僕は小さいとき
竹林の中と言ってもいいほどの
竹群に寄り添った家に住んでいた
竹はいろんな音を立てる
風が吹くとその細い傘の骨のような枝の
小さな葉がさらさらと鳴る
風が強くなり巻くように吹けば
葉の音はさらさらを通り越しごおごおと鳴る
部屋の中に居てもその音が聞こえる
夏になれば網戸にした窓から
その葉の音が洪水のように流れ込んできて
音に湯浴みしているような感覚になる
更に風が強まるとごうごうに混じって
甲高いからからという音が聞こえ始める
誰も竹を植え替えたりはできないから
竹はその地下茎から野放図に伸び上がるので
竹のそばには必ず別の竹が居て
そして竹はしなやかな生き物で
風に葦のように揺れるので
竹同士がその太い一本の姿をぶつけ合い
素朴な楽器のように音を立てるのだ
そういう音を昼となく夜となく
聞いて過ごしたせいかどうかはわからないけれど
僕は竹の音を聞くと小さかった頃に
ふっと立ち戻る
竹の藪は深く落ちた葉が幾重にも堆積する
その葉を踏んで歩くことは
何本もの竹の生きてきた時間を
踏みしめることだった
雪の季節には竹の葉は雪を受け止めて重くなり
竹は折れそうなほどに撓(しな)る
でも滅多に折れたりはしない
竹が折れるのは余程の大雪のときくらいのものだ
昼の光が照らし
やがて雪が解け始めるときや
余りにも多くの雪を懐き過ぎたようなときには夜中でも
その葉叢から雪が地面に落ちる
降る雪のようにはらはらとではなく
一時にどさっと落ちるのだ
そしてそのどさっという音の直後に
頭を垂れていた竹が身を起こす音がする
それは重さから解放された葉のざあっという音と
もっと野太い力強いぐいという音だ
僕はそれを竹が唸っているのだと思っていた
そんなこんなで
僕は竹を見るとそれだけでいろいろな音を
思い出し実際に耳を澄まして
小さな葉の揺れて葉同士が触れ合う音を
聞いてしまう
あまり人が居ない場所だった
多くの客が来るわけでもなく
だから竹の音はいわば僕には友だちだった
言葉言わぬ竹のこころを聞いて
僕は育ったから
聞こえてくる音が何を言いたいのかを
音の向こうにある竹のいのちと生き様を
まるで大人の背中を見るようにして育ったのだった