2016年6月鑑賞映画つぶやきレビュー | (ほぼ)月一更新(予定)鑑賞映画ひとことレビュー

(ほぼ)月一更新(予定)鑑賞映画ひとことレビュー

月一で初鑑賞映画の感想を書いてます。
あくまで個人の感想です。立派な考察・評論は出来ませんのでご容赦下さい。

2016年6月鑑賞映画つぶやきレビュー

早いもので今年ももう後半。今の所昨年のマッドマックス的な歴史的傑作がないのが少し寂しい気もしますが、後半にはスーサイド・スクワッドやらハドソン川の奇跡やらジェイソン・ボーンやら、年末にはローグワンもあるやらでまだまだ気が抜けないですね。
てな訳で6月は少し少なめの21本。例によって箸にも棒にもかからないものは書きません。
ではでは。長いですので覚悟して読んでください笑

「サウスポー」
アントン・フークアって監督さんは何気に面白い監督で、何を撮ってもそれなりに質の高い娯楽作品に仕上げるだけのセンスがある人。そんな職人さんの個性と言ったら、なんだかんだで「やりすぎの美学」を持ってるって事だと思います。それが一番上手く出てるのが「エンド・オブ・ホワイトハウス」と「イコライザー」と「トレーニング・デイ」。でそれが空回りしてるのが「キング・アーサー」と「極大射程」。それはともかく、それなりに観れる映画を多ジャンルで作れる力量は現代のピーター・ハイアムズとしてもっと評価されてしかるべきかと実は思ったりしてます。そして今回。空回りの方でした。いやもうギレンホールの熱演は素晴らしいです。特にナイトクローラー後とのギャップ。いやー役者です。本当ある意味やりすぎ。監督の演出もそんなやりすぎ熱演を余すとこなくというかしつこいくらい見せてくれます。が、いかんせんストーリーがいい加減すぎ。この手の映画の場合、ストーリーはもう超どまん中が絶対正解なんだけれど、いかにそのコテコテをリアルかつ納得できるように見せるかが腕の見せ所なはず。それがこの映画、ことごとく外してます。なんというか奇をてらいすぎて本道を外したというか。おかげで見せ場の特訓シーンや迫力の試合も今ひとつ乗れず。というか、結局主人公があまりに馬鹿というかクソ野郎すぎて感情移入できないんですね。後悔はあっても反省がないから応援しづらい。娘にしてもトレーナーにしても感情の流れがことごとく外してるから素直な感動の邪魔をしてるという悪循環。総じて熱のこもったエネルギッシュな演出は素晴らしいんだけれど、ストーリーの下手さ加減が台無しにしてるというもったいない映画でした。
★★

「マネーモンスター」
快作。往年の「狼たちの午後」や「ネットワーク」を彷彿とさせる湿気ムンムンの熱帯夜的サスペンス映画がまさかのジョディ・フォスター監督作で観れるとは。まあちょっと先の2本と比べるのは褒めすぎの感もあるけれど、練られたシナリオをきっちり丁寧に勝つ的確に演出してサスペンスを盛り上げたフォスター女史の腕前はお見事。また相変わらずおバカが似合うクルーニーと、やり手のディレクター役がここまで合うとは予想外だったロバーツの共演シーンはスターパワーの賜物か、シナリオ以上の連帯感や空気感を垣間見せ、素直に感動できるというおまけつき。舞台がスタジオを飛び出してからのストーリーの展開とクライマックスへ向けての疾走感と緊迫感、果ては無常観漂うオチと清々しさが気持ち良いラストシーンまで、70年代の古き良きサスペンス映画を見た時のような高揚感を味わえます。とはいえ全体のキレが少し甘いのと、オチの強引さが何気に気になったりもしますが、それでも70年代のあの空気を味わえる愛すべき佳作です。
★★★

