川の流れの届かぬ底で | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 光は届いていた
 けれど川が森を抜けて流れていたので
 光はときに昼でさえ月あかりのように遠く静かだった

 深い川だった
 それにその森は平坦な丘の上に広がっていたので
 水の流れは穏やかで

 川床は長い年月の割に荒々しく
 深い凹凸があって水を妨げた
 その深い川床にあなたの命は眠っていた

 もちろんあなたは地表に生きて
 土の上を歩いていた
 ただ心だけが川の流れの届かぬ底に残されて

 ある日あなたは旅の途中で
 十三歳の少年と出会った
 確証は全くなかったけれど川の底の光を感じた

 閉じ込めたまま眠らせ沈黙させた
 自分の心がそこにあるような気がして
 どうしても少年と話がしたいと

 人生はえてして奇妙な偶然で人を惑わし
 惑わすだけでなく救うことさえあるものだ
 少年は昨日そう本で読んだばかりだったのだ

 川の底の暗闇になぜか光輝くものを
 置き忘れてきたような
 ある日突然やってくる深い戸惑い

 命はそうやって流れゆく川の
 明るい水面から深い川床に届く偶然を
 こともなげに与えてしまう

 明日はきっと光が明るい日になるだろう