水に書いた歌 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 水に書いた言葉が
 広がって薄まって消えていくように
 風に乗せた声が
 高く空にのみこまれていくように
 私の笑顔がいつか
 砂のようにさらさらと形を失う日

 私の想いは成就して
 誰にも気づかれないものになるだろう
 応えてくれる必要はない
 ともに在ることすら忘れてしまい
 水のように風のようになって
 愛するから

 私は身体を持つことはない
 なぜなら心が私であるように
 身体そのものが私なのだから
 それを水に浮かべ風に預けて
 後はただ
 ただこの想いを私の命とするようにして

 誰一人聞くことのない歌を
 聞くことがないゆえに魂震わせていく
 その歌を
 控えめな
 けれど直向き(ひたむき)な
 この恋を
 
 この月のこの空の下の
 この焔(ほむら)
 耀(かがや)けど
 かがやけど
 見えないままにいつまでも横たわる
 水の中の太陽よ