「ノック・ノック」
正直観る前はキアヌ・リーブスに不安しか感じませんでした。キアヌと言えば言わずと知れた”超人”役者。普通の人間というキャラがこれほど似合わない人はまあいないでしょう。それはいわゆるスターという意味じゃあなくて、天才と〇〇は紙一重というとこでの危うい超人さ。まあ本人的には何にも考えてないんでしょうけれど(いやその実結構演技に対しては至極真面目で勤勉ていうのが本当のとこらしいですが)、サド・キアヌとかあまりの”いい人”ぶりが話題になったりするのも、そういう”普通じゃあない”個性が魅力に昇華してるからなんでしょう。そんなキアヌが元DJで今有名建築士、しかも家族を愛するマイホームパパ(ってまあよくもここまでイヤミな設定考えるもんだ)という、(普通じゃあないけれど)普通の人を演じるってだけで違和感がありまくり。で、そんな彼が二人のビッチのに散々いたぶられる訳ですが、まあ最初の方は彼のイヤミないい人ぶりがやたら鼻についたりして気持ち悪いし、二人のビッチもまあこれ見よがしはビッチぶりが結構ありきたりで正直退屈だったりしたんですが、なんでしょう、二人の行為がエスカレートするにつけ、キアヌ
へのいたぶりが暴力を伴う凶悪なものになっていくにつれ、その悪意が快感に変わっていくこの感じ。そう、これはもう完全にM御用達映画(というかキアヌが主人公って時点でM用映画なんですが)。なのでM気質の方には最高にクールなポルノです。逆にSの方は二人に感情移入しづらいのでつまらないかもしれませんが。まあそんな事はともかく、とにかくキアヌがすっごい楽しそうで。もうそれだけでなんか嬉しくなりました。★★★

「エクス・マキナ」
これ結構期待してました。アレックス・ガーランドのSF趣味は結構なもので、特にシナリオ作「サンシャイン2057」の太陽光宇宙船(正確ではないですが)の描写のリアルさ(多分科学的には違うんだろうけれど映画としてのリアル)はSF者としてかなり引かれる者がありました。そんなガーランドの初監督作でしかもAIものと聞いたら期待しないわけにはいかないわけで。てな訳で「エクス・マキナ」。期待にたがわずザ・SF映画でした。しかもちょっと古風な感じの本格SF。基本的には「AIはどこまで人に近づけるか?」というよりは、「人って結局何なんだ?」ってとこがテーマ。まあSFの存在意義自体が現実問題の思考実験っていうところが大きいので、それだけでもこの映画が本格的なSF映画ってことがわかるのですが、内容もそうだけれど映像的にもSF。特に実験場と対比される大自然の美しさまでもが妙に人工的な美しさだたりするところなんか、実は全てが仮想なんではないかというような含みまでもたせてしまうセンスの良さ。ディティールのこだわりも素晴らしいし(まさか映画でウェットウェアが見られるとは思いもしませんでした)、アンドロイド(正確にはロボットですね)たちの動きも細かいところまですごく気を使われてます(無駄な動きがなく、動作にブレがないっていうのがオシャレです)。いや本当にこの監督、SF好きなんですねえ。ストーリー自体はまあ結構SF小説ではポピュラーな内容で、取り立てて目新しいものではないけれど、それをここまで真剣に真正面から語った映画は初めてかもしれません。とにもかくにも現代SFを語る上で重要な映画であることは間違いない、至極真面目でまっとうな好感度大の佳作です。余談ですがスピルバーグの「AI」と比べてみると技術と理論の進歩が見えて面白いです。
★★★★

「リザとキツネと恋する死者たち」
面白い。面白いんだけれど。なんだろうこのしっくりこない感じ。いやほんと面白いんですよ、ハンガリーでなぜか日本押し。しかも昔懐かしいなんちゃってニッポン。それがまた妙に気持ちいい。で、ストーリーがブラックコメディ。なんというか何気に偏差値が高く、かなりオシャレなダサ映画です。それはほんとわかってるんですが。そんな偏差値の高さやオシャレ感がちょっと引っかかるというか、ちょっと鼻についちゃうのは、それが愛とか好みとかじゃあ無くて、「こう言うちょっと変わったものを作っとけば話題になるかも」的な計算が見えるからでしょうか。それを一番表してるのが恋人となる男性のキャラ。何があっても死なないキャラっていう設定はまあいいとして、その見せ方がいかにも面白いでしょうこれ的なオチに使われてるのは、オシャレな計算の結果だと思うんですが。まあそんな事は捻くれ映画マニアの戯言で、素直にトミー谷のエセGSサウンドに酔えばいいんですがね(そういう意味でオープニングのノリで全編通してくれたら最高だったんですが…)。
★★★

