闇の奥から | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 完全なる闇ではない

 微かに物の影も形も見えて

 すべてではないけれど見える色もある

 そんな夕闇の向こうから

 囁(ささや)く声が聞こえてくる



 はるか遠い未来の人たちが

 懐かしんでは語っている夏の夜の

 夢のような思い出が

 

 川面の黒

 透明な漣(さざなみ)に重なって揺れる舟

 舟に重なって揺れている

 愛し合う男と女の

 未来の記憶が

 波音が舟の底から

 そっと漏れ出すように

 聞こえてくる



 月の出ていない

 小さな夜の細(さざれ)歌