何もない部屋 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 彼はずっと何もない部屋を望んでいた
 それほど広くはない
 窓があるかどうかはわからない
 板の間の
 適当な大きさで引き出しのない机と簡素な椅子
 他にあるとすれば
 窓辺に置かれた一本の一輪挿し
 灯りは特に考えていない
 時刻と天気に任せればよい

 けれど実際は
 彼は何千冊もの本と暮らさざるを得なかった
 それはまるで
 過剰に土盛りしてしまった穴蔵だった
 本が土なのだ
 そしてその土壁はちょっとしたことで崩れるので
 彼はまるで不揃いのレンガでひっきりなしに
 壁を作っていなければならない
 左官屋のシジフォスだった

 しかし
 ある日とうとう彼はその作業を中断して
 永久に再開しないと決めてしまった
 崩れた廃墟のレンガの中に寝起きして
 凸凹の本の床に寝て本を読み
 型崩れしていつ倒壊するかわからない本の椅子に寄りかかり
 もはや読みたいと思った本を探し出す努力も放棄した
 乱数表のページの数字みたいに落ちてくる本を
 手当たり次第に読むことにしたからだ

 望んだことで実現した唯一のことは一輪挿しだった
 もはや近づくことさえ困難な窓辺に置かれたまま
 一輪挿しはこの奇妙な生き物をずっと眺めていた
 本と生き物が風化して風にさらわれる日までずっと
 そうしてやっと彼が望んだ何もない部屋が実現した