「10クローバーフィールドレーン」
予告編で騙された映画。というか、そもそもクローバーフィールドって言葉に騙された映画でした。いや、これっていわゆる普通の限定空間スリラーじゃあないすか。最近のJJのマーケティグ重視がちょっとやりすぎ感が強くなってきたかなあと思ってたのですが、クローバーフィールドって言葉で無垢な怪獣映画ファンをだまくらかすのはちょっとひどいんではないかと。かくゆう自分もその騙された一人として(だって予告編と題名から壮大な侵略SFだと思うじゃあないですか)映画の評価云々の前にちょっと憤りを感じた次第で。
とはいえ映画自体はそれほど悪いものでもなく、この手の映画で一番大事な支配者をジョン・グッドマンが的確かつ変にやりすぎない力の抜けた演技で(やりすぎちゃうとバランスを崩しまくるほどの存在感がこの人にはあるので)狂気の先を見せてくれるし、主役のメアリー嬢は芯の強い今時の女性をたくましく演じております(少し儚さが足りないのはまあご愛嬌)。実際、登場人物が3人なので、緊迫感とかスリル、サスペンスは型通りというか、パターンが足りないかなあと思ったりもしますが(やはりこの手の映画の場合、最低5人程度はパターン化したキャラが必要かなと思ったりします)、まあそれは実質低予算のB級映画としてはこれが限界なのかもしれません。とにかくクローバーフィールドって変な勘ぐり(とJJっていうアイコン)がなければそれなりに楽しめる映画ではないでしょうか。まあでもそれだと日本では公開されないだろうし、そもそも製作もされないくらいのありきたりの物語ですが(苦笑)。
★★

「レジェント 狂気の美学」
圧巻のトムハ祭り。実在した有名なギャング兄弟の野望と凋落を描いた実録物なのだが、もうそんな事は正直どうでも良くて、とにかくトムハを堪能する映画です。冷静で知性的だけれど冷酷な兄と、キ◯ガイでゲイの弟という双子の兄弟ってだけでキャラ強すぎですが、その双子をあのトムハが一人二役で演じるという、もはや冗談としか思えない企画を実現して見せた事自体がもう素晴らしい。そしてトムハ。ゲイのキ印でサイコパス(っていうより本当に精神病なんですが)の弟を、作りこみまくり、誇張しまくりでもはやコントにしか見えない演技でやりきった感がたまらなく楽しそう(というかこんな演技でこのキャラを成立させてしまったトムハの演技力って本当面白い)。一見知的で冷静な色男の兄の方は逆に普通っぽさを要求されて少々息苦しそうだけれど、そこはきちんと抑えつつ持ち前のイケメンぶりを冷静に発揮。「オン・ザ・ハイウェイ」や「レヴェナント」(これは熱演すぎるディカプリオより個人的には名演だったと思う)で見せた基本の演技力を存分に堪能させてくれます。映画としては兄の恋人目線で進むのでごくマイルドなギャングとなっているので見やすいし(そこここに「グッドフェローズ」の影響が見えるのがご愛嬌)、ストーリーも実話が元になっているだけあって至極わかりやすい。ので結構この手の映画が苦手な方にも受け入れられるのではないかと思うのですが、そんなこんなをトムハの強烈キャラがある意味ぶち壊してしまってるがこの映画の素晴らしいところ。とにかくトムハという稀代の役者を堪能するのはまたとない怪作です。
★★★★

