砂に絵を描くために
僕は小さな浜辺をほしいと思っていた
絵を残したいと思ったわけではない
描いているあいだ人には邪魔されたくなかったからだ
描き終えて
大きな絵なら高台から小さな絵ならその場から見る
そうしたら潮が満ちてきて
波が絵を少しずつ洗い流して消し去る様子を眺める
あるいは描き終えるか終えないうちに
時折まるでひとときの情熱のように吹き荒れる風が
砂を小刻みに巻き上げては絵の線を小さくちぎって
絵を空に送り届けてしまうのを見る
どちらにせよ僕の絵は僕の想いを離れ手をも離れて
描かれたのかどうかさえわからないようになる
波のまだ遠いとき風のたまたま凪いだときだけに
そこに存在しやがて命のようになるものを
僕は作ってまたそれを静かに失うことを願っていた
描くことが生きる命の証しであり象(かたど)りであるようにと
でも何処かで僕は散り散りになり消え去った僕の絵が
僕の見知らぬ遠い浜辺で
誰も見ぬまま静かに憩っていることを
密かに自分にも知らせずに願っていたのかもしれない
そうだとしたらそれは最初から望むうちから
夢の敗北を意味していたのだろうか
そのことに答える力は僕にはない
わかるのはただ砂というこの上ないキャンバスを
僕がいつまでも愛しているということだけだ