不完全な切り紙細工 -41ページ目

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある







 
 
    住宅街を抜けて畑の近く

    古い崩れかけの土壁に薄いブルーシート

    なぜかそれを乗り越えて

    壁を超えてきたのは

    葉の形から水辺の草だと思った

    その葉陰の土壁はしっとりと濡れて


    つい壁越しに向こう側を見て驚いた

    壁の向こうは小川

    一面に水草が繁茂していた

    こちら側は乾いた道

    なぜ乾いた道の方に伸びてきて葉を広げたのだろう

    
    理由は考えてもわからないけれど

    もしかして光を求めたかと思ったが

    壁の向こう側も光は十分に当たっている

    伸び広がって行きたいのか

    お前たち


    少なくとも土壁が乾ききって崩折れていないのは

    水草が導いてきた水の広がり



    ああ言葉もない

    理由もいらない

    ただ生きてあることは一人ではないと思った

    ただの土塊(つちくれ)のような壁と

    草の葉の深き緑の

    夏の日のデュエット

    ただそれだけでじゅうぶんだ