※2018年の記事に加筆しました。中国語初学者の方が読まれると混乱なさると思うので、上級者の方のみの閲覧をお願いいたします。上からで本当にすみません💦
台湾映画『對面的女孩殺過來(ロマンス狂想曲)』で、気の弱い主人公の阿正(台湾男子)が、気の強い中国女子に
「我有説嗎? 有嗎?」
(オレそんなこと言った?そう?)
と言う場面がある。そう、この「有」は、台湾華語2大スターの一つ。教科書的な使い方以外の「有」の用法をまとめてみよう。
1)助動詞化した有
あれは20年ほど前。台湾のことをあまり知らなかったとき。ある会合で台湾からの客人に「我記得,你去年有来,她也有来。」(あなた去年も来てたでしょ。彼女もね。)と言われてハッとした。台湾では「有」をこんな風に使うと知識としては知っていたが、でも実際直接キッパリ言われたのは初めてで、なんかドキドキしたのだった(今では自分も平気で使うよー)。
台湾での由来は台湾語と考えてほぼ間違いない。
你有食無? (lí ū tsia̍h bô ?)
―― 有食! (ū tsia̍h!)
(ご飯食べた?― 食べたよ!)
この「你去年有来」などの“有V”表現(助動詞化した「有」)はずっと「台湾国語」の一つの大きな特徴であるとされてきたけれど、中国の南方の言語(方言)では同様の言い方をするものも多いので、台湾だけの現象とは限らない。
また、最近は両岸の言語的境界はかなりあいまいで、中国でも「有V」を使うヤングはけっこういる(オトナは苦々しく思っていたりする)。今のところ教科書的にはアウトだけど、この使い方なかなか便利なので、将来規範的な表現になる可能性もないことはない。
2)「有」と「要」で習慣的動作と近い未来の動作を区別する
普通話では助動詞などを用いて習慣的な動作と近い未来の動作を区別することは基本的にない。例えば習慣を尋ねる「あなたはたばこを吸いますか」も、今吸うつもりがあるかを確認する「あなたはたばこを吸いますか」も、「你抽煙嗎?」或いは「你抽不抽煙?」でまかなえる。
台湾華語ではこの二つを区別する。習慣を尋ねるときは、上記1)で書いた助動詞としての「有」を使う。
你有沒有抽煙?
あなたってタバコを吸うの?
それでもって、近い未来の動作を表すときは助動詞「要」を使うのである。
你要不要抽煙?
タバコ、吸う?
このあたりも多分台湾語の影響が大きいと思われる。
你有食薰無?(Lí ū tsia̍h-hun bô?)
あなたってタバコを吸うの?
你欲食薰無? (Lí beh tsia̍h-hun bô?)
タバコ、吸う?
3)「彼はいますか?」の「他有在嗎?」
「彼はいますか?」は、普通話の教科書的には「他在嗎?」である。なのになぜ台湾ではよく「他有在嗎?」と言うのか。「彼は今日はいませんよ」は、「他今天不在。」でいいはずなのに、どうして「他今天没有在。」になるのか。台湾語の文法がわかればそんな疑問もスッキリ解決する。
台湾語の「有(ū)」にはとにかくいろんな働きがあるのだが、強調や確認の意味もある。だから動詞の前にだって、助動詞の前にだって、形容詞の前(次の4で説明)にだって、なんなら副詞の前にだって、持ってこれるのだ。
台湾語で「彼はいますか?いるんですか?」は
伊有佇咧無? (I ū tī-leh bô?)
彼はいますか?
となる。「佇咧(tī-leh)」(華語の「在」にあたる)の前の「有(ū)」は前述の「確認、強調」といった意味だろう。この文型をそのまま華語に直したものが他有在嗎?(彼はいますか?)なのである。
4)形容詞の前にくる「有」
最後に、形容詞につく「有」について。例えば「她有漂亮嗎?(彼女ってきれい?)」のような言い方。普通話の教科書的な言い方ではまず使わない。台湾でもさすがに教科書には載っていないが、巷ではふつうに使われている。
で、これもどちらとも台湾語の影響というのが通説。
台湾語の形容詞の特徴として、確認の意味を強調するときに形容詞の前に「有(ū)」がつくというのがある。「彼女ってきれいなんですか?」みたいなニュアンスか。そういうときには
伊有美無?(I ū suí--bô )
彼女ってきれいなの?
この台湾語の形容詞につく「有」が、そのまま台湾華語の表現、「有漂亮嗎?(きれい?)」になっているのである。