「貞子VS伽倻子」
人生初MX4D。でこれを選んだのはひとえに内容なんかどうでもいいと思ったから。もはやギャグでしかない貞子と伽倻子が戦おうが何しようがまともな映画になるわけがないし(というかキワモノ映画以外何者でもないし)、実際、場末の遊園地のお化け屋敷的な驚かせぐらいしかこの映画には期待して無かったので(びっくりと怖いは全く別の感情なので)、椅子が揺れたりとか水が吹き出たりとか風が吹いたりとかそういうギミックがあって初めて観れる映画だろうと思ってたので。いやゴメンなさい。ちょっとなめてました(でもちょっとだけ)。思いの外良くできた映画でした。こう言う対決もので良く出来たもので思い出すのは「フレディVSジェイソン」。もちろんこれもキワモノ映画だったけれど、対決に至る流れとか、二人のキャラの関係性とか至極真面目かつ真剣に練られていて、対決すること自体に違和感を感じなかったのはこう言う映画では本当に素晴らしい事。これはもう作り手のこの二つのシリーズへのリスペクトがいい方向に現れたからで、「エイリアンVSプレデター」のようなリスペクトもない腑抜けた映画と違うところ。そういう意味で今回の「貞子VS伽倻子」も両シリーズへのリスペクトが垣間見えたのはグッド。そして何より所詮B級のお祭り映画と割り切ってるところが素晴らしい。こう言うと欠点みたいに聞こえるけれど、この手のキワモノ企画の場合、実はこれが一番大事なところで、観客が一番観たいのは貞子と伽倻子がガチで戦って殺し合うところなわけで、それが大前提。それ以外のドラマや人間関係なんて正直二の次三の次。前記と矛盾してるかもだけれど、これが大前提でそれにどれくらいの説得力を持たせられるかが勝負なわけで。そういう意味でこの映画、その大前提を理解した上での知恵の絞り方がお見事というか開き直り方が心地よいです。まあMX4Dで背中叩かれたり水かけられたりで落ち着いて観れなかったのでなんとも言えませんが(っていうか素直にびっくりしました)、決して悪い映画ではないと思います。楽しかったし。
★★★

「帰ってきたヒトラー」
もし現代にヒトラーが蘇ったら…?ていう危険な映画がドイツで作られる事自体がすごいというか、日本だったら絶対に通らない企画だろうなあと思いつつ鑑賞。正直微妙な映画でありました。まず、この映画がコメディというところ。実際、この手のタイムスリップものとして過去から来た人と現代とのギャップで笑を撮るのは至極王道なのでそこは別に問題ないし、それなりに面白い。でもこれはヒトラー。そんな単純にケラケラ笑っている場合ではないわけで。蘇ったヒトラーが”現代”で本領を発揮(?)して徐々に人々を扇動していく様や、それに感化されていく人々を描くことがこの映画最大のテーマだと思うのだけれど(というかそれ以外この映画の目的ってないでしょう)、そういう意味で最初コメディアンにした設定が素晴らしい。最初冗談として受け入れられていたことが現実に干渉してくるにつれ、狂気に引きづられる人、冷静に過去から学ぶ人、訳も分からずノリに任せてしまう人など、現在の社会状況を踏まえつつ、それぞれの反応が現れてくるところなどは非常に偏差値が高いなあと思うし、映画の中でどんどんヒトラーが魅力的に思えてくるにはもちろんヒトラー役の演技の素晴らしさもあるけれど、それ以上に現代社会とヒトラーが登場した時代の相似性が如実に現れてて少し恐怖を感じたりもします。旅を追ったドキュメンタリー的なシーンでは実際の街の人々の反応をそのまま使用しているけれど、ドイツ人が何気にヒトラーを受け入れていることが結構驚きでした。だからこそテレビ局内のくだらない権力闘争やヘタレでマザコンなテレビマンなど、フィクション(いやもちろんヒトラーもフィクションですが)部分の下手さ、くだらなさがあまりにひどく陳腐で映画全体を壊してしまっているのが本当に勿体無い。これ原作は我が闘争現代版という感じで全てヒトラーの一人称小説なのだけれど、いっその事モキュメンタリーとして描いたほうが遥かに面白く意義のある映画になった気がします。というかそれが観たいです。
★★★