ボタン、THD ボタンが押されていることを確認します。

WGの再生ボタンを押して信号を発生させます。
下部に送信信号の波形が表示されます。

WSの上部に受信波形が表示され、下記にFFTの解析結果とグラフの右側にTHD(全調波歪み)の値が表示されます。
左の画面は、UR44 に付属しているミキサーアプリ(dspMixFx UR44)です。WGの出力は、PC→DAW→MIX 1(MASTER)→Line 1/2(Loopback)→PCとなりますのでDAWのレベルメーターとMASTERのレベルメーターが上がっています。 
 
WSのTHDが0.09403%もあります。実はここからが調整なのです。下記のサイトを参考にさせていただきました。
『WaveSpectra』で歪率を測定する
http://isaudio.sakura.ne.jp/WebTHD/webTHD.html

調整のポイントは、次の3つ
  ・使用していない入力のレベルを0にする
  ・レベル調整
  ・周波数をサンプリング数とFFT用に最適化する

・使用していない入力のレベルを0にする
使用していない入力のレベルを最低に絞ります。
今回は、念のためミュートボタンも押しておきました。(下記6チャンネル)
 マイク1~4
 ライン5/6
をミキサー画面から0に調整します。
WS THD 0.09397% 若干の低下


・周波数をサンプリング数とFFT用に最適化する
WGの出力周波数をサンプリング数とFFT用に最適化します。
これは、計算誤差を少なくするためです。FFT用に最適化するにはサンプリング周波数、FFTサンプル数から計算しますがWGが計算して周波数を調整してくれます。
WGの周波数の数字の上で右クリックします。
FFTサンプル数をWSと合わせます。(今回は、65536)
再度周波数の上で右クリックしFFTに最適化を選択します。
最適な周波数が計算され、セットされます(999.0234375)

WSの OVL1 右側の赤丸を押してグラフを再描画させます。
WS THD 0.00754% に低下。FFTが1KHz付近で1本の縦棒で表示されています。


・レベル調整
サウンドデバイスによっては、0dB以上の入力はクリップ(0dB以上は出力されない)されます。
多分ほとんどのデジタルデバイスはそうなると思います。
この環境でも周波数によってはオーバーロードが表示される場合がありました。
オーバーしないように -3dB の低めに合わせます。

WGの出力を 0dB → -3dB
WSの OVL1 右側の赤丸を押してグラフを再描画させます。


おお!! WS THD 0.00000% を達成。
以後レベルは-3dBになるように調整します。このためにWSでレベルメーターを表示させています。


これでデジタル部分の調整は完了です。
LoopBackを解除してアナログ入出力ベースでのループバックテストをします。
UR44のアナログ出力は、下記のようになっていますのでMAIN OUTPUT1/2 → Line input(CH5/6)へケーブルで接続します。
MAIN OUTPUTは、通常モニタースピーカーを接続する端子ですが、アナログのボリュームがついておりレベル調整しやすいのでこちらを使用しました。


・デジタルループバックをOFF
UR44のミキサーアプリ dspMixFX UR44 の設定画面で LOOPBACK のチェックを外します。


・WSの録音の入力をLine input(CH5)に設定
次にWSの設定画面を開き、録音デバイスの入力を変更します。
Yamaha Steinberg USB ASIO、chを UR44 Input 5 に変更します。


・UR44のアナログ出力 MAIN OUTPUT1/2 → Line input(CH5/6)へケーブルで接続します。
Outputのボリュームを調整してWSのレベルメーターが-3.0dBになるようにします。(CH5を使用しているのでL側のみ合っていればよい)
WGの出力は、PC→DAW→MIX 1(MASTER)→MAIN OUTPUT1/2 →アナログケーブル→Line input(CH5/6)→PCとなりますのでDAW、MASTER、ANLG5、ANLG6のレベルメーターが上がっています。
Line input(CH5/6)は、直接PCの入力として指定しています。UR44のミキサー内でLine input(CH5/6)のレベルは必ず最低にしておきます。
ここでレベルを上げてしまうとUR44内でループしてしまうのでハウリングを起こしてしまいます。
 
これでアナログベースでのループバック値が出ました
WS THD 0.00251% となります。今回の測定環境上これ以下の歪率にはならないということです。でも十分ではないでしょうか。


4.周波数特性測定
WG,WSの作者であるefuさんが下記に書かれておりますが、

WaveSpectraを用いた周波数特性の測定について
https://www.efu.jp.net/soft/ws/fresp/meas_fresp.html

WS+WGで周波数特性を測定する方法は次の2つの方法がある。
(1)WG(V1.40)のユーザー波形で周期スイープを用いる方法。
(2)直接WGのスイープ信号を用いる方法。(WSのピークホールド機能を用いる方法)
普通は、簡単に短時間(多くて数秒)で正確な周波数特性が得られるので、(1)の方法を強くお勧めします。

実際に両方やってみましたが、やはり(1)の方法が短時間で綺麗な特性が取れましたのでこの方法で測定することにしました。
下記に詳しい測定方法が書かれておりますのでこちらをご覧ください。
アナログループバックの環境で下記のようなフラットな特性が取れました。

周期スイープを用いた周波数特性の測定について
https://www.efu.jp.net/soft/wg/fresp/meas_fresp.html

ユーザーファイルに FLATSWEEP_065536.WAV を使用しサンプルデータ数 65536 でのデジタルループバック時の周波数特性
完全にフラットです。


同条件でのアナログループバック時の周波数特性
残念ながら40KHz以上から下降しています。DAの後に入っているフィルターの影響でしょうか。
測定環境の特性を把握しておくのは大事ですね。


準備にかなり時間がかかってしまいました。
いよいよこの連休にでも実機(SV-S1628D)の特性を計測してみたいと思っています。
アンプの移動が大変ですが。。。


【参考にさせていただいた情報】
ヘルプファイル WG.CHM が表示されない場合の対処方法
https://www.efu.jp.net/soft/NOhelp.html
『WaveSpectra』で歪率を測定する
http://isaudio.sakura.ne.jp/WebTHD/webTHD.html
USB AUDIO INTERFACE UR44 - Steinberg
https://japan.steinberg.net/fileadmin/redaktion_japan/documents/UR/UR44_OperationManual_ja.pdf
WaveSpectraを用いた歪率の測定について
https://www.efu.jp.net/soft/ws/dist/meas_dist.html
WaveSpectraを用いた周波数特性の測定について
https://www.efu.jp.net/soft/ws/fresp/meas_fresp.html
Steinberg 6 x 4 USB 2.0 オーディオインターフェース UR44