六月のメタモルフォーゼ | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 あなたは雨に濡れていた

 扉を開けたまま閉めかねて

 誰もいない若葉の庭で


 髪は濡れそぼり

 雨に愛された服の中の

 あなたの柔らかな身体の上を

 幾筋もの雨の川が流れ広がって

 もうそれぞれが区別できないほどになり

 あなたはまるで雨の海


 立ちつくしたまま小刻みに色づいては

 どこまでも広がっていく



 あなたは願っていたのだろうか


 澄みきった深い自由

 自分の名前も生き方も時間さえ

 この雨のように流れていくことを


 決して降りやむことのない雨と同化して

 水色になって生きていくことを



 しかしやがて雨は止み

 あなたは静かな薄むらさきの

 紫陽花の花になって咲いていた