砂に描く | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 砂に絵を描くために
 僕は小さな浜辺をほしいと思っていた

 絵を残したいと思ったわけではない
 描いているあいだ人には邪魔されたくなかったからだ

 描き終えて
 大きな絵なら高台から小さな絵ならその場から見る

 そうしたら潮が満ちてきて
 波が絵を少しずつ洗い流して消し去る様子を眺める

 あるいは描き終えるか終えないうちに
 時折まるでひとときの情熱のように吹き荒れる風が

 砂を小刻みに巻き上げては絵の線を小さくちぎって
 絵を空に送り届けてしまうのを見る

 どちらにせよ僕の絵は僕の想いを離れ手をも離れて
 描かれたのかどうかさえわからないようになる

 波のまだ遠いとき風のたまたま凪いだときだけに
 そこに存在しやがて命のようになるものを

 僕は作ってまたそれを静かに失うことを願っていた
 描くことが生きる命の証しであり象(かたど)りであるようにと

 でも何処かで僕は散り散りになり消え去った僕の絵が
 僕の見知らぬ遠い浜辺で

 誰も見ぬまま静かに憩っていることを
 密かに自分にも知らせずに願っていたのかもしれない

 そうだとしたらそれは最初から望むうちから
 夢の敗北を意味していたのだろうか

 そのことに答える力は僕にはない

 わかるのはただ砂というこの上ないキャンバスを
 僕がいつまでも愛しているということだけだ