砂の記憶・III | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 どこに住んでいても

 僕はいつの間にか海に引き寄せられる

 街に住んでいても

 不可思議な巡り合わせが起きてまた海の傍にいる

 僕は運命なんてものは信じないけれど

 海は定めみたいなものかと思うことがある

 なぜなのか僕にはわからない

 わかりたいとも思わない

 ただそうであるということなのだ


 きっと年老いたら

 僕は砂になるだろう

 身体が砂になれば

 海が僕の心になる

 海は永遠に揺らいでいるだろうけれど

 砂はいつも風に波立っているだろうけれど

 きっと砂の意識はとても明晰で

 この世界がどのように息をし

 どのように耀くかを観るだろう


 命はそのときには風になっているだろう

 そうした日々に

 僕というものを覚えているのは誰だろうか

 海の波 砂 それとも風か

 いずれであっても

 僕は海の傍にいつまでも居ることになる

 おそらくは

 静かなる砂のものとして

 この身体の記憶の一粒として

 砂はいつまでも熱いことだろう