ラブストーリーとしてはけっこうつまらない。ただ反目し合ってただけの主人公二人が、酔った勢いとは言えいきなりのベッドシーン。そりゃないやろー、早すぎるやろー。
戦争で引き裂かれた教師と生徒の恋愛も、具体的描写に乏しくリアリティに欠ける。歴史的背景や問題点は別としても、「壮大なラブストーリー」にはピンと来ず。そういうこともあっただろうとね、頷くのみ。
でも、登場人物の誰もがそれぞれ悩みや心の痛みを抱えながら、だけど何とかかんとか生きている。不器用でも何とか頑張って生きている。そのあたりの描き方がうまい。シンプル&ユーモラス。で、ぐっとくる。
みんなそうだよなあ。ホントにもう、うまく行かないことばかり。毎日イライラむかむかしてる。社会のせい、人のせいにしたい気持ちと戦いながら、何とかかんとか生きている。
でもみんな誰かを愛していて、誰かに愛されているんだとこの映画は教えてくれる。ふつうの、静かな、気づかないくらいの愛もそれぞれにちゃんと描かれていて、見ていて落ち着く。
父親のいないダーダーも。彼女を好きな男の子も(茂伯の孫)。ダーダーの母親も。必死でお酒の営業をするマラサンも。そのマラサンに惹かれていくフロントの女の子も。
妻に出て行かれたローマーも。息子を案じるローマーの父親も。アガの母親との再婚をアガに祝福してもらえない議長も。アガの母親も。叶わぬ恋をするカエルも。カエルに愛されている老板娘も。
郵便配達をサボっていたアガを叱りながらも、一緒に海角七号の場所を尋ねてまわる茂伯も。アガのせいで溜まった遅配郵便物を代わりに配達してまわるバンドのメンバーや議長の仲間たちも。
夢破れて自暴自棄のアガと、モデルになれなくて不満爆発の友子。この二人はなかなかにひどいけど(アガは仕事もまじめにやらないし、友子のヒステリーはぶつける相手をまちがえてる)、
それでも若いときには誰しも、そのくらいの過ちは起こすかな。と、我が身を振り返れば思えます(汗)。
中孝介(あたりこうすけ)の歌う『それぞれに』の流れる場面。一番好きです。シャッターをあける老板娘の目の前に立つカエル。その立ち姿だけで彼女への切ない思いが伝わってくる。そして神父さまがダーダーの頭に手を置いて、神様は父のように見守っていてくださる。と微笑むところ。ここだけは何度見ても泣ける。
だから大好き、海角七号。