遠い音 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 

 バスタブの湯の中で

 世界の音を聞こうとする


 何という静かな

 無音の谷合い

 世界などないかのように



 光を落とせ



 そして

 身体を確かめてみる

 この骨と筋肉は何のために

 この皮膚は何を求めて



 不意に空高く往く航空機の

 くぐもった爆音

 あの船の港はどこか


 戦(いくさ)船

 それとも旅する者たちの


 遠い音

 やがて消える



 生きるということは

 未知があるということ

 何一つわからない未知が


 新月の夜のように


 誰とともに

 誰のために

 何一つ前置きすることのない

 これからの時間


 夜こそ明日の日

 この身ひとつで占うように

 在りて今

 沈黙の音を聴く