不完全な切り紙細工 -9ページ目

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 

 南中する太陽を背にして北に向かって歩く

 噴き出す首筋の汗に更に熱

 乾いている道の土

 通りの日時計も熱射に溶ける如くに



 小径を曲がったところに思わぬ日陰

 岩壁に寄り添って空を覆った大樹の影の

 黒さを更に黒く濡らしていた湧き水と歯朶

 くすんだ緑の中から冷たい水の匂いがする



 夏の白昼の切り立った日影の

 束の間の涼しさに人生を観る

 一刻の涼ありてこそ熱き道をなお歩きゆく

 ただそれだけのものであるこの生を