海を見る位置 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 見る位置で見え方は変わる

 どんなものでもそうだけれど
 海は大きいだけに
 その見え方の変わり方は大きい

 空から見れば
 海は何処までも広がる海原
 微小な光の粒子のような波の飾りを光らせる平板

 その下には恐ろしい程深い水深の
 巨大なプール
 鯨さえ小魚にしか見えない大洋

 小湾を望む高台から見れば
 陸の腕に抱かれた磯伝いの道と港
 漁(すなど)る船の帰り来る場所
 
 嵐の日には安全を与える避難場所
 そして時には
 心さえ包む平穏の夢

 海近く水の高さに寝てみれば
 海は打ち寄せる波の
 真っ白な泡のクレープを広げる波打ち際

 波音の繰り返し繰り返し
 疲れた胸の奥深くに流れ込んでは
 過ぎてきた時間を洗い流して行く

 浜辺に立って遠く沖合を眺めれば
 海は果てしない未知
 身近な漣(さざなみ)が水平線を目指して揺れていき

 刻々と深まっていく海の深さの
 遂には嗚咽するまでに深き慕情を
 呑み込んで静まり返る青い水域

 まるで神が祈る者たちの願いによって
 その顔(かんばせ)を変えるように
 海は我らの望みを映して変容する

 どの海も
 どのような海も皆
 その変容の力ゆえに深き一つの海だと感じる


 海
 この星の上にあって唯一ただひとつのものよ

























By the Sea by Geoff Cawthorn