比較的、協力的な発言をしていた白江さんというママが自分から、
「どうしても謝恩会を手伝いたい」
と、いうので緑子さんはお願いしました。
しかし、この白江さんも新たな火種を作るだけでした。
白江さんの提案は、
「ゼロ歳児から卒園時までお世話になった担任の先生をすべて招待したい」
と、言うものでした。
この提案には、ママ全員が賛成しました。
「それいいね〜。賛成賛成〜」
と、なります。
だって、いい話じゃないですか。
0歳から6歳までお世話になった先生を呼ぶのです。
しかし、現実問題としてどうでしょう?
と、いうのも、
公立保育園なので先生方はすべて地方公務員です。
当然、公務員規定はとても厳しく、親御さんから菓子折りといった心づけをもらってはならないという厳しいルールがあります。
それ以前に、個人情報保護の観点から、移動された先生方の連絡先を教えていただくことはできません。
すべての先生どころか、誰一人、来てもらうことができない可能性もあります。
それを考えただけでも、現実問題として不可能です。
しかし、白江さんは、自分が担当するからと譲りません。
白江さんとよく家族ぐるみで遊びに行くという赤子さんというママも、
「わたしは、◯◯先生とは個人的にお友達から大丈夫。その先生に頼めばいいだけでしょう?」
と、すっかりその気になっています。
それでも、緑子さんは、
「お世話になった先生は全部合わせると20人以上います。全員と連絡を取るとなると、ものすごい労力です。お手紙を出すにもけっこうなお金がかかります。現実問題として冷静に考えると、不可能ではないでしょうか?」
「大丈夫よ〜。とりあえず、声をかけられそうな先生に声をかけるだけかけてみましょうよ〜。ねぇ〜。わたしに任せといて。だって緑子さん大変でしょう。わたしと赤子さんで手分けしてやるから。ねっ」
白江さんと赤子さんは、すっかり乗り気です。多数決で、とりあえず、二人に任せるということになりました。
結果、どうなったか?
その市区町村にはひとつの職場に5年間の在籍しかできないというルールがあったので、最終学年時はほとんどの先生方が園からいなくなっていました。
園長先生に、その行方を聞いても、
「お教えできません。ご招待はお断りします」
の、一点張りだったそうです。
赤子さんは、園長先生の態度に憤慨し、そのことを皆の前で報告すると、例の飯山さんは、
「園長を謝恩会に呼ぶのはやめにしよう。あんな奴の分まで金を払いたくない」
と、言いだしました。
驚いたことに、その意見に賛同するママはほぼ半分もいました。
結局、先生たちを呼ぶというのは不可能となり、ほとんど会議の議題にも上がらなくなったある日、緑子さんは園長先生に呼び出しをうけます。
その理由は、
「謝恩会への招待の話はお断りをしたはずです。にもかかわらず、未だにある特定の先生方だけに声をかけているというのはどういうことですか?」
白江さんは先生方全員のリスト作りから始めて、なんとかすべての先生方と連絡が取れないものかと奔走していましたが、赤子さんは、個人的につながりのある先生と、その先生から連絡のつく先生にだけ連絡を入れて、その際、
「◯◯先生には言わないでくださいね。あの先生はみんなあまり好きじゃないから呼びたくないの」
そう、言っていたそうなのです。
その招待を受けた先生が園長先生にこの話をして、「ルール違反だ」と、園長先生が、大変憤慨されて断られたというのが、事実だったのです。
にもかかわらず、赤子さんは、どうしても自分が個人的に仲の良い先生だけは呼びたいらしく、
「当日、来ちゃえば大丈夫だから」
と、誘っていたと言います。
園長先生は緑子さんに、こう言いました。
「担当の先生だけでなく、給食を作ってくださっていた方、用務の先生や臨時の保育士さんも、みなさん、児童の先生方です。
招待するなら、そういう方々も招待するのが筋だと思います。
それを、好きな先生だけ呼ぶようなことをされるのは、マナーとしてどうかと思いますよ。
そういう思いもあって、私の方から辞退させていただいたということを緑子さんにはきちんとお話をしておきたいと思いました。
おそらく、緑子さんには違う形で報告が行っていることでしょう。
わたしのこと、かなりひどいこと言っていたでしょう?
あのお母様たちと一緒に話を進めていくのはさぞかし大変でしょうね。
わたしは毎年、こういうトラブルを見てきました。
本当は、先生たちにも参加させてあげたいんです。
でも、必ず、トラブルが起きます。わかってくださいね」
園長先生は、すべてお見通しだったというわけです。
最終的に、言い出しっぺの白江さんは、この件に2ヶ月あまりもかかりきりだったのに、誰一人呼べないという結果に終わり、さらに、赤子さんからは、
「白江さんの仕切りが悪いから、わたしまで恥をかくことになっちゃった。できもしないのに、やろうなんて言わないでほしいわ」
と、周囲のママ友たちに吹聴され、家族ぐるみで付き合っていた白江さんと赤子さんの関係は完全に崩れてしまいました。
それから、白江さんはなにかと緑子さんに近づき、
「あの件では本当にごめんなさい。でも、わたし一生懸命やったのよ。お願い。他に何か手伝わせて」
と、言ってくるようになりました。
この件で、緑子さんは、赤子さんが、信用できない人物だということを知ることとなりました。
つづく
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