霧の夜
船は緩やかに近づき
漆黒の平野の上に停泊した
錨を預けられたのは森だった
竜骨は風に煽られて嘆いたように重く
帆は荒れていた
しかし月は遠く
停泊は音もなく行われた
平野はまだ眠っていた
虚空船の到来を知らぬまま
幾千もの夢を抱いたまま
安堵の時を
白鳥の如き帆は降ろされて
甲板は静まり返る
怒りはとうに捨てていた
いや怒りだけではなかった
空の海図はもはや必要ではないと
帆綱が風に鳴る音だけが
中空を進んでいった
静寂の地に今帰投した船は
揺れる思いをぴたりと断って
誰一人名乗ることのない休息へと導かれる
そうだ
虚空の波高に疲れた者は
安息の地でやがて平野に墜(お)ちて
眠るのだ
いつかまた空に上り帆を高く上げる日まで
まるで崩折れた鴻(おおとり)のように
深く静かな寝息を立てて
幾百の昼と夜とが過ぎるのも忘れ去る
黎明に平野は知るだろう
誰もその始まりを見たことのない帆走の
大いなる終結と
それによって明らかに示される虚空船の存在を