台湾語の使役と受け身
1)使役と受け身に使われる前置詞「予(hōo)」
台湾語の使役と受け身の表現で使用されるマーカーは前置詞の「予(互/乎/給)hōo」。この言葉には、動詞の「やる、あげる」という意味もあるが今回は前置詞としての働きに絞ってみてみる。
台湾語の使役&受け身、ただでさえ複雑怪奇なのに、これまた色んな漢字が使われていて本当にマジでガチで頭が痛い。台湾教育部の推薦漢字は「予(hōo)」だが、音をとって「互」や「乎」と書かれることも多い。
さらに日本で出されている台湾語の辞書やテキストでは多く「給」が使われている。ここでもう、頭が割れんばかりの激痛。なぜなら、①「給」と書かれると中国語の前置詞「給」の意味に引きずられて、どうしても「~に」「~のために」と訳したくなってしまう。
②それに加えて、実際に「~に」「~のために」「~に対して」を表す前置詞「共(kā)」も、「給」の漢字を使うことがある。これで混乱しない人がいるなら連れて来て欲しい。っつうくらいのものである。
なので、使役や受け身で使う前置詞「hōo」の漢字は、とにかく自分で「予(hōo)」に脳内統一しておきたい。
2)台湾語は使役も受け身も同じ
使役は簡単に言うと「~させる」。華語では“譲”“使”“叫”“教”などの使役動詞を使う。受け身は「~される」。華語では“被”“叫”“譲”などの前置詞を使う。
が、台湾語では双方とも基本的に前置詞「予(hōo)」を使う。そこがまず一番ややこしいところである。
例えば、使役の文、「母は彼に薬を飲ませた」は
媽媽予伊食藥矣
(Ma-ma hōo i tsia̍h io̍h ah.)
受け身の文、「私のパソコンは彼に壊された」も
我的電腦予伊創歹。
受け身の文、「私のパソコンは彼に壊された」も
我的電腦予伊創歹。
(Guá ê tiān-náu hōo i tshòng-pháinn.)
となる。え?「~させる」も「~される」も同じなの?というところだが、「予(hōo)」のあとはいずれも動詞の「行為者」、すなわちその行為を行う人が来ることに注目すると理解しやすい。
となる。え?「~させる」も「~される」も同じなの?というところだが、「予(hōo)」のあとはいずれも動詞の「行為者」、すなわちその行為を行う人が来ることに注目すると理解しやすい。
上の例文では「(薬を)飲む」の“食”や「壊す」の“創歹”が動詞であるが、その動作の主が前置詞「予(hōo)」の後ろに来る。つまり、使役も受け身も、行為自体には違いはなく、発話者の立場の違いを表すのみ、ということなのである。
いわゆる「台湾国語」の代表例として知られる「我給他打」。一瞬「私は彼をなぐった。」かなと思うが、ご存じのようにこれは「私は彼に殴られた。」という意味である。この文の元になっている(?)台湾語の文がこちら。
我予伊拍。
(Guá hōo i phah.)
(私は彼に殴られた。)
「予(hōo)」は使役にも使われるわけだから「彼になぐらせた」可能性もあるが、そこは文脈で判断するしかない。いずれにしても動詞が表す動作の行為者は「彼」であり、殴ったのは「彼」である。次の一文もちょっと混乱する例。
予你找。(Hōo lí tsāu.)
「予(hōo)」は使役にも使われるわけだから「彼になぐらせた」可能性もあるが、そこは文脈で判断するしかない。いずれにしても動詞が表す動作の行為者は「彼」であり、殴ったのは「彼」である。次の一文もちょっと混乱する例。
予你找。(Hōo lí tsāu.)
(おつりをください)
「予(hōo)」の後は行為者なので、おつりを出すのはあなた、なのだが、やはりパッと見「あなたにおつりをあげます」に思えてしまう。まだまだあるぞ。
我予你請,真多謝。
「予(hōo)」の後は行為者なので、おつりを出すのはあなた、なのだが、やはりパッと見「あなたにおつりをあげます」に思えてしまう。まだまだあるぞ。
我予你請,真多謝。
(Guá hōo lí tshiánn,tsin to-siā.)
(おごってくれてホントありがとう。)
私があなたにおごったんじゃあない。何度も言うが“予”の後は行為者。だからおごったのはあなた。あの鐘を鳴らすのもあなた。
不通予伊進来。
(おごってくれてホントありがとう。)
私があなたにおごったんじゃあない。何度も言うが“予”の後は行為者。だからおごったのはあなた。あの鐘を鳴らすのもあなた。
不通予伊進来。
(m̄-thàng hōo i ji̍p--lâ.i)
(彼を入って来させるな)
予伊食去。(Hōo i tsia̍h--khì.)
(彼に食べられちゃったよ。)
予醫生看。(Hōo i-sing khuànn.)
(医者に見てもらう。)
とにかく、「~して」というときも、「~してくれる」というときも、「~させるな」いうときも、「~された」というときも、「~してもらう」というときも、とにかくとにかく「予(hōo)」のあとは行為者がくる。そのあとの動詞の動作を行う(行った)人がくる。
我共你洗。(Guá kā lí sué.)
(あなたのために洗ってあげる。)
我共你講。(Guá kāh lí kóng.)
(私はあなたに対して言う→ちょっと聞いて)
使役&受け身の表現と違って、「共(kā)」のあとに来るのは行為者ではない。そう、こちらは動作の行為者は主語で、そこが「予(hōo)」との大きな違いである。
(彼を入って来させるな)
予伊食去。(Hōo i tsia̍h--khì.)
(彼に食べられちゃったよ。)
予醫生看。(Hōo i-sing khuànn.)
(医者に見てもらう。)
とにかく、「~して」というときも、「~してくれる」というときも、「~させるな」いうときも、「~された」というときも、「~してもらう」というときも、とにかくとにかく「予(hōo)」のあとは行為者がくる。そのあとの動詞の動作を行う(行った)人がくる。
3)「~のために」「~に対して」を表す「共(kā)」との違い
次に「~のために」「~に対して」を表す「共(kā)」との違いも見ておこう(「共(kā)」についての詳しい説明は次回)。
我共你洗。(Guá kā lí sué.)
(あなたのために洗ってあげる。)
我共你講。(Guá kāh lí kóng.)
(私はあなたに対して言う→ちょっと聞いて)
使役&受け身の表現と違って、「共(kā)」のあとに来るのは行為者ではない。そう、こちらは動作の行為者は主語で、そこが「予(hōo)」との大きな違いである。