思い出の多い分だけ人は涙もろくなり | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 思い出の多い分だけ人は涙もろくなり
 思い出の多い分だけ人は幸せの重み知る

 これから先の長い分ほど人には選択肢が多くあり
 これから先の長い分ほど大きな夢を見るべきだ

 けれど選択肢は振り返る過去の中にあることもある
 あのとき自分はこう思ったのだと決めたとき
 それから今日までの日々の意味は新しくなる

 いのちの後先
 昨日と明日のあいだの今を君は生き
 その両方に向かって決めることがある

 ときには後ろを向くことが前を向くことになり
 前進することで過去が新しくなるものだ

 その時間の難しさと捉えがたさが
 生きるという不思議さを美しくしてしまう根源だ
 
 時が進み事実は決して振り向かないけれど
 人がそれをどう生きていくかは人に任される

 時の後先揺れながら
 人生の海は君を魅了する

 超え難く行く手を塞ぐ時があり
 また僕たちを遠くまでやすやすと運ぶ時がある

 いざゆけよいざゆかん
 この同じ時を生きる者として

 夢の後先かえりみず
 その意味を決めるのは君なのだ




『春の魚』