月 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 それを失った日
 僕は月を見ていた
 冴え冴えとした美しい満月

 よりにもよってこんな夜に

 そんなことは少しも考えなかった
 月がさせてくれなかった

 その深々と夜空から照らす光で

 そのおかげで僕は失ったことを
 悲しんだりはしなかった

 月
 ただの満月がそれから
 僕の
 何かに

 月でありながら
 月以上のものになった

 物である月が
 物以上のものになったのだ

 
 長い何千年もの年月の後に
 月が失われる日が来るなら
 そのときこそ土になっている僕は
 あの世の神に言うだろう

 あの月を僕の代わりに蘇らせてほしいと
 何億何千という僕が僕と同じように
 救われるはずだからと

 物である月が
 物以上のものになったのだ
 ただ
 あの日
 僕のような人間を
 ただ明るく照らしたことによって