不完全な切り紙細工 -62ページ目

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある










梅雨の合間に山道を歩いた
木々の濡れた匂いの中に不意に甘く強い香り

見上げると苔むした岩壁の高みに一群れの山百合
鮮やかな白と黄と赤の花が暗がりに浮き上がる



もはや祀られる神とは無縁の縁結びで人寄せする
飾り立てられた虚しき御社(みやしろ)の奥の道

誰に気づかれることもなく静かに咲いて
誇り高き匂いだけを投げて寄越したのか



森深ければ人住まず
人集まれば杜(もり)空しくなりて

ただ山百合のみ古(いにしえ)の神を知るらし
人の愚かを雨よ流せと微笑んでいた