熊蜂たちの五月 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

27

 風がキウイの花を揺らしている5月

 透き通る緑が美しい



2



3


 キウイの花粉と蜜を求めて
 熊ン蜂たちがやってくる

 この熊蜂は背が黄色くない
 全身が黒いのだ
 しかも褐色を帯びた羽は
 陽光を受けると
 虹のように煌めく黄金色に光る


4



5



6



7


 一対の脚はとても太くて頑丈そうだ
 羽音もかなり大きくて風に負けていない


8



9



10


 しかも強靭な顎の持ち主だ
 古い木や枯れた竹に穴を穿ち巣を作る


11



12



13



14


 何匹もやってきてキウイの花を次々に訪れては
 花粉と蜜を集めていく

 その動きはとても素速く
 一つの花にじっとしている時間は短い


16



17



18



19


 大きな丸い尻
 いや腹だ


20



21



22



23


 僕はさっきからこの蜂に見とれている
 その機敏な飛行
 僕の顔の近くまで来て羽音を聞かせてくれ
 また花に戻ったりする
 さっきはカメラを持った僕の腕に一瞬だけ止まっていった


24



25


 その中へ
 マダラチョウがやってくる
 アサギマダラにしては裾の斑点が黒い
 蜂たちとは違って
 ふわふわと飛んでくる


26


 こっちが普通の
 というか在来種の熊蜂
 胸部が黄色い毛に覆われているので
 キムネクマバチ
 お馴染みのやつだ


28



29



31


 この黒いのはクマバチの一種だが
 実は外来種
 日本では愛知県豊田市で最初に見つかったらしいが
 何かの輸入品に紛れて日本に入り込んできた
 在来種のキムネと食生活で競合する恐れがあると言われながら
 最初は愛知岐阜にしかいなかったうようだが
 今や勢力を大きく拡大している
 タイワンタケクマバチ


32



33



34



35



36


 こうした侵入者たちを放置すべきか否か
 駆除すべきなのかどうか

 毒性の強いセアカゴケグモも大阪で発見されて以来
 愛知県など東海地方にも出没する
 港がキーだ

 世界のそれぞれの地域に
 固有の種が生息し
 その種を絶滅させないために天敵になりそうな生物や
 競合しそうな生物の侵入を防ぐ
 そういう基本的な方針が国際的にあるわけだけれど

 ときどき
 それが果たして本当にいいことなのかと思うことがある

 人間たちが保護策を講じる前は
 在来種と外来種の戦いは自然に任されていた
 必ずしも人間だけが外来種を持ち込むとは限らない

 確かに人間のせいで多くの種が滅びてきたので
 人間のエゴイズムで種を滅ぼすことは止めなければならない
 そういう方針に僕はおおむね賛成なのだけれど

 戦争で自らの種の一員を大量に殺戮していながら
 種を守れと叫ぶことの矛盾を感じないではない
 だいたい現人類はネアンデルタール人たちを淘汰して
 今が在る

 突然変異するウィルスで人間だって滅びる可能性もないわけではない

 遺伝子解析で推定される人類のイヴから人類が
 かのアフリカの地からヨーロッパ・アジアを経て
 アメリカ大陸へ広がっていったことを考えると
 タイワンタケクマバチだって
 ホモ・サピエンスみたいに領土を次第に広げていきたいと
 思っているかもしれないではないかと

 自然であるとは
 どういうことか
 それがどうあるべきか人間に決定する権利があるのかどうか
 いつも僕はそこに
 引き戻されるのだ

 五月
 外来種と在来種が同じキウイに蜜を求めてやってくる

 僕にそれを押しとどめる権利はないような気がするのだけれど

 その問いへの答えは
 きっと風の中なのだろう



37



 ところでリムスキー・コルサコフの The flight of bumble bee
 日本名『クマンバチの飛行』で有名だが
 実はクマバチではない
 bumble bee はよく似ているがマルハナバチのことなのだ

 童話とかではクマバチは悪者の役を担わされたりするけれど
 そっと手に包めば刺したりもしないほど
 おとなしい蜂

 何が真実であるか
 ゆっくり考えてみないといけないなと思ったりする

 真実もきっと風の中

 五月の風ならきっと
 その真実もやさしく爽やかなのだと思いたい