逆光 | 蒼空の霽月

蒼空の霽月

もう何でもあり。

これまでにした霊体験


(いろいろとはしょって書くので、分かりにくくてすみません)



とある亡くなった人の残した持ち物を、 僕と愛方とで片付けたことがありました。

その人は物への執着が病的に強い人で、マンションは床から天井までびっしりと隙間なく物が積み上がり、足の踏み場がない状態でした。


とりあえず大きな家具類をリサイクル業者に引き取ってもらおうと、トラックでの引き取り予約を入れてあったその日。

僕も愛方も間違いなくその時間、そのマンションで待機していました。


だけど、業者さんが来ない。


約束の時間から30分くらい待ったところで、電話をしてみようと愛方がスマホを取りました。


あれ? 着信履歴がある。


その番号に発信してみると、業者さんがいきなり怒り心頭という勢いで電話に出ました。

いわく、


「時間どおりに行ってチャイムを鳴らしたのに誰もいない。20分待ってもう一度チャイムを鳴らす決まりになっているので待ったが、それでも誰もいない。電話しても出ないし、どうなってるんですか💢」


と。


キョトンとする我ら。

だって俺たち朝からずっとここにいたし、電話もそばに置いていた。

でも電話もチャイムも鳴ってないよ…?


受話器の向こうで声を荒げる業者さんに落ち着くようお願いし、こちらの状況を説明しました。

そして部屋番号に間違いはいないか、またそちらにはチャイムの呼び出し音は聴こえたか、もう一度確認してもらいました。


結論から言えば、業者さんは約束どおり来てくれて、正確な部屋番号のチャイムを時間を置いて数回鳴らし、その間に電話もしてくれていたのです。

違和感はなかったから、呼び出し音もちゃんとしていただろうと。


聴こえていなかったのは我々のほうでした。



そういえば午前中、同じく大量に溜め込んであったキャットフードを保護団体さんに送ろうとヤマトのお兄さんに来ていただいたとき、すでにチャイムの音が心なしか弱々しかった気はしました。

じゃあ室内のほうの何かの故障とか、電池切れとかの可能性は…?


家の中に愛方を残し、外に出て呼び鈴を押してみます。


「普通に鳴ってるよー」


次に入れ替わって僕が室内で聴いてみましたが、確かに何も問題なく、通常のチャイム音が室内にかろやかに響き渡ります。

それで、


ああ、物を処分されたくなくて、あの時間だけ、耳を塞がれたのかもな。と。



その後、どちらかといえば僕のほうがそのマンションにちょくちょく出向き、一人で片付けの続きをしていたんですが、カーテンの向こうからずっと視線を感じるわ、脈絡もなく目の前をキャンプ用の鉈?みたいなものが落ちてくるわetc.で。


亡くなったのは60くらいの男性でしたが、カーテンの向こうの気配は8~10歳くらいの男の子のように感じました。

彼がその年頃の子供に戻って、「ぼくのものにさわるな💢」という目でずっと睨んでいる感じがしたんですね。

だからカーテンの向こうに向かって言いましたよ。


「あのね、けんちゃん。俺は君が散らかしっぱなしにしてった物を片付けてるんだよ。君がやりっぱなしだから、誰かがやらなくちゃいけないんだ。分かる? だから邪魔しない。いいね?」


気配は一瞬驚いたように揺らぎ、それからふっと消え。


その後は特に何も起こらず、片付けは順調に進みました。


でも、最後までずっといたんですよね。カーテンの向こうに、やっぱりまた。

前より穏やかに、大人のする作業を黙って目で追っている子供のような気配が。


だから何度か、カーテンの向こうに言いました。


「けんちゃん、邪魔しないでくれてるんだね、ありがとう。えらいね」



彼はしばらく僕の左後ろに付いて歩いていました。そういう気配がありました。

小さな子供のままで、周りを不思議そうにキョロキョロしながら。


だからそれはそのままにしておきました。

こっちで見ていきたいものがあるなら、俺にくっついて見ていっていいよ。


きっと僕を通して見る世界は、彼が知り得なかった愛と光のある世界なのだろう。

見て、しっかり記憶して、今度戻ってくるときは、こういう世界に生み育ててくれる親を選んで帰っておいで。



しばらくして、彼はいなくなりました。




片付いて空っぽになった部屋には、大きな窓からいっぱいに太陽の光が降りそそいでいました。


最後に振り向いて見たその逆光の哀しさを、僕はずっと覚えています。







《BGM》

紙屋 信義/アリオーソ(J.S.バッハ)




 

 

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